グスターヴ・ホルスト/組曲「惑星」ほか2014/01/23 10:34

お薦めソフトの第1弾は、いきなりのハイレゾ配信音源です。これ、今出ている号のネットオーディオ誌「私のハイレゾ・ベスト10」的なコーナーで紹介しているんですが、文字数が少なかったもので、タイトルが表示されているだけでどういうソフトか全然書けなかったんですよね。それでいっそのこと、当欄で紹介記事にしてしまおうと思い立ったわけです。

ジャケ写


ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)、はげ山の一夜、
ホルスト/組曲「惑星」
レナード・スラットキン指揮(ムソルグスキー)、ワルター・ジュスキント指揮(ホルスト)
セントルイス交響楽団


こちらの音源です。米Voxレコードにはお買い得詰め合わせ2CDセットがあって、それと同様の体裁で曲を詰め合わせにしたハイレゾ配信音源です。それにしても、作曲者はムソルグスキーホルストの2人で指揮者もスラットキンジュスキントですから、セントルイス響以外の共通点が見当たりません。「もうちょっと売り方を考えた方がいいよ」と助言すべきなのか、はたまた一部を除いて曲単位の分売も可能だから別にこれでかまわないのか。廉価盤レーベルならではというか、ジャケットも全然凝ったものじゃないですし、あんまり難しいことをいっても仕方ないのかもしれませんね。

で、どうしてこんなマイナーなレーベルの作品を「ベスト10」に推したのか。これにはずいぶん長い前節があります。私が大学に入って間もない頃ですから、もう30年近くも前の話になりますね。今はなき秋葉原・石丸電気の本店ソフトフロアでたまたま見つけたCDが、上記ハイレゾと同一音源のホルスト/惑星でした。

故・長岡鉄男氏の「外盤A級セレクション(1)」が発売になり、むさぼるように読んでいた頃とちょうど時期が重なっていて、紹介されている盤に何枚か入っていたMMGレーベルの、フリューゲルホーンをかたどったようなロゴマークを覚えていました。それが見えたので「ひょっとしたら掘り出し物かも!」と引っつかんでレジに並んだ、という次第です。

自宅へ戻りCDの封を切ってビックリ! 光に透かしてみたディスクはさながらプラネタリウムの如し。無数のピンホールが空いてしまっているのです。これは初期のアメリカ盤で、品質管理がお粗末だったんでしょうね。今はそんな盤など薬にしたくてもそうそう見つかるものじゃありませんが、当時は結構いくつもピンホールの空いた盤があったものでした。

当時使っていたCDプレーヤーはCD/LDコンパチブルプレーヤーの1号機パイオニアCLD-9000だったのですが、これがまた読み取りの不安定な代物で、案の定この盤を読み取ることができませんでした。読み取ることさえできればどんな高級プレーヤーにも真似のできないド迫力の再生音を楽しませてくれる、得難いプレーヤーだったんですがねぇ。

かからなければ仕方ないものですから石丸までディスクの交換に向かったんですが、何ともはや私の買った盤が最後の1枚だったとか。「返金しますか?」と訊かれましたが、これも何かの縁とそのまま持って帰ってきました。ですから、この盤をじっくり聴くことができたのはもう1台のプレーヤーを買った後ということになります。

確か次に買ったCDプレーヤーはマランツCD34だったかな。85年に驚異的なベストセラーを記録、一気にCDを普及の軌道へ乗せた記念碑的なプレーヤーです。そのプレーヤーで初めてじっくりと聴いたジュスキントの「惑星」にはたまげました。確かなホールの音場感とともに大編成のオケがどっしりと定位、華やかに音楽の成分が飛び散るような生きいきとみずみずしい鳴りっぷりを聴かせてくれたのです。

学生当時のシステムですから、そう大した装置がそろっていたわけではありません。スピーカー工作だってまださほどのノウハウを蓄積していたわけでもありませんでしたしね。それでもこのソフトの「本質」ははっきりと耳へ飛び込んできました。「あぁ、俺、ひょっとして"当たり"を引いたかな」と、1人でニヤニヤしたことを覚えています。

それでもこのソフト、決して「地上最強の録音」というほどのものではありません。後年になって故・長岡鉄男氏のシアタールーム「方舟」へ担当編集者として足繁く通うようになってから、この盤を持っていって聴かせてもらったことがあるんですが、さわりを聴いたところで先生が立ち上がり、CDラックからプレヴィン/ロイヤル・フィルの「惑星」を取り出してこられました。ご存じ米テラークの名盤です。

方舟の装置では、もう圧倒的にテラークの勝利でした。情報量も音場感もケタが違う、という感じです。「井の中の蛙だったなぁ」とガッカリしてその日は帰りました。

その後すぐに私もテラーク盤を買い求め、自宅の装置で聴くようになりました。でも、何だかちょっと違うのです。テラークは綺麗過ぎるというか、整いすぎているというか。方舟並みに持てる器量を全部引き出してやればテラークが圧倒するのですが、わが家の装置では少々小ぢんまりとして音色の安っぽいMMG盤の方がなぜかしっくりくるような気がして、結局ジュスキントを聴き続けることとなりました。

「惑星」という楽曲についてはもっといろいろ書きたいことがあるので、またそのうち別個エントリを立てますね。

その後、どうやらこの演奏は割合に定評のあるものだったらしく、海外でプレミアム版CDとして発売されていたりもしたそうですね。私がその情報と巡り合った頃にはもうすっかり売り切れてしまった後で、入手することはかないませんでしたが。

いや、何のことはない。高音質ディスク聴きまくり用に有望な盤を探していて、まずVox盤がヒットしたんですよ。「何でMMGじゃなくてVoxなんだろう?」と疑問に思っていたら、どうやらMMGはVoxの社内レーベルのようですね。

ところが、せっかく見つけたというのにその時点で廃盤となってしまっていて、諦めきれずにいろいろ情報を当たっていたらそのプレミアム盤に当たり、慌てて購入しようとしたらとっくに売り切れていた、という次第です。それが3~4年前の話だったかな。以来、「縁がないのかなぁ」とボヤきつつ、つい最近まで個人的にCDを愛聴してきました。

で、話は昨年の12月へ一気に飛びます。ネットオーディオ編集部から「今号はハイレゾ特集だから、筆者のハイレゾ・ベスト10を挙げて下さい」と連絡が入りました。どれを選ぶかもう既に困るくらいのハイレゾ音源は手元にありますが、こういう企画なら「これを挙げなきゃ!」と慌てて購入したのがこの「惑星」を含むVoxの音源だった、というわけです。音源そのものはもう半年ほども前だったかに米HDtracksで販売されていることを確認していて、「そのうち雑誌の企画で取り上げられたら購入しよう」と思っていた(不純ですね (^^;))だけに、まさに渡りに船でした。

ダウンロードした音源を早速、長年愛聴してきたCDと聴き比べたら、もう第1曲の「火星」で完全に勝負アリ! 音像は実体感豊かに生きいきと立ち上がり、音場は遥かに広く澄み切ってどこまでも伸びていきます。一方のCDは、単体で聴いていれば全然気にならなかったというのに、ハイレゾを聴いてしまうとCD版には微細なワウフラッターを感じさせます。「いい演奏と録音だけれど、まぁ仕方ないかな」と思っていた部分がものの見事に払拭されてしまった、といった感があります。

音源の品位は96kHz/24ビットで、今となってはまぁそう突っ込んだ高品位でもないのですが、これだけのサウンドを聴かせてくれたら大満足です。確かCDを買った時は1,300円くらいだったと記憶しますが、ここまで音質向上してかつ「展覧会の絵」「はげ山の一夜」まで詰め合わせになって$17.99なんですから、それはもうただみたいな価格だと思います。

ちなみにあとの2曲ですが、「スラットキンにしては若干ヌルい指揮かな」と思わなくもないものの、立体的な骨格で豪快にオケをドライブするところはさすがアメリカという感じです。オーディオ試聴用にお薦めできる音源じゃないかと思います。

あぁ、長々と思い出話を書き連ねていたら、たった音源ひとつを紹介するのにずいぶんな文字数になっちゃいましたね。でも、雑誌じゃまずこんな誌面の無駄遣いができるはずもありませんから、ひとつブログならではのネタ記事ということでご容赦いただけると幸いです。