8月22日(金)イベント告知 ~補足~ ― 2014/08/21 01:07
昨日、「今日ならうちのワンボックスが出せるよ」と鈴木代表に誘っていただいたものですから、22日(金)のイベントで鳴らすスピーカーを九段アコースティック・デザインシステムのショールームへ搬入してきました。スピーカーはレンタカーを借りて運ぶつもりだったので大いに助かった次第です。鈴木代表のお気遣いに感謝。
搬入したら鳴らしてみたくなるのが人情というもので、早速同ショールーム常備のシステムを接続して鳴らしてみたんですが、しばらく倉庫でアクビをしていたスピーカーばかりなもので、まぁ何とも寝ぼけてガサついた不快な音です。こりゃいけないとたまたま鞄に入っていた試聴用CDケースからどんどん盤を引っ張り出してかけ続けたら、さすが一度は鳴らし込んだ個体だけにそれほど時間をかけることなく目が覚めてくれるようです。
「それじゃ当日まで適当にいろいろ鳴らしておくよ」と鈴木代表。お世話になります。これで当日にはそこそこ以上のコンディションで皆様のお耳にかかれるかと思います。
で、当日なんですが、「どうせならついでに聴けない?」という鈴木代表のリクエストで、私の作例「カモハクチョウ」も持ってきてしまいました。当然のことながら主役は長岡先生の3モデルですから、ほんのちょっとしたお披露目ということになると思いますが、個人的にも近年稀な大成功作だと思っているので、皆様にもちょっとだけお聴きいただけると光栄です。
月刊ステレオ2014年8月号に掲載されたわが作例「シギダチョウ」。私が取材日を間違えるという大失態を犯したせいで試聴会の間に合わず、おかげでコイズミ無線などの鳴き合わせの会にも連れて行ってもらえなかったものだから、まだほとんど誰にも聴いてもらっておらず、今回が初お目見えとなる。どうかお手柔らかにお願いできると幸いである。
ところで、アコースティック社ショールームとわが家における「カモハクチョウ」の鳴り方の違いには唖然とせざるを得ませんでした。わが家では「できるだけ音楽の勢いを殺さないように」と、デッドスペースへ入れる砂袋を最小限にしていたのですが、同社ショールームではとてもそれくらいのデッドニングでは収まらず、かなり強めのボンつきが聴こえてきます。
スピーカーというのは多かれ少なかれこういう要素を持っているものではありますが、自作スピーカー、なかんずくフルレンジでBHでというと、この要素が大いに強まってしまうものでもあるなぁ、というのが正直なところです。わがリスニングルームはごく普通の木造洋間ですから低音が抜けやすく、それでやや過剰気味にBHを躾けてしまったところ、アコースティック社の高度な防音室は低域が全く洩れず、しかもわが家と違って適度な響きもついているものですから、意図的に残した最後の僅かなボン付きが何倍にも大きく耳へ届いてしまった、ということなんでしょうね。
というわけで、当日は砂袋をいくつも持ち込み、早めに会場入りして再チューニングにかかる予定です。皆さんがお見え下さる頃にはあの部屋にふさわしいチューニングに仕上げられていたらいいんですが。
それでは当日、皆様とお会いできることを楽しみにしています。
(株)アコースティック・エンジニアリング ホームページ
http://www.acoustic-eng.co.jp/
アコースティック・オーディオ・フォーラム受付
http://acaudio.jp/
搬入したら鳴らしてみたくなるのが人情というもので、早速同ショールーム常備のシステムを接続して鳴らしてみたんですが、しばらく倉庫でアクビをしていたスピーカーばかりなもので、まぁ何とも寝ぼけてガサついた不快な音です。こりゃいけないとたまたま鞄に入っていた試聴用CDケースからどんどん盤を引っ張り出してかけ続けたら、さすが一度は鳴らし込んだ個体だけにそれほど時間をかけることなく目が覚めてくれるようです。
「それじゃ当日まで適当にいろいろ鳴らしておくよ」と鈴木代表。お世話になります。これで当日にはそこそこ以上のコンディションで皆様のお耳にかかれるかと思います。
で、当日なんですが、「どうせならついでに聴けない?」という鈴木代表のリクエストで、私の作例「カモハクチョウ」も持ってきてしまいました。当然のことながら主役は長岡先生の3モデルですから、ほんのちょっとしたお披露目ということになると思いますが、個人的にも近年稀な大成功作だと思っているので、皆様にもちょっとだけお聴きいただけると光栄です。
月刊ステレオ2014年8月号に掲載されたわが作例「シギダチョウ」。私が取材日を間違えるという大失態を犯したせいで試聴会の間に合わず、おかげでコイズミ無線などの鳴き合わせの会にも連れて行ってもらえなかったものだから、まだほとんど誰にも聴いてもらっておらず、今回が初お目見えとなる。どうかお手柔らかにお願いできると幸いである。
ところで、アコースティック社ショールームとわが家における「カモハクチョウ」の鳴り方の違いには唖然とせざるを得ませんでした。わが家では「できるだけ音楽の勢いを殺さないように」と、デッドスペースへ入れる砂袋を最小限にしていたのですが、同社ショールームではとてもそれくらいのデッドニングでは収まらず、かなり強めのボンつきが聴こえてきます。
スピーカーというのは多かれ少なかれこういう要素を持っているものではありますが、自作スピーカー、なかんずくフルレンジでBHでというと、この要素が大いに強まってしまうものでもあるなぁ、というのが正直なところです。わがリスニングルームはごく普通の木造洋間ですから低音が抜けやすく、それでやや過剰気味にBHを躾けてしまったところ、アコースティック社の高度な防音室は低域が全く洩れず、しかもわが家と違って適度な響きもついているものですから、意図的に残した最後の僅かなボン付きが何倍にも大きく耳へ届いてしまった、ということなんでしょうね。
というわけで、当日は砂袋をいくつも持ち込み、早めに会場入りして再チューニングにかかる予定です。皆さんがお見え下さる頃にはあの部屋にふさわしいチューニングに仕上げられていたらいいんですが。
それでは当日、皆様とお会いできることを楽しみにしています。
(株)アコースティック・エンジニアリング ホームページ
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アコースティック・オーディオ・フォーラム受付
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8月22日(金)イベント告知 ― 2014/08/16 10:14
長岡鉄男氏のムック本「現代に甦る、究極のオーディオ 観音力」では、都合3機種の長岡スピーカーを復刻しました。うち1機種、D-3MkIIは横幅を4cm広げた(改)バージョンです。詳しくは以前にエントリで紹介しているので、そちらをご参照いただけると幸いです。
現代に甦る、究極のオーディオ 観音力
長岡鉄男・著 音楽之友社 ¥1,800+税
幸い、今回製作したD-3MkII改とMX-1、MX-10はどれも素晴らしい鳴りっぷりを聴かせてくれましたが、いくら誌面で「いいぞいいぞ」と書いても実際に音が聴こえてこなければそれがどれほどいいものかは読者にお分かりいただけません。われわれオーディオ・ジャーナリズムに携わる者すべてに共通するジレンマでもありますが、ことに自作オーディオ関連は市販のオーディオ機器と違ってオーディオショップへ行けば聴けるというものでもなし、事態は切実です。
D-3MkII改。一見すると単なる懐かしいルックスの長岡BHなのだが、少なくとも商業誌に図面つきで載ったのはこれが初めてではないか。
MX-1。長岡氏が「夢の中で思いついた」という伝説が残る作例で、これ1本だけで部屋中に広がる超サラウンド音場を堪能することができるという「異能スピーカー」である。
MX-10。低音がやや不足することが唯一の欠点と思われたMX-1に対して、長岡氏はMX-2以降長い旅をたどり、到達した「最終結論」というべき作例である。現代のFE103-Solでは別段MX-1でもそう低音不足は感じさせないが、やはり聴き比べるとローエンドの伸びと再生音の雄大さには大きな違いがある。
以前、「外盤A級セレクション(1)」の復刻版が出版された際には、それはそれはいろいろな会場で同書に掲載された音源を鳴らすイベントをやらせてもらいました。手近なところでは自転車で15分のオーディオスクェア越谷レイクタウン店から、遠くは大阪の河口無線まで、使わせてもらえる会場があれば飛んでいって"ゲテモノ"を含む長岡A級ソフトを鳴らしまくったものであります。
新・長岡鉄男の外盤A級セレクション(1)
長岡鉄男・著 共同通信社 ¥3,800+税
そんな中にアコースティックデザインシステムの本社ショールームもありました。同社は、個人的に「最高の音が楽しめる」と堅く信ずる防音室を設計・施工する会社で、東京・九段の自社ショールームへ山之内正氏や麻倉怜士氏ほかを招聘し、音楽とオーディオがクロスオーバーした「アコースティック・オーディオ・フォーラム」という定期的な催しを続けていることでも知られます。
このたび同フォーラムの番外編として、ムックで製作したスピーカーを鳴らすイベントを開催させてもらえることとなりました。開催期日は8月の22日(金)、午後6時30分頃から、お客さんがお見えになり次第ゆるゆると始めていきたいと思います。大体2時間ちょっとくらいのイベントになると思います。
同社の鈴木泰之代表はとにかくオーディオにも音楽にも造詣が深く、もちろん室内音響工学に関しては有数の知見とノウハウ、施工技術を持つ人です。面白いのは、日本大学の建築研究室で長く実験を繰り広げ、音元出版「オーディオアクセサリー」誌に「6畳間のオーディオ学」という連載をずっと持っていらした、オーディオ評論家にして現・デジタルハリウッド大学・学長の杉山知之氏が長年の研究で到達された結論が、アコースティック鈴木代表の造られる防音室の室内音響特性のまとめ方とほぼ完璧に一致しているのですね。
「オーディオアクセサリー」誌でお2人の対談が記事になっていたのですが、あとで鈴木代表からお話を伺うまで、お2人は長い付き合いの知人同士だと思い込んでいました。それが、「いや、たまたま結論が同じになっただけで、対談が初対面だったんですよ」と聞いた時にはたまげましたねぇ。そんなことってあるもんだと。
おそらくお2人は「同じ山を別々に登り、山頂で出会った」ということなんだろうと思っています。オーディオの世界はアプローチする"登山口"が星の数ほどあるので、「ハイ・フィデリティ」という同じ山を登っていても別々の方法論で同一の地点へたどり着くことが極めて少ない業界なんですが、厳格な学術の世界ではこうも見事に複数の研究者が結論を共有することができるんだな、と驚くやらうらやましいやら。科学っていいですね。
そんなアコースティック社の防音室は、世に数多ある楽器練習室のように部屋の響きをいたずらに殺すことはせず、美しい響きを持ちながら嫌な癖がなく、オーディオ的にも突っ込んだ解像度や描写能力を聴かせながら音楽をゆったりと楽しむことができるという「夢の空間」です。ご自宅の新築を考えておられる人、リスニングルームのリフォームを考えておられる人は、一度問い合わせてみられるとよいのではないかと思います。
そんな同社のショールームで長岡鉄男氏の傑作スピーカーを鳴らす。しかもおおよそ30年ぶりにもなるかという「マトリックス・スピーカー」の復刻と、氏が生前「やる気があったらできる」と書き残された横幅の拡幅を再現したバックロードホーンの競演なのですから、ファンとしてはたまらない会になるんじゃないかと思います。
当日はマトリックス向けの音場ソフトと長岡A級外盤、そして最近の新譜からめぼしいものを何枚も持っていこうと思っています。お客さんが持参されたソフトも随時かけられるようにしたいものですね。
残念ながらショールームの収容人数に限りがあるので、イベントは予約制になります。詳しくは下記のアドレスを訪問してみて下さい。会場は地下鉄の九段下駅から徒歩数分、靖国神社の大村益次郎像を右折して道へ出て左折するとほんの数mのところです。当日、皆様とお会いできることを楽しみにしています。
(株)アコースティック・エンジニアリング ホームページ
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アコースティック・オーディオ・フォーラム受付
http://acaudio.jp/
現代に甦る、究極のオーディオ 観音力
長岡鉄男・著 音楽之友社 ¥1,800+税
幸い、今回製作したD-3MkII改とMX-1、MX-10はどれも素晴らしい鳴りっぷりを聴かせてくれましたが、いくら誌面で「いいぞいいぞ」と書いても実際に音が聴こえてこなければそれがどれほどいいものかは読者にお分かりいただけません。われわれオーディオ・ジャーナリズムに携わる者すべてに共通するジレンマでもありますが、ことに自作オーディオ関連は市販のオーディオ機器と違ってオーディオショップへ行けば聴けるというものでもなし、事態は切実です。
D-3MkII改。一見すると単なる懐かしいルックスの長岡BHなのだが、少なくとも商業誌に図面つきで載ったのはこれが初めてではないか。
MX-1。長岡氏が「夢の中で思いついた」という伝説が残る作例で、これ1本だけで部屋中に広がる超サラウンド音場を堪能することができるという「異能スピーカー」である。
MX-10。低音がやや不足することが唯一の欠点と思われたMX-1に対して、長岡氏はMX-2以降長い旅をたどり、到達した「最終結論」というべき作例である。現代のFE103-Solでは別段MX-1でもそう低音不足は感じさせないが、やはり聴き比べるとローエンドの伸びと再生音の雄大さには大きな違いがある。
以前、「外盤A級セレクション(1)」の復刻版が出版された際には、それはそれはいろいろな会場で同書に掲載された音源を鳴らすイベントをやらせてもらいました。手近なところでは自転車で15分のオーディオスクェア越谷レイクタウン店から、遠くは大阪の河口無線まで、使わせてもらえる会場があれば飛んでいって"ゲテモノ"を含む長岡A級ソフトを鳴らしまくったものであります。
新・長岡鉄男の外盤A級セレクション(1)
長岡鉄男・著 共同通信社 ¥3,800+税
そんな中にアコースティックデザインシステムの本社ショールームもありました。同社は、個人的に「最高の音が楽しめる」と堅く信ずる防音室を設計・施工する会社で、東京・九段の自社ショールームへ山之内正氏や麻倉怜士氏ほかを招聘し、音楽とオーディオがクロスオーバーした「アコースティック・オーディオ・フォーラム」という定期的な催しを続けていることでも知られます。
このたび同フォーラムの番外編として、ムックで製作したスピーカーを鳴らすイベントを開催させてもらえることとなりました。開催期日は8月の22日(金)、午後6時30分頃から、お客さんがお見えになり次第ゆるゆると始めていきたいと思います。大体2時間ちょっとくらいのイベントになると思います。
同社の鈴木泰之代表はとにかくオーディオにも音楽にも造詣が深く、もちろん室内音響工学に関しては有数の知見とノウハウ、施工技術を持つ人です。面白いのは、日本大学の建築研究室で長く実験を繰り広げ、音元出版「オーディオアクセサリー」誌に「6畳間のオーディオ学」という連載をずっと持っていらした、オーディオ評論家にして現・デジタルハリウッド大学・学長の杉山知之氏が長年の研究で到達された結論が、アコースティック鈴木代表の造られる防音室の室内音響特性のまとめ方とほぼ完璧に一致しているのですね。
「オーディオアクセサリー」誌でお2人の対談が記事になっていたのですが、あとで鈴木代表からお話を伺うまで、お2人は長い付き合いの知人同士だと思い込んでいました。それが、「いや、たまたま結論が同じになっただけで、対談が初対面だったんですよ」と聞いた時にはたまげましたねぇ。そんなことってあるもんだと。
おそらくお2人は「同じ山を別々に登り、山頂で出会った」ということなんだろうと思っています。オーディオの世界はアプローチする"登山口"が星の数ほどあるので、「ハイ・フィデリティ」という同じ山を登っていても別々の方法論で同一の地点へたどり着くことが極めて少ない業界なんですが、厳格な学術の世界ではこうも見事に複数の研究者が結論を共有することができるんだな、と驚くやらうらやましいやら。科学っていいですね。
そんなアコースティック社の防音室は、世に数多ある楽器練習室のように部屋の響きをいたずらに殺すことはせず、美しい響きを持ちながら嫌な癖がなく、オーディオ的にも突っ込んだ解像度や描写能力を聴かせながら音楽をゆったりと楽しむことができるという「夢の空間」です。ご自宅の新築を考えておられる人、リスニングルームのリフォームを考えておられる人は、一度問い合わせてみられるとよいのではないかと思います。
そんな同社のショールームで長岡鉄男氏の傑作スピーカーを鳴らす。しかもおおよそ30年ぶりにもなるかという「マトリックス・スピーカー」の復刻と、氏が生前「やる気があったらできる」と書き残された横幅の拡幅を再現したバックロードホーンの競演なのですから、ファンとしてはたまらない会になるんじゃないかと思います。
当日はマトリックス向けの音場ソフトと長岡A級外盤、そして最近の新譜からめぼしいものを何枚も持っていこうと思っています。お客さんが持参されたソフトも随時かけられるようにしたいものですね。
残念ながらショールームの収容人数に限りがあるので、イベントは予約制になります。詳しくは下記のアドレスを訪問してみて下さい。会場は地下鉄の九段下駅から徒歩数分、靖国神社の大村益次郎像を右折して道へ出て左折するとほんの数mのところです。当日、皆様とお会いできることを楽しみにしています。
(株)アコースティック・エンジニアリング ホームページ
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アコースティック・オーディオ・フォーラム受付
http://acaudio.jp/
ケーブル大全2015が発売されました ― 2014/07/31 10:12
もうちょっと間が空いてしまいましたが、音元出版から「ケーブル大全2015」が発売されました。2年に一度ずつ、「電源&アクセサリー大全」と隔年で発売されるムック本で、ケーブルとアクセサリーの「年鑑」「図鑑」として大いに役立つ本といってよいでしょう。私ら業界関係者にとっては「座右の書」でもあります。
ケーブル大全2015
音元出版 ¥1,852+税
アンプやスピーカーといったオーディオ機器がほとんど掲載されず、それでいて広告も少なく記事の密度が極めて高いという、オーディオ関連誌としては極めて尖ったジャンルに属するこのムックですが、幸い売れ行きは悪くないようで、刊行が重ねられています。
思えば趣味の世界では「神は細部に宿る」とよくいわれるもので、こういう"尖った"情報をこそしっかりと網羅した刊行物が効果を発揮するシチュエーションが多いのでしょう。実際、ケーブルは「コンポーネンツの一員」と断言してもよいくらいシステムの表現を決定的に左右しますからね。
特に今回の「2015」は例年よりもずっと注目される要素が満載です。もう先刻ご存じの人も多いでしょう。オーディオケーブル業界で導体として大きなシェアを誇っていたPC-OCC(大野連続鋳造法による銅線)の生産が2013年をもって終了してしまったのですね。おかげで昨年からのケーブル業界は阿鼻叫喚の巷といいたくなる大騒ぎでした。オーディオマニアのよく知るあの社もこの社も、軒並み自社製品の生産が続けられなくなってしまったのですから。
しかし、各社ともただ茫然としているわけにはいきません。オーディオ業界はとにかく音楽表現をより良きものへ進めていかなければならないのです。長い年月とあふれんばかりの情熱をもって自室の音質を薄紙1枚ずつ、髪の毛1筋ずつ向上させてきたわが業界のお客様、すなわち私自身も含めたオーディオマニアという存在は、業界の停滞すら堕落と捉えずにはいられません。
まして、「PC-OCC素材がなくなってしまったので昔のタフピッチ銅に戻します。なに、音質なんてそんなに変わりませんよ」なんてことをいうメーカーが現れたら、それは自らの半生を費やして「音楽の真の姿」を探求してきたお客様を否定することになってしまいます。
幸い、わが業界の開発能力は想像を遥かに超えるものでした。PC-OCCの終焉がアナウンスされたと思ったら、年をまたがずしていくつかの有望な高品位導体が名乗りを挙げたのです。
多くの社が最も有望な素材として採用に乗り出したのはPC-TripleCと呼ばれる素材でした。電子機器の内部配線など、極めて繊細な配線材を作るには銅の純度を高くしておかないと線がすぐに切れてしまいます。そういう用途のために生産されている特別に純度の高い無酸素銅をまず太い線材にして、そこから日本刀のように叩いて延ばす、すなわち鍛造することにより結晶の粒界が縦に伸び、導体内接点の害が少なくなるというのがPC-TripleCの最も注目すべきところです。
また、一般の銅線はミクロの目で見ると結構すき間があるのだそうですが、こうやって叩くことですき間を激減させ、導電特性の向上も得られるのだとか。また、これは個人的な推測でしかありませんが、日本刀は叩いて鍛造していくことによって不純物が端へ追いやられ、鋼の純度が高まっていくということを聞いたことがあります。ひょっとしてPC-TripleCにもそんな効果があるんじゃないかな、などと想像が広がります。
音元出版Phile WebのPC-TripleC紹介記事よりスクリーンショットを取らせてもらった。高純度の導体を「叩いて延ばす」ことにより結晶の粒界が縦に伸びていくことが目で見える、素晴らしい図解ではないかと思う。
資料を一瞥した限りでは、かつて日立電線(現・日立金属)が開発したLC-OFCを思わせますが、あれは大きな結晶のOFCを作っておいてそれをダイスで線材へ引く際に結晶を線形とする、というのが技術的な主眼だったと記憶しています。
LC-OFCは細線に引いた後で焼きなまし(アニール)をするとせっかくの線形結晶が元に戻ってしまうと当初考えられていたので、極めて硬くバネ成分の強い線材でした。その結果、何となく中高域が明るく張ったようなイメージで、高域方向にキンシャンとした響きが乗る傾向だったと記憶しています。もっとも、それはすべてのケーブルについてそうだったというわけではなく、オーディオテクニカのスピーカーケーブルや日立電線でも極太の同軸スピーカーケーブルはそれほどのキャラクターを感じなかったことを覚えています。テクニカはむしろずいぶんソフトなイメージでビックリしたっけ。
LC-OFCはその後アニールをしても結晶構造に大きな影響を与えない「メルトーン」と名づけられた素材へ進化します。これはものの見事に中高域の張りや高域の鳴きを抑え、線材の硬さに由来すると思われるキャラクターを排することに成功していました。しかしこの「メルトーン」、少々音が優しすぎるのではないかと私には感じられました。音が前へ飛んでこず、音場も3次元的な立体を思わせるほどにまで至りませんでした。これまでのLC-OFCに対するチューニング手法から抜け切れなくて、「あつものに懲りてなますを吹く」ようなことになっちゃったんじゃないかなぁ、と今にして推測しています。
オーディオユニオンの中古通販サイトから拝借した日立電線MTAX-205の画像。この強烈なピンクのシースはLC-OFCメルトーンの第1世代製品ではなかったか。
「メルトーン」でも市場の主流を奪回することはかなわず、LC-OFCはオーディオの歴史の中に消えていってしまいました。いいものを持っていながら上手くその実力を発揮させることがかなわず、退場を余儀なくされたLC-OFCに対し、PC-TripleCはまさにタイミングを待っていたような絶妙の登場といいその内実といい、これからのオーディオケーブル業界を背負って立つにふさわしい存在へ育っていってくれるのではないかと大いに期待しているところです。
業界に先駆けてPC-TripleCでインコネを発売したのはアコースティック・リヴァイヴだった。例によって独自の楕円単線に成型されたPC-TripleCは、極めて高い磁気効率を持つ「ファインメット」素材のビーズを通すことで高周波のノイズを激減させたこともあり、これまで全く聴いたことのない"普遍"の高みを聴かせてくれた。このRCA-1.0tripleC-FMは1mで16万8,000円と決して安価なケーブルではないが、それでもCPは圧倒的に高いと思う。
PC-TripleCを開発したFCMという会社は一般的な知名度という点ではほとんどゼロに近い社ですが、話を聞いてみるとずいぶん前からさまざまな高音質ケーブル開発にあたり「縁の下の力持ち」をやってきた社だそうで、技術的な裏づけも十分なのだとか。これを聞いて私自身も「あぁ、こういう社なら長くオーディオ業界と付き合っていってもらえそうだな」と、少々ホッとしたものです。
*
一方、PC-OCCが生産完了したのは昨年でしたが、もう少し前に供給が終わってしまった高品位導体があります。今や高級オーディオケーブルの主流となった「高純度銅」の元祖、6N銅線です。1980年代の終わり頃、旧・日本鉱業(現・JX日鉱日石金属)が開発し、自ら「アクロテック」というブランドを立てて高級オーディオケーブル業界へ参入してきた時には驚いたものでした。
ネットを漁ってようやく発見した往年のアクロテック6N-S1040の画像。これはより太い高級バージョンだが、同社の第1号製品でもあるより手ごろな6N-1010は「長さにして地球何周分も売れた」という。オーディオ史に残るケーブルである。
その後同社はジャパンエナジーを経てJX日鉱共石グループに入り、いつしか極めて小ロットのオーディオケーブル業界からは離れていってしまいました。アクロテックの業態は株式会社アクロジャパンが継承し、最盛期には7Nから8Nまで到達していた高純度銅線は日本鉱業からの供給がなくなり、現在は三菱電線工業が供給する7N純度のD.U.C.C.導体がほとんど唯一のものとなっています。
高純度銅線の供給が継続していること自体は大いに喜ぶべきですが、いかんせん7Nとなると6Nよりもかなりコストアップとなってしまい、そうそう簡単に入手できるクラスへ導入するのが難しくなってきます。アクロジャパンの新ブランド「アクロリンク」やエソテリックを筆頭に、世界のハイエンドといって差し支えない高級ケーブル群にはこの7N-D.U.C.C.素材、加えてこちらも三菱電線工業の独自開発となる方形断面の芯線に高品位な絶縁体を付着させたリッツ構造の「MEXCEL」線が用いられていることをご存じの人も多いのではないかと思います。
個人的なMEXCEL導体の初体験がエソテリックの7N-A2500II(¥380,000 1.0m)だった。同社製品は機器もケーブルもとにかく質感が清新で、完璧なフラットバランスなのに音が無味乾燥にならず、「いい酒は水に似る」という言葉を彷彿させる表現が何よりの魅力だが、このケーブルはその持ち味に加え、繊細な音響成分の隅々から生命感が吹き出してくるような勢いを感じさせる。本当に素晴らしいケーブルだと思う。
世の中から6N線がなくなり、そこへ追い討ちをかけるようにPC-OCCまでが生産をやめてしまった。比較的手の届く範囲のケーブルでこれらの素材がどれほど多くの製品に使われていたかを考えると、これはまさしくケーブル業界全体の危機といってよかったのではないかと思います。
転機はやはり2013年でした。あのLC-OFCを開発した日立電線の系譜を受け継ぐ日立金属が、非常に面白い新技術を引っ提げてオーディオ業界に舞い戻ってきたのです。
普通、異種金属を混ぜ合わせた「合金」は硬く、また電気抵抗が高くなります。ところが同社が開発した新合金「HiFC」は、高純度の銅にごく微量のチタンを加えたもので、導電特性は純銅とほとんど変わらず、柔らかさやしなやかさは6Nとほぼ同じ特性が得られるというものです。まさに業界の常識を覆す新技術といってよいでしょうね。
日立金属のサイトより。一般的な4N純度のOFCと6N、そしてHiFCの特性を比較したデータだが、本当に笑ってしまうくらいHiFCが6Nそっくりなことが分かる。
このHiFCは業界に先駆けてゾノトーンが採用に踏み切りました。この社は総帥の前園俊彦氏が「黄金の耳」で各種素材をブレンドすることで「ゾノトーン・サウンド」を紡ぎ上げていますから、純粋に「これがHiFCサウンドだ!」というものは分かりませんでしたが、HiFC新採用の「ネオ・グランディオ」はこれまでよりやや肌当たりが柔らかく、たっぷりと奥行き感を聴かせるタイプになったような気がしています。
HiFC初採用のゾノトーン「ネオ・グランディオ」シリーズより、これはRCAインコネの7NAC-Neo Grandio10Hi(¥83,000 1.0m)。穏やかな質感だがここ一番のパワー感は相当のもので、音楽をゆったりと、そして伸びのびと楽しませてくれる傑作といってよいだろう。
その後、"本家"アクロテックとともに6Nオーディオケーブルの"先駆者"となったオルトフォンからもHiFCを配合した導体のケーブルが登場しました。それも、かなり安価なランクの製品です。こちらは一聴して非常に素直な質感で、そう太いケーブルではないのに結構なスケール感を聴かせます。HiFC、かなり有望な新素材のようですね。
オルトフォンから登場したHiFC配合の導体を持つケーブル群より、こちらはRCAインコネの5NX-505(¥10,000 1.0m)だ。安価なランクながらなかなかの聴き応えをくっきりと印象に残してくれた。
*
実はあまり目立ちませんが、まだ新素材が登場しているのです。昨年になっていきなり登場したと思ったら年末の音元出版「アクセサリー銘機賞」を受賞してしまった塩田電線というメーカーがあります。電線の商社として、また数多くの提携工場を持つ電線メーカーとして長い歴史を持つ同社ですが、一般コンシューマー向けの小ロット製品はこのたび初めて手がけるのだそうです。単なるポッと出のメーカーなどではなく、しっかりとした技術的な基盤と販路を持った社だったというわけですね。
その塩田電線が発売した第1号のケーブルは電源ケーブルでした。C1011と呼ばれるこのケーブルは、両端にプラグを取り付けた完成品と切り売りの両方で市場へ投入されています。2スケアの芯線を持ち、キャブタイヤのVCTF規格を満たす3芯ケーブルです。「2スケア3芯のキャブタイヤなんてホームセンターでも普通に売ってるじゃないか」と思われるかもしれませんが、この芯線がなかなかの優れものなのです。
かつて日立電線のLC-OFCに「Class1」と書かれたグレードのものがあったことをご記憶の人もおられるでしょう。あれは芯線の製造時に水素の含有率を極限まで減らしたものでした。水素イオンというとほとんど純粋なプラスの電荷みたいなもので、芯線に含有されていると、伝送時にそれが芯線から抜け出していき、伝送のリニアリティを損なうと説明されていたように記憶しています。このあたり、もうずいぶん昔の記事を読んだ記憶に基づくものですから、間違っていたらどなたか詳しい方のご訂正を頂けると助かります。
で、このC1011なんですが、Class1のOFCが採用されているのですね。そう、この芯線も日立金属が生産しているものです。それじゃあキャブタイヤといってもずいぶん高いじゃないの? と思ったら、切り売りで1mあたり1,200円+税と拍子抜けするような価格です。
こちらは完成品のC1011POWER CABLE。コンセント側は明工社のホスピタル、IEC側はスイス・シュルター社のプラグが装着されている。どちらも安価なランクでは定番といってよい高品質プラグである。後述する通りどこまでも素直で飾り気なく、しかし相当の情報量を聴かせるケーブルだ。オープン価格だがおそらく2mで1万円もしないのではないか。
音はとにかく素直の一言。見た目はいささか細く頼りないケーブルですが、帯域は結構両端へ向けて緩やかに伸び、特定帯域の強調感は本当になく、音楽をごく自然に表現してくれるタイプと感じられました。高級ケーブルのような「これがハイファイだ!」という主張や機器をより高い次元へ教導するような表現はありませんが、機器の持ち味を過不足なく表現するという点ではかなり素晴らしいケーブルなのではないかと思っています。
*
ふう、新素材について解説し始めたらずいぶん長くなっちゃいました。何たって今年はこういう状況で、これはもうケーブル業界の「ヴィンテージ・イヤー」といってよいのではないかと思います。そんな年に発行される「大全」ですから、もう内容は盛りだくさんという一言では表し切れません。
例年は割合に「オーディオアクセサリー」本誌他からの再録記事が多いムックなのですが、今年はとにかく新製品が目白押しなもので古い記事をそのまま再録したのでは追いつきません。そこで新しい製品やページ数の関係で取材から洩れた製品をずいぶんたくさん追加試聴し、大幅な増補版となっています。私もずいぶんたくさんの新規記事を同誌のために書かせてもらいました。また、新製品の単独記事も充実、これまで長々と述べた新素材についての解説も、福田雅光氏、井上千岳氏をはじめとする先生方が詳細に解説されています。
ケーブルをコンポーネンツの一員と捉え、ご自分の音作りへ大いに活用されているオーディオマニア諸賢へ、特に今年の「大全」は大きな参考となる書であろうと確信しています。どうか書店でご一読いただけると幸いです。
ケーブル大全2015
音元出版 ¥1,852+税
アンプやスピーカーといったオーディオ機器がほとんど掲載されず、それでいて広告も少なく記事の密度が極めて高いという、オーディオ関連誌としては極めて尖ったジャンルに属するこのムックですが、幸い売れ行きは悪くないようで、刊行が重ねられています。
思えば趣味の世界では「神は細部に宿る」とよくいわれるもので、こういう"尖った"情報をこそしっかりと網羅した刊行物が効果を発揮するシチュエーションが多いのでしょう。実際、ケーブルは「コンポーネンツの一員」と断言してもよいくらいシステムの表現を決定的に左右しますからね。
特に今回の「2015」は例年よりもずっと注目される要素が満載です。もう先刻ご存じの人も多いでしょう。オーディオケーブル業界で導体として大きなシェアを誇っていたPC-OCC(大野連続鋳造法による銅線)の生産が2013年をもって終了してしまったのですね。おかげで昨年からのケーブル業界は阿鼻叫喚の巷といいたくなる大騒ぎでした。オーディオマニアのよく知るあの社もこの社も、軒並み自社製品の生産が続けられなくなってしまったのですから。
しかし、各社ともただ茫然としているわけにはいきません。オーディオ業界はとにかく音楽表現をより良きものへ進めていかなければならないのです。長い年月とあふれんばかりの情熱をもって自室の音質を薄紙1枚ずつ、髪の毛1筋ずつ向上させてきたわが業界のお客様、すなわち私自身も含めたオーディオマニアという存在は、業界の停滞すら堕落と捉えずにはいられません。
まして、「PC-OCC素材がなくなってしまったので昔のタフピッチ銅に戻します。なに、音質なんてそんなに変わりませんよ」なんてことをいうメーカーが現れたら、それは自らの半生を費やして「音楽の真の姿」を探求してきたお客様を否定することになってしまいます。
幸い、わが業界の開発能力は想像を遥かに超えるものでした。PC-OCCの終焉がアナウンスされたと思ったら、年をまたがずしていくつかの有望な高品位導体が名乗りを挙げたのです。
多くの社が最も有望な素材として採用に乗り出したのはPC-TripleCと呼ばれる素材でした。電子機器の内部配線など、極めて繊細な配線材を作るには銅の純度を高くしておかないと線がすぐに切れてしまいます。そういう用途のために生産されている特別に純度の高い無酸素銅をまず太い線材にして、そこから日本刀のように叩いて延ばす、すなわち鍛造することにより結晶の粒界が縦に伸び、導体内接点の害が少なくなるというのがPC-TripleCの最も注目すべきところです。
また、一般の銅線はミクロの目で見ると結構すき間があるのだそうですが、こうやって叩くことですき間を激減させ、導電特性の向上も得られるのだとか。また、これは個人的な推測でしかありませんが、日本刀は叩いて鍛造していくことによって不純物が端へ追いやられ、鋼の純度が高まっていくということを聞いたことがあります。ひょっとしてPC-TripleCにもそんな効果があるんじゃないかな、などと想像が広がります。
音元出版Phile WebのPC-TripleC紹介記事よりスクリーンショットを取らせてもらった。高純度の導体を「叩いて延ばす」ことにより結晶の粒界が縦に伸びていくことが目で見える、素晴らしい図解ではないかと思う。
資料を一瞥した限りでは、かつて日立電線(現・日立金属)が開発したLC-OFCを思わせますが、あれは大きな結晶のOFCを作っておいてそれをダイスで線材へ引く際に結晶を線形とする、というのが技術的な主眼だったと記憶しています。
LC-OFCは細線に引いた後で焼きなまし(アニール)をするとせっかくの線形結晶が元に戻ってしまうと当初考えられていたので、極めて硬くバネ成分の強い線材でした。その結果、何となく中高域が明るく張ったようなイメージで、高域方向にキンシャンとした響きが乗る傾向だったと記憶しています。もっとも、それはすべてのケーブルについてそうだったというわけではなく、オーディオテクニカのスピーカーケーブルや日立電線でも極太の同軸スピーカーケーブルはそれほどのキャラクターを感じなかったことを覚えています。テクニカはむしろずいぶんソフトなイメージでビックリしたっけ。
LC-OFCはその後アニールをしても結晶構造に大きな影響を与えない「メルトーン」と名づけられた素材へ進化します。これはものの見事に中高域の張りや高域の鳴きを抑え、線材の硬さに由来すると思われるキャラクターを排することに成功していました。しかしこの「メルトーン」、少々音が優しすぎるのではないかと私には感じられました。音が前へ飛んでこず、音場も3次元的な立体を思わせるほどにまで至りませんでした。これまでのLC-OFCに対するチューニング手法から抜け切れなくて、「あつものに懲りてなますを吹く」ようなことになっちゃったんじゃないかなぁ、と今にして推測しています。
オーディオユニオンの中古通販サイトから拝借した日立電線MTAX-205の画像。この強烈なピンクのシースはLC-OFCメルトーンの第1世代製品ではなかったか。
「メルトーン」でも市場の主流を奪回することはかなわず、LC-OFCはオーディオの歴史の中に消えていってしまいました。いいものを持っていながら上手くその実力を発揮させることがかなわず、退場を余儀なくされたLC-OFCに対し、PC-TripleCはまさにタイミングを待っていたような絶妙の登場といいその内実といい、これからのオーディオケーブル業界を背負って立つにふさわしい存在へ育っていってくれるのではないかと大いに期待しているところです。
業界に先駆けてPC-TripleCでインコネを発売したのはアコースティック・リヴァイヴだった。例によって独自の楕円単線に成型されたPC-TripleCは、極めて高い磁気効率を持つ「ファインメット」素材のビーズを通すことで高周波のノイズを激減させたこともあり、これまで全く聴いたことのない"普遍"の高みを聴かせてくれた。このRCA-1.0tripleC-FMは1mで16万8,000円と決して安価なケーブルではないが、それでもCPは圧倒的に高いと思う。
PC-TripleCを開発したFCMという会社は一般的な知名度という点ではほとんどゼロに近い社ですが、話を聞いてみるとずいぶん前からさまざまな高音質ケーブル開発にあたり「縁の下の力持ち」をやってきた社だそうで、技術的な裏づけも十分なのだとか。これを聞いて私自身も「あぁ、こういう社なら長くオーディオ業界と付き合っていってもらえそうだな」と、少々ホッとしたものです。
一方、PC-OCCが生産完了したのは昨年でしたが、もう少し前に供給が終わってしまった高品位導体があります。今や高級オーディオケーブルの主流となった「高純度銅」の元祖、6N銅線です。1980年代の終わり頃、旧・日本鉱業(現・JX日鉱日石金属)が開発し、自ら「アクロテック」というブランドを立てて高級オーディオケーブル業界へ参入してきた時には驚いたものでした。
ネットを漁ってようやく発見した往年のアクロテック6N-S1040の画像。これはより太い高級バージョンだが、同社の第1号製品でもあるより手ごろな6N-1010は「長さにして地球何周分も売れた」という。オーディオ史に残るケーブルである。
その後同社はジャパンエナジーを経てJX日鉱共石グループに入り、いつしか極めて小ロットのオーディオケーブル業界からは離れていってしまいました。アクロテックの業態は株式会社アクロジャパンが継承し、最盛期には7Nから8Nまで到達していた高純度銅線は日本鉱業からの供給がなくなり、現在は三菱電線工業が供給する7N純度のD.U.C.C.導体がほとんど唯一のものとなっています。
高純度銅線の供給が継続していること自体は大いに喜ぶべきですが、いかんせん7Nとなると6Nよりもかなりコストアップとなってしまい、そうそう簡単に入手できるクラスへ導入するのが難しくなってきます。アクロジャパンの新ブランド「アクロリンク」やエソテリックを筆頭に、世界のハイエンドといって差し支えない高級ケーブル群にはこの7N-D.U.C.C.素材、加えてこちらも三菱電線工業の独自開発となる方形断面の芯線に高品位な絶縁体を付着させたリッツ構造の「MEXCEL」線が用いられていることをご存じの人も多いのではないかと思います。
個人的なMEXCEL導体の初体験がエソテリックの7N-A2500II(¥380,000 1.0m)だった。同社製品は機器もケーブルもとにかく質感が清新で、完璧なフラットバランスなのに音が無味乾燥にならず、「いい酒は水に似る」という言葉を彷彿させる表現が何よりの魅力だが、このケーブルはその持ち味に加え、繊細な音響成分の隅々から生命感が吹き出してくるような勢いを感じさせる。本当に素晴らしいケーブルだと思う。
世の中から6N線がなくなり、そこへ追い討ちをかけるようにPC-OCCまでが生産をやめてしまった。比較的手の届く範囲のケーブルでこれらの素材がどれほど多くの製品に使われていたかを考えると、これはまさしくケーブル業界全体の危機といってよかったのではないかと思います。
転機はやはり2013年でした。あのLC-OFCを開発した日立電線の系譜を受け継ぐ日立金属が、非常に面白い新技術を引っ提げてオーディオ業界に舞い戻ってきたのです。
普通、異種金属を混ぜ合わせた「合金」は硬く、また電気抵抗が高くなります。ところが同社が開発した新合金「HiFC」は、高純度の銅にごく微量のチタンを加えたもので、導電特性は純銅とほとんど変わらず、柔らかさやしなやかさは6Nとほぼ同じ特性が得られるというものです。まさに業界の常識を覆す新技術といってよいでしょうね。
日立金属のサイトより。一般的な4N純度のOFCと6N、そしてHiFCの特性を比較したデータだが、本当に笑ってしまうくらいHiFCが6Nそっくりなことが分かる。
このHiFCは業界に先駆けてゾノトーンが採用に踏み切りました。この社は総帥の前園俊彦氏が「黄金の耳」で各種素材をブレンドすることで「ゾノトーン・サウンド」を紡ぎ上げていますから、純粋に「これがHiFCサウンドだ!」というものは分かりませんでしたが、HiFC新採用の「ネオ・グランディオ」はこれまでよりやや肌当たりが柔らかく、たっぷりと奥行き感を聴かせるタイプになったような気がしています。
HiFC初採用のゾノトーン「ネオ・グランディオ」シリーズより、これはRCAインコネの7NAC-Neo Grandio10Hi(¥83,000 1.0m)。穏やかな質感だがここ一番のパワー感は相当のもので、音楽をゆったりと、そして伸びのびと楽しませてくれる傑作といってよいだろう。
その後、"本家"アクロテックとともに6Nオーディオケーブルの"先駆者"となったオルトフォンからもHiFCを配合した導体のケーブルが登場しました。それも、かなり安価なランクの製品です。こちらは一聴して非常に素直な質感で、そう太いケーブルではないのに結構なスケール感を聴かせます。HiFC、かなり有望な新素材のようですね。
オルトフォンから登場したHiFC配合の導体を持つケーブル群より、こちらはRCAインコネの5NX-505(¥10,000 1.0m)だ。安価なランクながらなかなかの聴き応えをくっきりと印象に残してくれた。
実はあまり目立ちませんが、まだ新素材が登場しているのです。昨年になっていきなり登場したと思ったら年末の音元出版「アクセサリー銘機賞」を受賞してしまった塩田電線というメーカーがあります。電線の商社として、また数多くの提携工場を持つ電線メーカーとして長い歴史を持つ同社ですが、一般コンシューマー向けの小ロット製品はこのたび初めて手がけるのだそうです。単なるポッと出のメーカーなどではなく、しっかりとした技術的な基盤と販路を持った社だったというわけですね。
その塩田電線が発売した第1号のケーブルは電源ケーブルでした。C1011と呼ばれるこのケーブルは、両端にプラグを取り付けた完成品と切り売りの両方で市場へ投入されています。2スケアの芯線を持ち、キャブタイヤのVCTF規格を満たす3芯ケーブルです。「2スケア3芯のキャブタイヤなんてホームセンターでも普通に売ってるじゃないか」と思われるかもしれませんが、この芯線がなかなかの優れものなのです。
かつて日立電線のLC-OFCに「Class1」と書かれたグレードのものがあったことをご記憶の人もおられるでしょう。あれは芯線の製造時に水素の含有率を極限まで減らしたものでした。水素イオンというとほとんど純粋なプラスの電荷みたいなもので、芯線に含有されていると、伝送時にそれが芯線から抜け出していき、伝送のリニアリティを損なうと説明されていたように記憶しています。このあたり、もうずいぶん昔の記事を読んだ記憶に基づくものですから、間違っていたらどなたか詳しい方のご訂正を頂けると助かります。
で、このC1011なんですが、Class1のOFCが採用されているのですね。そう、この芯線も日立金属が生産しているものです。それじゃあキャブタイヤといってもずいぶん高いじゃないの? と思ったら、切り売りで1mあたり1,200円+税と拍子抜けするような価格です。
こちらは完成品のC1011POWER CABLE。コンセント側は明工社のホスピタル、IEC側はスイス・シュルター社のプラグが装着されている。どちらも安価なランクでは定番といってよい高品質プラグである。後述する通りどこまでも素直で飾り気なく、しかし相当の情報量を聴かせるケーブルだ。オープン価格だがおそらく2mで1万円もしないのではないか。
音はとにかく素直の一言。見た目はいささか細く頼りないケーブルですが、帯域は結構両端へ向けて緩やかに伸び、特定帯域の強調感は本当になく、音楽をごく自然に表現してくれるタイプと感じられました。高級ケーブルのような「これがハイファイだ!」という主張や機器をより高い次元へ教導するような表現はありませんが、機器の持ち味を過不足なく表現するという点ではかなり素晴らしいケーブルなのではないかと思っています。
ふう、新素材について解説し始めたらずいぶん長くなっちゃいました。何たって今年はこういう状況で、これはもうケーブル業界の「ヴィンテージ・イヤー」といってよいのではないかと思います。そんな年に発行される「大全」ですから、もう内容は盛りだくさんという一言では表し切れません。
例年は割合に「オーディオアクセサリー」本誌他からの再録記事が多いムックなのですが、今年はとにかく新製品が目白押しなもので古い記事をそのまま再録したのでは追いつきません。そこで新しい製品やページ数の関係で取材から洩れた製品をずいぶんたくさん追加試聴し、大幅な増補版となっています。私もずいぶんたくさんの新規記事を同誌のために書かせてもらいました。また、新製品の単独記事も充実、これまで長々と述べた新素材についての解説も、福田雅光氏、井上千岳氏をはじめとする先生方が詳細に解説されています。
ケーブルをコンポーネンツの一員と捉え、ご自分の音作りへ大いに活用されているオーディオマニア諸賢へ、特に今年の「大全」は大きな参考となる書であろうと確信しています。どうか書店でご一読いただけると幸いです。
月刊「ステレオ」2014年8月号が発売されました(その2) ― 2014/07/25 12:37
Stereo 2014年8月号
音楽之友社 ¥3,528+税
月刊「ステレオ」の「工作特大号」は、先のエントリに書いた通り付録ユニットとそれらを使った製作記事が大きな目玉となっていますが、長年続く人気企画にあと何本かの柱があります。自作スピーカーの「筆者競作」もその一つといってよいでしょうね。毎年一定のルールを定め、それに則っておなじみの筆者陣が思いおもいにスピーカーを作り、一堂に会して相互に感想を述べ合うというものです。
私も昨年から呼んでもらえるようになったこの企画ですが、今年は話題の限定フルレンジ、フォステクスFE103-Solを使用することというのが唯一のルールで、多数使いや他にユニットを付け加えるのも自由、予算も制限なしということでした。
フォステクス◎フルレンジ・スピーカーユニット
FE103-Sol ¥6,500(1本、税抜き)
昨年は「付録の5cmフルレンジ・ユニットを片側3発まで使用。ユニット追加は自由、予算制限なし」というルールで、私はフルレンジを1発使って極めてささやかな音道のバックロードホーンを作り、その下にフォステクスの10cmフルレンジP1000Kを使ったスタンド兼用のダブルレゾナンス・ウーファー(DRW)を組み合わせるという方式の「ソラシド♪」と名づけた作例を製作したものでした。
昨年発表した「ソラシド♪」。5cmフルレンジがお題だというのに占有床面積30×30cm、高さ1m超というバカでかいキャビネットを作ってしまった。参加初年ゆえ「ネタ担当」という意味合いもあっての悪ノリである。
昨年も「付録ユニット片側3発まで」という縛りはありましたが実質上の青天井みたいなものでした。それでも付録ユニットを3発使われていたのは小澤隆久氏お1人、須藤一郎氏は付録1発のみで、石田善之氏は付録ユニット×1発にアンプ内蔵のモニター仕様、浅生昉氏はフォステクスP1000Kとの2ウェイという格好でした。私は浅生さんと同じ付録+P1000Kにデイトンのドーム型トゥイーターを載せた3ウェイ、しかしネットワークはトゥイーターのコンデンサー1発だけというユニット構成です。まぁ青天井にされてもあんまりいろんなものを放り込んだら収拾がつかなくなっちゃいがちですから、これがいいところだったんじゃないかと。
一方、今年はフルレンジの使用本数制限まで撤廃され、ますます青天井に。といっても私は「鳥型BHを作る!」と決めちゃっていたのでSol×1発のみ、特にSolは高域まで本当にきれいな音なので、プラス・スーパートゥイーターも最初から考えていませんでした。
BHの設計というものは「連立方程式を暗算で解く」ような作業といえばいいかな? あちら立てればこちらが立たず、何箇所かに分散した項目のせめぎ合いを、どうにかこうにか折り合わせながら進めていくのが常です。そんな時、ごく稀にではありますが「神が降りてくる」ことがあります。ある一定のラインを超えた瞬間、すべての数値が面白いように枠へ収まっていって、ほとんどデータの修正もなしにあっさりと音道構成から板取りまで完成してしまうのです。
わがオリジナル設計BHの2作目、学研「大人の科学マガジン」特別編集「まるごと手作りスピーカーの本」に掲載した「ヒヨッ子」という作例がまさにそうでした。今見ても実に合理的な音道構成で、よくもまぁ二十代の頃にこんなきれいなBHを作ったもんだとわれながら惚れぼれするくらいです。
もう10年近くも前、2005年の学研「大人の科学マガジン」シリーズに提供したわが作例「ヒヨッ子」は、1986年に故・長岡鉄男氏が初代「スワン」を発表されてすぐに設計・製作したものだ。私は当時22歳、まだ大学生だった。当時はテクニクスの7cmフルレンジEAS-7F10を取り付け、7F10に由来する100Hz以下急降下のf特に悩まされつつも、社会人になった後までずいぶん長く使ったものだ。
でも、これはもう明らかな「ビギナーズ・ラック」でした。この作品を完成させた私は完全に調子に乗ってしまい、「何だ、BHなんて簡単じゃん」とばかりに自分のオリジナルBHを次々と設計し始めるのですが、どうも勝手が違います。「ヒヨッ子」を設計した時のようにすいすいと数値が収まってくれないんですね。
大体BHというヤツ、開口率をちょっと上げればキャビ全体が馬鹿デカくなり、スロートを大きくしようとすると開口率を下げなければまた巨大キャビになります。かといってあまり開口率を下げたら音響迷路と変わらなくなり、開口の小さなショボくれた作品になってしまいます。その上で板取りの効率や作りやすさなんかの項目も加わってくるのですから、そんなもの「ヒヨッ子」みたいにスイスイとまとまるわけがないのであります。
というわけで、BHの設計では今なお数値を積み重ねては崩し、また別の山を作っては叩き壊し、とさながら賽の河原を思わせる作業が続きます。最近の作例で一番苦労したのは10cmの限定モデルFE103En-S用に作った「オシドリ」だったなぁ。
FE103En-S用に設計した「オシドリ」。2010年のオーディオベーシックVol.54に掲載された。「カモハクチョウ」にとって"実兄"というべき存在だが、占有床面積はこちらの方が遥かに大きい。
それからすると今作は同じ10cmの「オシドリ」からある程度の数値を生かすことができたせいもあって、「神が降りる」とはいかなかったものの、比較的スイスイとまとまっていきました。とはいえ、FE103En-SとFE103-Solではかなりデータが違い、また今作は占有床面積をできるだけ小さくすることも狙ったので、バックキャビの内容積からスロート断面積、音道長、開口率、開口面積のすべてが違う作例となりました。
何とか数値がまとまったところで板取図を書き始め、何とかギリギリの時間にホームセンターの板切り工房へ依頼を入れます。翌朝から作り始め、梅雨空の合間を見ながら「急がないと間に合わんぞ!」と作業を進めていたところで携帯に1本の電話がかかりました。
電話は「ステレオ」誌工作担当のNさんからでした。「え~、本日の試聴会の件ですが」
ええええっ! 私は金曜日だと信じ込んで作業を進めていたのですが、何と試聴会は水曜日だったのです。スピーカーはまだ3分の出来といったところで、とても午後早くに完成させて持っていくことなどかないません。事情を話し、平謝りしたところで「とにかくくるだけはきて下さい」ということになり、慌てて服を着替えて試聴会場の同誌試聴室へ向かうこととなりました。
既に完成した作品を手にお集まりだった諸先輩方へ平身低頭しながら試聴室へ入り、試聴会のみの参加ということにしてもらいました。今年は例年にも増して力作・傑作がそろっている印象です。
*
誌面でも掲載してもらっていますが、改めて各先生方の作品の個人的な印象をまとめておきますね。
T.P.O. by 須藤一郎
須藤一郎氏の「T.P.O.」は「Twin Port One」の略だそうで、なるほど上下にバスレフポートを持つ曲面構成のキャビネットは美しい白木の北欧家具調で、何となくデンマークDavone社の高級スピーカーRay-Sを彷彿とさせるものがあります。
Davone◎スピーカーシステム
Ray-S ¥880,000(2本1組、税抜き)
音もストレートで屈託がなく、結構なワイドレンジを聴かせます。「これは高く売れる!」と確信した作例でした。
お話を伺えば、このキャビネットは無印良品のゴミ箱というじゃないですか! タモの薄板を曲面に積層したものだそうで、タモは美しい上に極めて堅い木材ですから、それがよかったのでしょうね。また、奥へ向かって僅かにテーパーがかかっており、平行面がないのも美点なのではないでしょうか。このキャビネットは中が二重箱になっていて、ある種のダブルバスレフ的な動作をしているようですが、その内箱をしっくり収めるのに苦労されたとか。しかし、そのご苦労が十二分に報われる素晴らしい音が出ていたと思います。
ASD1032SD by 浅生昉
浅生昉氏のASD1032SDは、16ΩのSol2発の間に純マグネシウム・ドーム型トゥイーターFT200Dを挟んだバーチカル・ツイン構成という豪華版で、キャビネットは浅生さんがここ数年実験を重ねられている「名古屋方式」のダブルバスレフ(DB)です。
一聴して驚くのは帯域のつながりが極めて自然なことでした。いくら鳴きの少ないマグネシウムとはいっても金属振動板ですから、紙系のSolと上手くつながるのかなと思ったら、それは全くの杞憂でした。浅生さんは昨年も付録の5cmスキャンスピークと10cmのフォステクスをものの見事に違和感なくつながれていましたから、これは長年のノウハウを結集された「浅生マジック」なのだろうと思います。
OM-1 by 小澤隆久
小澤隆久氏のOM-1は何だかカメラみたいな型番ですが、「オザワモニター1号」の略だそうで、それだけ本作へ賭けた小澤さんの思いが伝わってきます。ユニット構成は堂々の4ウェイ、特にバスレフのウーファーとケルトン方式のサブウーファーが同じユニット(フォステクスFW168HR)で構成される「DDBK方式」というのは小澤さんの独自開発です。Sol(16Ω)は320Hz以上を受け持ち上は伸ばしっぱなし、スーパートゥイーター的にホーン型トゥイーターのFT96Hが0.1~0.22uFのコンデンサー1発で載せられています。
音はもう完全な「現代ハイエンド」のものです。ワイドレンジでパワフルで極めてきめ細かで音の粒が磨き上げられていて。誕生50周年を迎えたFE103の系譜を引くだけに、極めつけのやんちゃ坊主的な側面も持つSolを、ここまで現代風に調教するのは簡単なことではなかったろうと思います。しかも、それでいて再現性の素直さ、音色のみずみずしさは明らかにSolのものです。
小澤さんご本人が「30年の自作歴の中で最高」と太鼓判を押されていますから、このOM-1は長く小澤さんのリファレンス・スピーカーとして活躍するのでしょうね。
Active Monitor 103 by 石田善之
石田善之氏のActive Monitor 103は、ちょっと昔懐かしい小型モニターという風情を漂わせるややバッフル大きめのキャビネットに人工皮革が張り回されており、それがまたとても自作とは思えないレベルの美しい面構成を持っています。昨年に引き続いてアンプ内蔵で、しかもSolとこのキャビネットに合わせてアンプのf特を僅かに操作、よりフラットで大スケールの再生を可能にしているんですね。
音はSolの素直さ、元気さ、たたずまいの端正さを存分に聴かせながら、とてもこの口径とは思えないスケール感を味わわせます。まさに石田先生でなくては実現できない「創意と技術の頂点による融合」といいたくなる作品でした。
*
試聴会で大いに刺激を受け、早く私の作例も完成させなきゃと作業に取りかかります。今年は本当に「もう大丈夫だろう」と資材や工具を広げたと思ったら、それを見透かしたようにザーッとやってくるという厄介な天気に悩まされ通しでしたが、それでも何とか想定通り金曜には完成、音を出し始めました。
鳴らし始めのBHなんてひどい音がするのが当たり前のようなもんで、まぁ今作ももうどうしようもなく音は飛んでこないわ低音はボヨンボヨンだわ、という状況でした。でもPCオーディオやネットラジオで間断なく音楽を鳴らし続け、翌日にはまぁそこそこのレベルへ達しました。そこでキャビネットに設けているデッドスペースへ砂を少量入れてやったら、これでほぼOKだろうという音に。
カモハクチョウ by 炭山アキラ
あくまで手前味噌な評価で失礼ですが、私の作例は前述したSolのやんちゃ坊主的な側面を全面的に解放させたようなサウンドとなりました。もちろんSolの素直さ、S/N感の高さ、伸びやかさも存分に聴こえてきますが、それらが少々減退しても元気さ、音離れの良さ、闊達さをギリギリまで聴かせるシステムになったと思っています。
奇しくも小澤さんのOM-1とは最も対照的なSolの使いこなしになったような気がしています。でもこれは「どちらかが正しくてどちらかが間違っている」というものでは決してありません。スピーカー設計者のキャラクター、というより「今回はどこを重視して設計したか」ということですかね。ユニットの持ち味をどう料理してお客様へ出すか、その着眼点が今回の小澤さんと私でちょうど逆方向になった、というに過ぎないのです。
誌面ではスペース的な問題でしょうね、わが作例のスペアナが軸上1mしか掲載されていなかったので、こちらにリスニングポジションのスペアナも掲載しておきますね。設計・製作者としては、どちらかというと後者のf特を皆さんに見てほしいものなのであります。
「カモハクチョウ」リスニングポジション周波数特性
今作は占有床面積を小さくするためにボディが縦長の構造となり、結果として首のやや短い「鳥型BH」になりました。10cmの鳥型は「スワン」に敬意を表してハクチョウの類縁種から名前を採ることにしているので、首の短いハクチョウはいないかなとネット検索したら、あぁ、いるいる。全身真っ白で顔つきはハクチョウとよく似ていますが、首が短くて全体的なプロポーションはアヒル的な「カモハクチョウ」です。何とも今作のネーミングにピッタリの鳥で笑っちゃいましたね。
こちらが鳥のカモハクチョウ。何とも味わい深いルックスである。
今回の「筆者競作」スピーカー群は、今年もおそらくどこかのオーディオショーで鳴き合わせの会が設けられると思います。多分私の「カモハクチョウ」も呼んでもらえると思います(苦笑)。その際には、ぜひ各先生方の創意によるSolの料理法と味付けの違いを大いに楽しんでほしいと思います。
その節は、(もし私も呼ばれていたらですが)皆さんとお会いできるのを楽しみにしていますね。
音楽之友社 ¥3,528+税
月刊「ステレオ」の「工作特大号」は、先のエントリに書いた通り付録ユニットとそれらを使った製作記事が大きな目玉となっていますが、長年続く人気企画にあと何本かの柱があります。自作スピーカーの「筆者競作」もその一つといってよいでしょうね。毎年一定のルールを定め、それに則っておなじみの筆者陣が思いおもいにスピーカーを作り、一堂に会して相互に感想を述べ合うというものです。
私も昨年から呼んでもらえるようになったこの企画ですが、今年は話題の限定フルレンジ、フォステクスFE103-Solを使用することというのが唯一のルールで、多数使いや他にユニットを付け加えるのも自由、予算も制限なしということでした。
フォステクス◎フルレンジ・スピーカーユニット
FE103-Sol ¥6,500(1本、税抜き)
昨年は「付録の5cmフルレンジ・ユニットを片側3発まで使用。ユニット追加は自由、予算制限なし」というルールで、私はフルレンジを1発使って極めてささやかな音道のバックロードホーンを作り、その下にフォステクスの10cmフルレンジP1000Kを使ったスタンド兼用のダブルレゾナンス・ウーファー(DRW)を組み合わせるという方式の「ソラシド♪」と名づけた作例を製作したものでした。
昨年発表した「ソラシド♪」。5cmフルレンジがお題だというのに占有床面積30×30cm、高さ1m超というバカでかいキャビネットを作ってしまった。参加初年ゆえ「ネタ担当」という意味合いもあっての悪ノリである。
昨年も「付録ユニット片側3発まで」という縛りはありましたが実質上の青天井みたいなものでした。それでも付録ユニットを3発使われていたのは小澤隆久氏お1人、須藤一郎氏は付録1発のみで、石田善之氏は付録ユニット×1発にアンプ内蔵のモニター仕様、浅生昉氏はフォステクスP1000Kとの2ウェイという格好でした。私は浅生さんと同じ付録+P1000Kにデイトンのドーム型トゥイーターを載せた3ウェイ、しかしネットワークはトゥイーターのコンデンサー1発だけというユニット構成です。まぁ青天井にされてもあんまりいろんなものを放り込んだら収拾がつかなくなっちゃいがちですから、これがいいところだったんじゃないかと。
一方、今年はフルレンジの使用本数制限まで撤廃され、ますます青天井に。といっても私は「鳥型BHを作る!」と決めちゃっていたのでSol×1発のみ、特にSolは高域まで本当にきれいな音なので、プラス・スーパートゥイーターも最初から考えていませんでした。
BHの設計というものは「連立方程式を暗算で解く」ような作業といえばいいかな? あちら立てればこちらが立たず、何箇所かに分散した項目のせめぎ合いを、どうにかこうにか折り合わせながら進めていくのが常です。そんな時、ごく稀にではありますが「神が降りてくる」ことがあります。ある一定のラインを超えた瞬間、すべての数値が面白いように枠へ収まっていって、ほとんどデータの修正もなしにあっさりと音道構成から板取りまで完成してしまうのです。
わがオリジナル設計BHの2作目、学研「大人の科学マガジン」特別編集「まるごと手作りスピーカーの本」に掲載した「ヒヨッ子」という作例がまさにそうでした。今見ても実に合理的な音道構成で、よくもまぁ二十代の頃にこんなきれいなBHを作ったもんだとわれながら惚れぼれするくらいです。
もう10年近くも前、2005年の学研「大人の科学マガジン」シリーズに提供したわが作例「ヒヨッ子」は、1986年に故・長岡鉄男氏が初代「スワン」を発表されてすぐに設計・製作したものだ。私は当時22歳、まだ大学生だった。当時はテクニクスの7cmフルレンジEAS-7F10を取り付け、7F10に由来する100Hz以下急降下のf特に悩まされつつも、社会人になった後までずいぶん長く使ったものだ。
でも、これはもう明らかな「ビギナーズ・ラック」でした。この作品を完成させた私は完全に調子に乗ってしまい、「何だ、BHなんて簡単じゃん」とばかりに自分のオリジナルBHを次々と設計し始めるのですが、どうも勝手が違います。「ヒヨッ子」を設計した時のようにすいすいと数値が収まってくれないんですね。
大体BHというヤツ、開口率をちょっと上げればキャビ全体が馬鹿デカくなり、スロートを大きくしようとすると開口率を下げなければまた巨大キャビになります。かといってあまり開口率を下げたら音響迷路と変わらなくなり、開口の小さなショボくれた作品になってしまいます。その上で板取りの効率や作りやすさなんかの項目も加わってくるのですから、そんなもの「ヒヨッ子」みたいにスイスイとまとまるわけがないのであります。
というわけで、BHの設計では今なお数値を積み重ねては崩し、また別の山を作っては叩き壊し、とさながら賽の河原を思わせる作業が続きます。最近の作例で一番苦労したのは10cmの限定モデルFE103En-S用に作った「オシドリ」だったなぁ。
FE103En-S用に設計した「オシドリ」。2010年のオーディオベーシックVol.54に掲載された。「カモハクチョウ」にとって"実兄"というべき存在だが、占有床面積はこちらの方が遥かに大きい。
それからすると今作は同じ10cmの「オシドリ」からある程度の数値を生かすことができたせいもあって、「神が降りる」とはいかなかったものの、比較的スイスイとまとまっていきました。とはいえ、FE103En-SとFE103-Solではかなりデータが違い、また今作は占有床面積をできるだけ小さくすることも狙ったので、バックキャビの内容積からスロート断面積、音道長、開口率、開口面積のすべてが違う作例となりました。
何とか数値がまとまったところで板取図を書き始め、何とかギリギリの時間にホームセンターの板切り工房へ依頼を入れます。翌朝から作り始め、梅雨空の合間を見ながら「急がないと間に合わんぞ!」と作業を進めていたところで携帯に1本の電話がかかりました。
電話は「ステレオ」誌工作担当のNさんからでした。「え~、本日の試聴会の件ですが」
ええええっ! 私は金曜日だと信じ込んで作業を進めていたのですが、何と試聴会は水曜日だったのです。スピーカーはまだ3分の出来といったところで、とても午後早くに完成させて持っていくことなどかないません。事情を話し、平謝りしたところで「とにかくくるだけはきて下さい」ということになり、慌てて服を着替えて試聴会場の同誌試聴室へ向かうこととなりました。
既に完成した作品を手にお集まりだった諸先輩方へ平身低頭しながら試聴室へ入り、試聴会のみの参加ということにしてもらいました。今年は例年にも増して力作・傑作がそろっている印象です。
誌面でも掲載してもらっていますが、改めて各先生方の作品の個人的な印象をまとめておきますね。
T.P.O. by 須藤一郎
須藤一郎氏の「T.P.O.」は「Twin Port One」の略だそうで、なるほど上下にバスレフポートを持つ曲面構成のキャビネットは美しい白木の北欧家具調で、何となくデンマークDavone社の高級スピーカーRay-Sを彷彿とさせるものがあります。
Davone◎スピーカーシステム
Ray-S ¥880,000(2本1組、税抜き)
音もストレートで屈託がなく、結構なワイドレンジを聴かせます。「これは高く売れる!」と確信した作例でした。
お話を伺えば、このキャビネットは無印良品のゴミ箱というじゃないですか! タモの薄板を曲面に積層したものだそうで、タモは美しい上に極めて堅い木材ですから、それがよかったのでしょうね。また、奥へ向かって僅かにテーパーがかかっており、平行面がないのも美点なのではないでしょうか。このキャビネットは中が二重箱になっていて、ある種のダブルバスレフ的な動作をしているようですが、その内箱をしっくり収めるのに苦労されたとか。しかし、そのご苦労が十二分に報われる素晴らしい音が出ていたと思います。
ASD1032SD by 浅生昉
浅生昉氏のASD1032SDは、16ΩのSol2発の間に純マグネシウム・ドーム型トゥイーターFT200Dを挟んだバーチカル・ツイン構成という豪華版で、キャビネットは浅生さんがここ数年実験を重ねられている「名古屋方式」のダブルバスレフ(DB)です。
一聴して驚くのは帯域のつながりが極めて自然なことでした。いくら鳴きの少ないマグネシウムとはいっても金属振動板ですから、紙系のSolと上手くつながるのかなと思ったら、それは全くの杞憂でした。浅生さんは昨年も付録の5cmスキャンスピークと10cmのフォステクスをものの見事に違和感なくつながれていましたから、これは長年のノウハウを結集された「浅生マジック」なのだろうと思います。
OM-1 by 小澤隆久
小澤隆久氏のOM-1は何だかカメラみたいな型番ですが、「オザワモニター1号」の略だそうで、それだけ本作へ賭けた小澤さんの思いが伝わってきます。ユニット構成は堂々の4ウェイ、特にバスレフのウーファーとケルトン方式のサブウーファーが同じユニット(フォステクスFW168HR)で構成される「DDBK方式」というのは小澤さんの独自開発です。Sol(16Ω)は320Hz以上を受け持ち上は伸ばしっぱなし、スーパートゥイーター的にホーン型トゥイーターのFT96Hが0.1~0.22uFのコンデンサー1発で載せられています。
音はもう完全な「現代ハイエンド」のものです。ワイドレンジでパワフルで極めてきめ細かで音の粒が磨き上げられていて。誕生50周年を迎えたFE103の系譜を引くだけに、極めつけのやんちゃ坊主的な側面も持つSolを、ここまで現代風に調教するのは簡単なことではなかったろうと思います。しかも、それでいて再現性の素直さ、音色のみずみずしさは明らかにSolのものです。
小澤さんご本人が「30年の自作歴の中で最高」と太鼓判を押されていますから、このOM-1は長く小澤さんのリファレンス・スピーカーとして活躍するのでしょうね。
Active Monitor 103 by 石田善之
石田善之氏のActive Monitor 103は、ちょっと昔懐かしい小型モニターという風情を漂わせるややバッフル大きめのキャビネットに人工皮革が張り回されており、それがまたとても自作とは思えないレベルの美しい面構成を持っています。昨年に引き続いてアンプ内蔵で、しかもSolとこのキャビネットに合わせてアンプのf特を僅かに操作、よりフラットで大スケールの再生を可能にしているんですね。
音はSolの素直さ、元気さ、たたずまいの端正さを存分に聴かせながら、とてもこの口径とは思えないスケール感を味わわせます。まさに石田先生でなくては実現できない「創意と技術の頂点による融合」といいたくなる作品でした。
試聴会で大いに刺激を受け、早く私の作例も完成させなきゃと作業に取りかかります。今年は本当に「もう大丈夫だろう」と資材や工具を広げたと思ったら、それを見透かしたようにザーッとやってくるという厄介な天気に悩まされ通しでしたが、それでも何とか想定通り金曜には完成、音を出し始めました。
鳴らし始めのBHなんてひどい音がするのが当たり前のようなもんで、まぁ今作ももうどうしようもなく音は飛んでこないわ低音はボヨンボヨンだわ、という状況でした。でもPCオーディオやネットラジオで間断なく音楽を鳴らし続け、翌日にはまぁそこそこのレベルへ達しました。そこでキャビネットに設けているデッドスペースへ砂を少量入れてやったら、これでほぼOKだろうという音に。
カモハクチョウ by 炭山アキラ
あくまで手前味噌な評価で失礼ですが、私の作例は前述したSolのやんちゃ坊主的な側面を全面的に解放させたようなサウンドとなりました。もちろんSolの素直さ、S/N感の高さ、伸びやかさも存分に聴こえてきますが、それらが少々減退しても元気さ、音離れの良さ、闊達さをギリギリまで聴かせるシステムになったと思っています。
奇しくも小澤さんのOM-1とは最も対照的なSolの使いこなしになったような気がしています。でもこれは「どちらかが正しくてどちらかが間違っている」というものでは決してありません。スピーカー設計者のキャラクター、というより「今回はどこを重視して設計したか」ということですかね。ユニットの持ち味をどう料理してお客様へ出すか、その着眼点が今回の小澤さんと私でちょうど逆方向になった、というに過ぎないのです。
誌面ではスペース的な問題でしょうね、わが作例のスペアナが軸上1mしか掲載されていなかったので、こちらにリスニングポジションのスペアナも掲載しておきますね。設計・製作者としては、どちらかというと後者のf特を皆さんに見てほしいものなのであります。
「カモハクチョウ」リスニングポジション周波数特性
今作は占有床面積を小さくするためにボディが縦長の構造となり、結果として首のやや短い「鳥型BH」になりました。10cmの鳥型は「スワン」に敬意を表してハクチョウの類縁種から名前を採ることにしているので、首の短いハクチョウはいないかなとネット検索したら、あぁ、いるいる。全身真っ白で顔つきはハクチョウとよく似ていますが、首が短くて全体的なプロポーションはアヒル的な「カモハクチョウ」です。何とも今作のネーミングにピッタリの鳥で笑っちゃいましたね。
こちらが鳥のカモハクチョウ。何とも味わい深いルックスである。
今回の「筆者競作」スピーカー群は、今年もおそらくどこかのオーディオショーで鳴き合わせの会が設けられると思います。多分私の「カモハクチョウ」も呼んでもらえると思います(苦笑)。その際には、ぜひ各先生方の創意によるSolの料理法と味付けの違いを大いに楽しんでほしいと思います。
その節は、(もし私も呼ばれていたらですが)皆さんとお会いできるのを楽しみにしていますね。
月刊「ステレオ」2014年8月号が発売されました(その1) ― 2014/07/23 13:27
先週末の6月19日に月刊「ステレオ」の最新号が発売されましたね。今号は年に一度の「工作特大号」です。
Stereo 2014年8月号
音楽之友社 ¥3,528+税
ここ数年ずっとスピーカーユニットの付録つきという剛毅な特集号ですが、何と今年はウーファーとトゥイーターによる2ウェイ・ユニットが箱の中に封入されています。8cm口径のコーン型ウーファーに2cm口径のドーム型トゥイーターという陣容を、ちょっとだけのぞいてみることとしましょうか。
今年の付録は2ウェイ! 8cmウーファーにはPW80、2cmドーム型トゥイーターにはPT20という型番がついている。
ウーファーのm0(実効振動質量)は2.3gとあります。バックロードホーンにも使えるフルレンジのFE83Enが1.53g、穏やかなバスレフ向きフルレンジのFF85WKが2gですから、やや重いともいえますが、まぁフルレンジとそう変わらないともいえそうです。
一方、出力音圧レベルは83dB。FE83Enが88dB、FF85WKが86.5dBですから、こちらはかなり低めの数値ですね。
f0(最低共振周波数)は130Hz。こちらはFE83Enが165Hzと思い切って高く設定していますがFF85WKは115Hzとかなり低めに欲張っています。
どうやらこのウーファー、トータルでは限られた物量の中で極力尖った部分を持たせず、2ウェイの設定をしやすいように考えられたユニットなのではないかと思えてきます。上の方は5kHzから急上昇で10kHzにピークがあり、そこから急降下するかと思いきや、何とか踏みとどまって20kHzまでしっかり伸びてから落ちています。このピークをどう養生するか、あるいはそのまま鳴らしてしまうかで、スピーカーのキャラクターはかなり左右されるんじゃないかと思われます。
トゥイーターは1kHzより少し上にf0のピークがあって、f特もその辺を中心に低い山を作りそこから下は急降下、上は8kHzくらいまではほぼフラットで、そこから先は凹凸を加えながらダラ下がりに50kHz近辺まで伸びています。周波数特性を見る限り、かなり「使える」トゥイーターに見えてきます。
こちらはまず1kHz近辺の山をどう扱うかが問題になります。周波数特性的には伸びていてもf0の近辺はインピーダンス特性の山が影響して周波数特性を持ち上げているのですから、音質は劣化するしダンピングも悪くなります。もしぎりぎり下まで使いたいということなら、10~50Ωくらいの抵抗をパラに挿入してf0の山をつぶしてやらないとネットワークの特性を狂わせるし、つぶしてフラットにしてやってもどのみちあまり高音質を望むことはかないません。
やっぱりユニット製造元のフォステクスが指定する通り、3kHz以上のクロスオーバーで使うのが無難なようです。もっとも、このセットにはネットワーク素子も付属していて、それは1uFのコンデンサー(無極の電解)1発のみですから、数値でいえばウーファーは伸ばしっぱなし、トゥイーターのみ20kHzのクロスということになります。明らかにこれ、フルレンジ+スーパートゥイーター的な考え方ですね。
ただし、誌面ではユニットを設計されたフォステクスの佐藤勇治さんがコイルとコンデンサーを使った本格的なネットワークも解説してられますから、いろいろに実験してみるのが面白いのでしょうね。
完成したバスレフ型キャビネットを手にするフォステクスカンパニーSP技術の佐藤勇治さん。
また、佐藤さんはキャビネットもいくつか提案されています。ダブルバスレフ方式の図面も掲載されていますが、これはもうすぐ同社から完成品キャビネットとして販売されるそのものの図面だとか。一足先にご自分で作ってしまわれるのもいいんじゃないかと思います。
フォステクス◎スピーカー・キャビネット
P2080-E ¥4,000+税(1本 8月下旬発売)
フォステクスがオフィシャルに発売する付録ユニット専用のダブルバスレフ型キャビネット。なかなか美麗な仕上げだが、1本4,000円とびっくりするほど安い。工作の苦手な人はこれを購入されるのが最善手の一つとなろうが、せっかく図面が公開されているのだ、自作を趣味とする人ならご自分で板を切ってきて作られた方が当然面白いだろう。
フォステクスの「オフィシャル」設計以外にも、例年のように小澤隆久氏の「100均素材で作るキャビネット」や「本格的なハイファイ」のVQWT型(「ダクト付き共鳴管」と説明されています)トールボーイ、浅生昉氏のダブルバスレフ、そして石田善之氏の2ウェイ3スピーカー音場型という美麗物件が掲載されています。各先生方の創意には読者がご自分でキャビネットを構想・設計される際のヒントが山のようにちりばめられていますから、読んでいるだけでもいろいろと構想が広がるんじゃないでしょうか。
小澤隆久さんが100円ショップの「ダイソー」で売られている6mm厚MDFを使って設計・製作された作例。例年のことながらその創意には同じスピーカー工作者として瞠目を禁じ得ない。
私には誌面で付録ユニットによるキャビ製作のお呼びがかからなかったもので、この付録ユニットは見本誌同封分が1セットあるだけですが、こうやって解説していると構想がムクムクと湧き上がってきました。そのうちこのブログで何かしら作るかもしれません。といっても7月末からは「オーディオアクセサリー」と「ステレオ」で忙しくなることが予想されるので、もうちょっと先になりそうですけどね。
バスレフとダブルバスレフ、共鳴管(VQWT)は既に作例が挙がっているので、私は何を作ろうかな。思い切ってバックロードホーン? それとも個人的にこれまで作ったことのないトランスミッション・ライン方式でも試してみましょうかね。
これから始まる取材と原稿書きの日々ですが、合間を見つつ構想を膨らませていきたいと思います。
Stereo 2014年8月号
音楽之友社 ¥3,528+税
ここ数年ずっとスピーカーユニットの付録つきという剛毅な特集号ですが、何と今年はウーファーとトゥイーターによる2ウェイ・ユニットが箱の中に封入されています。8cm口径のコーン型ウーファーに2cm口径のドーム型トゥイーターという陣容を、ちょっとだけのぞいてみることとしましょうか。
今年の付録は2ウェイ! 8cmウーファーにはPW80、2cmドーム型トゥイーターにはPT20という型番がついている。
ウーファーのm0(実効振動質量)は2.3gとあります。バックロードホーンにも使えるフルレンジのFE83Enが1.53g、穏やかなバスレフ向きフルレンジのFF85WKが2gですから、やや重いともいえますが、まぁフルレンジとそう変わらないともいえそうです。
一方、出力音圧レベルは83dB。FE83Enが88dB、FF85WKが86.5dBですから、こちらはかなり低めの数値ですね。
f0(最低共振周波数)は130Hz。こちらはFE83Enが165Hzと思い切って高く設定していますがFF85WKは115Hzとかなり低めに欲張っています。
どうやらこのウーファー、トータルでは限られた物量の中で極力尖った部分を持たせず、2ウェイの設定をしやすいように考えられたユニットなのではないかと思えてきます。上の方は5kHzから急上昇で10kHzにピークがあり、そこから急降下するかと思いきや、何とか踏みとどまって20kHzまでしっかり伸びてから落ちています。このピークをどう養生するか、あるいはそのまま鳴らしてしまうかで、スピーカーのキャラクターはかなり左右されるんじゃないかと思われます。
トゥイーターは1kHzより少し上にf0のピークがあって、f特もその辺を中心に低い山を作りそこから下は急降下、上は8kHzくらいまではほぼフラットで、そこから先は凹凸を加えながらダラ下がりに50kHz近辺まで伸びています。周波数特性を見る限り、かなり「使える」トゥイーターに見えてきます。
こちらはまず1kHz近辺の山をどう扱うかが問題になります。周波数特性的には伸びていてもf0の近辺はインピーダンス特性の山が影響して周波数特性を持ち上げているのですから、音質は劣化するしダンピングも悪くなります。もしぎりぎり下まで使いたいということなら、10~50Ωくらいの抵抗をパラに挿入してf0の山をつぶしてやらないとネットワークの特性を狂わせるし、つぶしてフラットにしてやってもどのみちあまり高音質を望むことはかないません。
やっぱりユニット製造元のフォステクスが指定する通り、3kHz以上のクロスオーバーで使うのが無難なようです。もっとも、このセットにはネットワーク素子も付属していて、それは1uFのコンデンサー(無極の電解)1発のみですから、数値でいえばウーファーは伸ばしっぱなし、トゥイーターのみ20kHzのクロスということになります。明らかにこれ、フルレンジ+スーパートゥイーター的な考え方ですね。
ただし、誌面ではユニットを設計されたフォステクスの佐藤勇治さんがコイルとコンデンサーを使った本格的なネットワークも解説してられますから、いろいろに実験してみるのが面白いのでしょうね。
完成したバスレフ型キャビネットを手にするフォステクスカンパニーSP技術の佐藤勇治さん。
また、佐藤さんはキャビネットもいくつか提案されています。ダブルバスレフ方式の図面も掲載されていますが、これはもうすぐ同社から完成品キャビネットとして販売されるそのものの図面だとか。一足先にご自分で作ってしまわれるのもいいんじゃないかと思います。
フォステクス◎スピーカー・キャビネット
P2080-E ¥4,000+税(1本 8月下旬発売)
フォステクスがオフィシャルに発売する付録ユニット専用のダブルバスレフ型キャビネット。なかなか美麗な仕上げだが、1本4,000円とびっくりするほど安い。工作の苦手な人はこれを購入されるのが最善手の一つとなろうが、せっかく図面が公開されているのだ、自作を趣味とする人ならご自分で板を切ってきて作られた方が当然面白いだろう。
フォステクスの「オフィシャル」設計以外にも、例年のように小澤隆久氏の「100均素材で作るキャビネット」や「本格的なハイファイ」のVQWT型(「ダクト付き共鳴管」と説明されています)トールボーイ、浅生昉氏のダブルバスレフ、そして石田善之氏の2ウェイ3スピーカー音場型という美麗物件が掲載されています。各先生方の創意には読者がご自分でキャビネットを構想・設計される際のヒントが山のようにちりばめられていますから、読んでいるだけでもいろいろと構想が広がるんじゃないでしょうか。
小澤隆久さんが100円ショップの「ダイソー」で売られている6mm厚MDFを使って設計・製作された作例。例年のことながらその創意には同じスピーカー工作者として瞠目を禁じ得ない。
私には誌面で付録ユニットによるキャビ製作のお呼びがかからなかったもので、この付録ユニットは見本誌同封分が1セットあるだけですが、こうやって解説していると構想がムクムクと湧き上がってきました。そのうちこのブログで何かしら作るかもしれません。といっても7月末からは「オーディオアクセサリー」と「ステレオ」で忙しくなることが予想されるので、もうちょっと先になりそうですけどね。
バスレフとダブルバスレフ、共鳴管(VQWT)は既に作例が挙がっているので、私は何を作ろうかな。思い切ってバックロードホーン? それとも個人的にこれまで作ったことのないトランスミッション・ライン方式でも試してみましょうかね。
これから始まる取材と原稿書きの日々ですが、合間を見つつ構想を膨らませていきたいと思います。
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