わがリファレンス・ソフト(ジャズ編) ― 2014/02/22 09:57
わがリファレンス音源について続けます。お次はジャズ編といきましょう。
ジャズは実のところ腰を据えて聴き始めてからまだ日が浅く、大したライブラリーがありません。別段嫌っていたわけじゃなくて、あまりにも膨大な音楽的資産があるもので、どこから入っていいのか分からず、途方に暮れていたというのが正直なところです。
でも今は便利な世の中になりましたね。YouTubeで聴けるジャズを片っ端から再生し、好みのジャンルとそうでもないものを選り分けていって、「おぉこれは」というアーティストと盤をCDやハイレゾ、中古レコードなどで追いかけるということをやっています。
これまでもいわゆる「定番もの」の盤は割合と買うようにしていました。ソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」やアート・ペッパー「ミーツ・ザ・リズムセクション」、オスカー・ピーターソン「プリーズ・リクエスト」、マイルス・デイヴィス「クールの誕生」、ジョン・コルトレーン「ブルー・トレイン」なんかは、ジャズをじっくり聴き始める前から主にCDで購入、音楽として楽しみ、また試聴盤としても活用してきたものです。
そんな中で一番よく使っている試聴盤は、先のエントリで触れた通り断然ビル・エヴァンス・トリオ「ワルツ・フォー・デビイ」です。いや何のことはない、CDとLPの両方で持っているからというだけのことなんですがね。CDは比較的新しいデジタルリマスタリングの国内盤で、LPはアメリカのFantasy社が出しているごくごく普通の廉価盤です。

CD
ビル・エヴァンス・トリオ ワルツ・フォー・デビイ
ユニバーサル UCCO9003 ¥1,100
買ったのは7~8年も前だったか、当時としてはビックリするほど安価な1,100円だった盤だが、かなりしっかりとしたリマスターがなされているようで、音の厚みや血の通った質感など、CDでも結構やるじゃないかと驚いたものだった。ちなみにわが家にあるLP盤は米Fantasy社製で型番はOJC210。こちらはいささか安っぽいが割合と自然な、廉価盤によくある質感を聴かせる。単体で聴いていればこちらでも結構悪くない。
音は結構違って聴こえます。何とCDの方がずっと音のきめが細かく高品位な音に聴こえるんですね。ただ、ライブ会場の聴衆が立てる音なんかは不思議とアナログの方が自然に聴こえます。デジタルリマスターでギリギリまで品位を高めたCDに対し、アナログは定評ある会社ではありますが1枚10ドルやそこいら(日本で1,200円くらいでしたからもっと安いかな)で売る廉価盤ですからそう手間もかけられないんじゃないかと。そういった事情がそのまま出た違いなのかなという気がしています。
オリジナルのLPなんて聴いてしまったら前2者とも物の数には入らないのかもしれませんが、それでも楽曲、演奏、録音とも結構気に入ってしまっているのは、さすが歴史的名作ならではといったところですかね。
ほか、いつも持ち歩いている仕事用CDケースの中に入っているのは、ジャック・ルーシェ・トリオの「四季」ですね。おなじみヴィヴァルディの楽曲をジャズに組み直した演奏はいくつも耳にすることがありますが、中でもこれは素晴らしい演奏と、かのテラーク・ジャズならではの吹っ飛ばされるような迫力が大いなる聴きどころです。この盤、何の気なしにのぞいていたアマゾンでたまたまバーゲン1,200円だったもので購入しました。だいぶ前の話ですし、今はもう少し高くなっているんじゃないかなぁ。

CD
ジャック・ルーシェ・トリオ ヴィヴァルディ/四季
米TELARC CD83417 ※輸入盤
テラーク・ジャズならではの豪快で吹っ飛ばされるような低音を楽しませながら、音像は実体感たっぷりで渋い艶を放ち、ウッドベースは時に遥か遠くで鳴っているような効果が施された箇所もある。演奏/録音とも何度聴いても飽きることのない、素晴らしい盤だと思う。
もう1枚いつも持ち歩いているいるジャズの盤というと、サイモン・ラトルがロンドン・シンフォニエッタを振った「The Jazz Album」というのがあります。レナード・バーンスタイン、ジョージ・ガーシュウィン、ダリユス・ミヨー、イーゴリ・ストラヴィンスキーといった作曲家たちが繰り広げた、ジャズ的なテイストを色濃く感じさせる楽曲を取り上げた盤です。バーンスタインは「プレリュード、フーガとリフ」、ガーシュウィンはおなじみ「ラプソディ・イン・ブルー」の初演版、ミヨーは「世界の創造」、ストラヴィンスキーは「エボニー・コンチェルト」と、実にいいところを選んでいます。他にもたくさん歌ものなども入っていますし、まだ売っているようなら大いにお薦めの盤です。

CD
The Jazz Album - A Tribute to the Jazz Age
サイモン・ラトル指揮、ロンドン・シンフォニエッタ
英EMI 3 88680 2 ※輸入盤
歌ものの一部を除いてこの盤に収録された曲の大半は別の演奏でも持っているが、この盤が一番好きな演奏が多い。録音はクラシック的な空間込みの方法論で、そう広くないホールかクラシック用のスタジオで録られたような感じだ。掲載しているジャケットはEMIの廉価盤のもので、全く面白くもないものだが、ラトルの顔が掲載されたものなど、いくつかの版があるようだから、掲載しておいて何だが、お探しの人はジャケットを当てにされない方がよろしいかと思う。
CDではあとリターン・トゥ・フォーエバーの「浪漫の騎士」をよく試聴用に使っています。これは前述のYouTube一気聴き中に一発で気に入り、その日のうちにネット通販で買い求めたものです。チック・コリアとその手勢が最もフュージョンの先端を走っていた時期、ある意味でプログレッシブ・ロックあたりと近い音楽性へ至った盤なのではないかと勝手に思っています。

CD
リターン・トゥ・フォーエバー 浪漫の騎士
米Columbia CK65524 ※輸入盤
リターン・トゥ・フォーエバーはメンバーを変遷させつつ長く続いたバンドだが、これが彼らの全盛期といってよいのではないか。チック・コリア(Key)、アル・ディ・メオラ(G)、スタンリー・クラーク(Bs)、レニー・ホワイト(Dr)という布陣は再結成でもよく見かけるし、2曲目「女魔術師」も再演されているのをよく耳にする。
LPでは、数年前に日本コロムビアが復刻した重量盤が何枚かわが家にあります。その中でカーティス・フラーの「ブルースエット」と渡辺香津美「TO CHI KA」はよく試聴に使っています。「ブルースエット」はオリジナル盤をよく聴いている人に聴いてもらっても「あ、これはいい復刻ですね」と太鼓判を押してもらえたし、「TO CHI KA」に至っては、たまたま所有していたアナログ黄金期のレギュラー盤よりもずっといい音で収録されていたもので驚きました。1枚3,800円(税抜き)と今思えばそう価格も高くなかったし、いい復刻だったと思います。売れ残りの新盤を見つけたらもう言うまでもないでしょうが、原価以下で程度のいい盤が中古の棚に入っていても即買いしていいんじゃないかと思います。

LP
カーティス・フラー ブルースエット
日本コロムビア COJY9208 ¥3,800(税抜き)
フラーならではの太く柔らかなトロンボーンとベニー・ゴルソンのどこか素朴でウッディなテナーサックスがくっきりと定位し、全体はクールで見通しの良い音場に包まれている。ベースとドラムもでしゃばりはしないがしっかりと演奏を引き締め、実体感あふれるサウンドを聴かせる。本当にいい復刻だと思う。

LP
渡辺香津美 TO CHI KA
日本コロムビア COJY9238 ¥3,800(税抜き)
コロムビアがフュージョンを意欲的に取り上げていた「ベター・デイズ」レーベルの傑作。キャリアの長いオーディオマニアにとっては日立Lo-DのCM曲だったB面1曲目「ユニコーン」が懐かしいのではないか。もともと持っていた往年のレギュラー盤は今ひとつションボリした音で、特に高域が詰まったような感じだったが、こちらは年月を経た復刻盤だというのにより太く実体感にあふれ、高域は伸び切っている。これが本当の音だったのかと納得した次第だ。
ジャズですからモノーラルの試聴盤にも事欠きません。最近よく使っているのは「カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム」かな。私の持っているLPは東芝EMIから発売された国内再発盤で、何かとあまり評判の良くない時期のものですが、それでも結構な味わいとある種「古色」に近い渋みを感じさせる、楽しめる盤です。

モノーラルLP
ケニー・ドーハム カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム
東芝EMI BLP1524 ¥2,300
単なる国内再発盤だが、それでもどっしりと揺るぎない音像と濃厚な空気感、薄暗い照明まで見えてくるかのような音場がいい感じの盤だ。オリジナル盤ならどんな表情を見せてくれるのだろうと思う。
あとは前述の日本コロムビア復刻盤の中からアート・ペッパーの「サーフ・ライド」も使いますね。こちらも極めて優れた復刻です。

モノーラルLP
アート・ペッパー サーフ・ライド
日本コロムビア COJY9209 ¥3,800(税抜き)
アート・ペッパーのリーダー・アルバムとして第1作となる記念碑的作品。何とも投げやりなイラストのジャケットだが、録音は1950年代前半とは思えないレンジ感と往時ならではの厚みが魅力だ。うっかり聴いているとモノーラルと気づかないまま終わってしまうことがあっても全くおかしくない。
あぁ、クラシックと比べてずいぶんアッサリとした羅列になっちゃったなぁ。これもいまだジャズを聴き始めて日の浅い"にわか"なるがゆえ、と笑ってお許し下さい。
ジャズは実のところ腰を据えて聴き始めてからまだ日が浅く、大したライブラリーがありません。別段嫌っていたわけじゃなくて、あまりにも膨大な音楽的資産があるもので、どこから入っていいのか分からず、途方に暮れていたというのが正直なところです。
でも今は便利な世の中になりましたね。YouTubeで聴けるジャズを片っ端から再生し、好みのジャンルとそうでもないものを選り分けていって、「おぉこれは」というアーティストと盤をCDやハイレゾ、中古レコードなどで追いかけるということをやっています。
これまでもいわゆる「定番もの」の盤は割合と買うようにしていました。ソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」やアート・ペッパー「ミーツ・ザ・リズムセクション」、オスカー・ピーターソン「プリーズ・リクエスト」、マイルス・デイヴィス「クールの誕生」、ジョン・コルトレーン「ブルー・トレイン」なんかは、ジャズをじっくり聴き始める前から主にCDで購入、音楽として楽しみ、また試聴盤としても活用してきたものです。
そんな中で一番よく使っている試聴盤は、先のエントリで触れた通り断然ビル・エヴァンス・トリオ「ワルツ・フォー・デビイ」です。いや何のことはない、CDとLPの両方で持っているからというだけのことなんですがね。CDは比較的新しいデジタルリマスタリングの国内盤で、LPはアメリカのFantasy社が出しているごくごく普通の廉価盤です。

CD
ビル・エヴァンス・トリオ ワルツ・フォー・デビイ
ユニバーサル UCCO9003 ¥1,100
買ったのは7~8年も前だったか、当時としてはビックリするほど安価な1,100円だった盤だが、かなりしっかりとしたリマスターがなされているようで、音の厚みや血の通った質感など、CDでも結構やるじゃないかと驚いたものだった。ちなみにわが家にあるLP盤は米Fantasy社製で型番はOJC210。こちらはいささか安っぽいが割合と自然な、廉価盤によくある質感を聴かせる。単体で聴いていればこちらでも結構悪くない。
音は結構違って聴こえます。何とCDの方がずっと音のきめが細かく高品位な音に聴こえるんですね。ただ、ライブ会場の聴衆が立てる音なんかは不思議とアナログの方が自然に聴こえます。デジタルリマスターでギリギリまで品位を高めたCDに対し、アナログは定評ある会社ではありますが1枚10ドルやそこいら(日本で1,200円くらいでしたからもっと安いかな)で売る廉価盤ですからそう手間もかけられないんじゃないかと。そういった事情がそのまま出た違いなのかなという気がしています。
オリジナルのLPなんて聴いてしまったら前2者とも物の数には入らないのかもしれませんが、それでも楽曲、演奏、録音とも結構気に入ってしまっているのは、さすが歴史的名作ならではといったところですかね。
ほか、いつも持ち歩いている仕事用CDケースの中に入っているのは、ジャック・ルーシェ・トリオの「四季」ですね。おなじみヴィヴァルディの楽曲をジャズに組み直した演奏はいくつも耳にすることがありますが、中でもこれは素晴らしい演奏と、かのテラーク・ジャズならではの吹っ飛ばされるような迫力が大いなる聴きどころです。この盤、何の気なしにのぞいていたアマゾンでたまたまバーゲン1,200円だったもので購入しました。だいぶ前の話ですし、今はもう少し高くなっているんじゃないかなぁ。

CD
ジャック・ルーシェ・トリオ ヴィヴァルディ/四季
米TELARC CD83417 ※輸入盤
テラーク・ジャズならではの豪快で吹っ飛ばされるような低音を楽しませながら、音像は実体感たっぷりで渋い艶を放ち、ウッドベースは時に遥か遠くで鳴っているような効果が施された箇所もある。演奏/録音とも何度聴いても飽きることのない、素晴らしい盤だと思う。
もう1枚いつも持ち歩いているいるジャズの盤というと、サイモン・ラトルがロンドン・シンフォニエッタを振った「The Jazz Album」というのがあります。レナード・バーンスタイン、ジョージ・ガーシュウィン、ダリユス・ミヨー、イーゴリ・ストラヴィンスキーといった作曲家たちが繰り広げた、ジャズ的なテイストを色濃く感じさせる楽曲を取り上げた盤です。バーンスタインは「プレリュード、フーガとリフ」、ガーシュウィンはおなじみ「ラプソディ・イン・ブルー」の初演版、ミヨーは「世界の創造」、ストラヴィンスキーは「エボニー・コンチェルト」と、実にいいところを選んでいます。他にもたくさん歌ものなども入っていますし、まだ売っているようなら大いにお薦めの盤です。

CD
The Jazz Album - A Tribute to the Jazz Age
サイモン・ラトル指揮、ロンドン・シンフォニエッタ
英EMI 3 88680 2 ※輸入盤
歌ものの一部を除いてこの盤に収録された曲の大半は別の演奏でも持っているが、この盤が一番好きな演奏が多い。録音はクラシック的な空間込みの方法論で、そう広くないホールかクラシック用のスタジオで録られたような感じだ。掲載しているジャケットはEMIの廉価盤のもので、全く面白くもないものだが、ラトルの顔が掲載されたものなど、いくつかの版があるようだから、掲載しておいて何だが、お探しの人はジャケットを当てにされない方がよろしいかと思う。
CDではあとリターン・トゥ・フォーエバーの「浪漫の騎士」をよく試聴用に使っています。これは前述のYouTube一気聴き中に一発で気に入り、その日のうちにネット通販で買い求めたものです。チック・コリアとその手勢が最もフュージョンの先端を走っていた時期、ある意味でプログレッシブ・ロックあたりと近い音楽性へ至った盤なのではないかと勝手に思っています。

CD
リターン・トゥ・フォーエバー 浪漫の騎士
米Columbia CK65524 ※輸入盤
リターン・トゥ・フォーエバーはメンバーを変遷させつつ長く続いたバンドだが、これが彼らの全盛期といってよいのではないか。チック・コリア(Key)、アル・ディ・メオラ(G)、スタンリー・クラーク(Bs)、レニー・ホワイト(Dr)という布陣は再結成でもよく見かけるし、2曲目「女魔術師」も再演されているのをよく耳にする。
LPでは、数年前に日本コロムビアが復刻した重量盤が何枚かわが家にあります。その中でカーティス・フラーの「ブルースエット」と渡辺香津美「TO CHI KA」はよく試聴に使っています。「ブルースエット」はオリジナル盤をよく聴いている人に聴いてもらっても「あ、これはいい復刻ですね」と太鼓判を押してもらえたし、「TO CHI KA」に至っては、たまたま所有していたアナログ黄金期のレギュラー盤よりもずっといい音で収録されていたもので驚きました。1枚3,800円(税抜き)と今思えばそう価格も高くなかったし、いい復刻だったと思います。売れ残りの新盤を見つけたらもう言うまでもないでしょうが、原価以下で程度のいい盤が中古の棚に入っていても即買いしていいんじゃないかと思います。

LP
カーティス・フラー ブルースエット
日本コロムビア COJY9208 ¥3,800(税抜き)
フラーならではの太く柔らかなトロンボーンとベニー・ゴルソンのどこか素朴でウッディなテナーサックスがくっきりと定位し、全体はクールで見通しの良い音場に包まれている。ベースとドラムもでしゃばりはしないがしっかりと演奏を引き締め、実体感あふれるサウンドを聴かせる。本当にいい復刻だと思う。

LP
渡辺香津美 TO CHI KA
日本コロムビア COJY9238 ¥3,800(税抜き)
コロムビアがフュージョンを意欲的に取り上げていた「ベター・デイズ」レーベルの傑作。キャリアの長いオーディオマニアにとっては日立Lo-DのCM曲だったB面1曲目「ユニコーン」が懐かしいのではないか。もともと持っていた往年のレギュラー盤は今ひとつションボリした音で、特に高域が詰まったような感じだったが、こちらは年月を経た復刻盤だというのにより太く実体感にあふれ、高域は伸び切っている。これが本当の音だったのかと納得した次第だ。
ジャズですからモノーラルの試聴盤にも事欠きません。最近よく使っているのは「カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム」かな。私の持っているLPは東芝EMIから発売された国内再発盤で、何かとあまり評判の良くない時期のものですが、それでも結構な味わいとある種「古色」に近い渋みを感じさせる、楽しめる盤です。

モノーラルLP
ケニー・ドーハム カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム
東芝EMI BLP1524 ¥2,300
単なる国内再発盤だが、それでもどっしりと揺るぎない音像と濃厚な空気感、薄暗い照明まで見えてくるかのような音場がいい感じの盤だ。オリジナル盤ならどんな表情を見せてくれるのだろうと思う。
あとは前述の日本コロムビア復刻盤の中からアート・ペッパーの「サーフ・ライド」も使いますね。こちらも極めて優れた復刻です。

モノーラルLP
アート・ペッパー サーフ・ライド
日本コロムビア COJY9209 ¥3,800(税抜き)
アート・ペッパーのリーダー・アルバムとして第1作となる記念碑的作品。何とも投げやりなイラストのジャケットだが、録音は1950年代前半とは思えないレンジ感と往時ならではの厚みが魅力だ。うっかり聴いているとモノーラルと気づかないまま終わってしまうことがあっても全くおかしくない。
あぁ、クラシックと比べてずいぶんアッサリとした羅列になっちゃったなぁ。これもいまだジャズを聴き始めて日の浅い"にわか"なるがゆえ、と笑ってお許し下さい。
CDボックスはリッピングして楽しもう ― 2014/02/20 01:46
リファレンス・ソフトのクラシックについて書いてたら、ずいぶんな文字数になっちゃったものでエントリを分けました。ここではちょっとPCオーディオ系音源について話しましょうか。
お恥ずかしい話なんですが、私はごく最近になるまでワーグナーの面白味が全然理解できませんでした。わが家にもワーグナーは何セットかありますから、好きになれるかと何度もチャレンジはしていたのですが、「ところどころに心掻きむしる、あるいは血沸き肉踊る展開が埋め込まれてはいるものの、あんな長いものをよく聴いていられるものだ」なんて感想にとどまってしまい、結局好んでトレイへ載せるようにはならなかったものです。
ところが、最近になって「ニーベルングの指輪」のCDをリッピングしてPCへ収めたんですよ。それで改めて再生してみたら何たることか、実にスルスルと耳へ入ってくるじゃないですか! いっぺんに通しで聴き切ってしまいました。ワーグナーがこんなに楽しかったなんて!
「ただリッピングしただけなのに、一体どこが違うんだろう?」とひとしきり考えてみたんですが、何のことはない、「ディスクのかけ替えがいらない」というポイントに尽きるんじゃないかと。手元の「指輪」はCD14枚組で、「ラインの黄金」だけでも2枚のCDを要しています。CDで聴いていると音楽が途中で途切れてしまい、かけ替えの際に「また今度でいいや」なんて思っちゃったが最後、その「今度」はもう当分訪れることはなく、結局どこまで聴いたかも分からなくなり、ということになりがちだったのです。
その点リッピング音源なら尺を気にせず1曲を1フォルダにまとめることが可能ですから、途中で止まる心配がありません。しかも、私は各楽曲ごとに作ったフォルダの下位へさらに幕ごとのフォルダで分類してありますから、楽曲を通しで聴くことも幕ごとに聴くことも可能になっています。非常に自由度が高いんですね。
同じことをCDでやろうとすると、ライナーノーツ首っ引きで盤をかけ替えながら行わなきゃいけませんでした。ゆったりとした気分で音楽鑑賞というにはいささか遠い営為といわざるを得ませんね。ましてLPレコードはA/B面もありますから、どれほどの手間であろうかと思うといささかウンザリするところなきにしもあらずです。
いや、もちろん故・長岡鉄男氏も絶賛されたショルティ/VPOの金字塔をアナログで聴いた際の感動もよく分かっています。所有している友人が少なくなく、いろいろな環境で聴かせてもらっていますからね。でも、それと「何も気にせず音楽のみに没入できる」喜びとは、全く別のジャンルに収めなければならないものだと思うのです。
ちなみに私が愛聴している「指輪」はギュンター・ノイホルト指揮、カールスルーエ・バーデン州立歌劇場のライブ盤です。私が買った時で確かセット2,000円したかどうか。だいぶ為替が下落した今なお3,000円も出さずに買えるウルトラ激安盤です。ちょっと前にクラシック・ファンの間では評判になりましたから、ご存じの人も多いでしょうね。

CD
ワーグナー ニーベルングの指輪 全曲版
ギュンター・ノイホルト指揮、カールスルーエ・バーデン州立歌劇場管弦楽団、同合唱団ほか
独DOCUMENTS 224056 375 ※輸入盤
元はベラ・ムジカというレーベルから発売されたセットで、それがオランダのBrilliantで廉価盤となり、その数年後さらにMembran-Documentsで廉価盤化されるという数奇な運命をたどった音源。元の値段からしたら10分の1くらいになっているのではないだろうか。演奏・録音とも十二分に鑑賞に堪える、素晴らしいボックスセットである。
ならば演奏・録音はどうかというと、これが結構健闘しているんですよ。ブリュンヒルデがちょっと音域が伸び切らなくてヒイヒイ言っているのを除けば、歌手陣は入れ込みすぎず、流しすぎずでいい感じに歌っているし、オケはライブの割に傷が非常に少なく、安心して聴いていられるのは驚くばかりです。カールスルーエ・バーデン州立歌劇場管弦楽団というとあまり著名な楽団じゃないと思うんですが、欧州の各地方に昔から根付いているオペラ文化の深みに触れるような気がする演奏です。
対するにわが地元、日本有数の音響を誇る小ホール「田園ホール・エローラ」を作ってもう20年以上にもなるというのに、常設の楽団が存在していません。オペラを持てとまで無理はいわないから、せめて室内管弦楽団か、それが無理なら弦楽合奏団くらい持てないものかと思い、地元の議員に陳情したりもしているんですが、文化に理解のある議員が絶望的に少なく、なかなか先へ進まない状況です。地元に音楽科を持つ高校があり、そこの卒業生からプロになった人を集めるくらいのことはできないのか、などと素人は考えちゃうんですけどねぇ。
すみません、グチになっちゃいました。
一方、LPの時代からCDになっても、一定以下の尺の作品には「オマケ」として小曲が付属していることが多いものですよね。まとめて買うこともなかなかないし、そういう機会でもないとまず聴かないだろうという曲が手元に増えるのは喜ばしいことでもありますが、あれは一面で困ったことも引き起こしかねません。
要は、大きな曲が終わって感動の余韻に浸っていると、次の曲が始まってしまうのですね。エンディングの曖昧な曲になると、別の曲が始まっているのに気がつかず、そのまま記憶へと刷り込まれてしまい、むしろ曲を単独で聴くと違和感を生ずるようにすらなってしまっていたり。学生時分に買い込んだニールセンの交響曲第2番(CD)は「アラジン」組曲が一緒に入っていましたが、おかげで2番が終わったら自動的に「アラジン」が始まるような条件反射が身についてしまい、他の演奏を聴いた時に違和感が残って仕方なかったものでした。まだまだたくさんそういうCDやLPが手元にあります。

CD
カール・ニールセン 交響曲第2番、「アラジン」組曲
チョン・ミョンフン指揮、イエテボリ交響楽団
スウェーデンBIS CD247 ※輸入盤
長岡鉄男氏の「外盤ジャーナル」によると「BISとしてはベストではない」ということだが、実際に聴いてみるとそれでも結構な高音質である。広大な音場の奥にオケがくっきりと定位、遠くの音像が楽員1人ずつ数えられるような解像度で耳へ迫る。このアルバムは私のオーディオにおける成長の過程を見守ってきてくれたものでもあり、そのうちまた別エントリで詳述したいと思う。
PCオーディオならそういう心配はありません。がんがんリッピングしておいて、PCのHDD(あるいはNAS)上で編集してフォルダを分けておけば選曲時にも"混じる"ことがありませんし、そうまでしなくても再生時にトラックを選べばいいのですから、LPはいうまでもなく、CDのプログラム再生ほどの手間も必要ありません。
ちなみに私はiTunesなどの楽曲管理ソフトは導入せず、HDDにジャンル別のフォルダを作って作曲家の名前でアルファベット順に並べるようにしています。メディアプレーヤーはfoobar2000を主に使っていますが、聴きたい曲をドラッグ&ドロップして再生、聴き終わったら削除するという繰り返しで、何不自由なくPCオーディオ生活を営んでいます。
最近はレコード会社が各社工夫して少しでも安価に商品を提供しようとしているのがありがたいところです。中でもジュゼッペ・シノーポリが残したマーラーの名演を、「嘆きの歌」を除いてしまったのは残念ですが、それだけで15枚組から12枚組に圧縮し、価格を3分の1ほどにまで下げた「エロクエンス」ボックスセットは、金のないマーラー・ファン、そしてシノーポリ・ファンにとって大いなる朗報でした。

CD
マーラー 交響曲全集
ジュゼッペ・シノーポリ指揮、フィルハーモニア管弦楽団、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
独Deutsche Grammophon 480 4742 ※輸入盤
前々から欲しかったが高価でなかなか購入するに至らなかったシノーポリのマーラー全集が安く再発されたというので喜んで買ってみたら、ひどく聴きづらいセットだった。そういう印象をお持ちの人も多いのではないか。こういう組み物こそリッピングで自ら整理して聴くのが一番だと思うのだ。
しかしこのセット、1枚目に第1番と第2番の第1楽章、2枚目には第2番の残り、3枚目は第3番の5楽章までが入り、4枚目は3番の6楽章に続いていきなり7番の3楽章までが入れられ、5枚目は7番の残りに続いて8番の8曲目まで、6枚目は8番の残りに「さすらう若者の歌」が詰め込まれ、7枚目は「大地の歌」全曲に第4番の第1楽章、8枚目は4番の残りに「亡き子をしのぶ歌」、9枚目は第5番の全曲、10枚目は「若き日の歌」より6曲が入ってから第6番の3楽章まで、11枚目は6番の4楽章に9番の第2部まで、12枚目は9番の残りと10番(第1楽章のみ)と、いやはやもう限られたCDの器の中へ効率的に詰め込むことのみを目標とした、シッチャカメッチャカな曲順と途中の仮借ないぶった切りが大きな特徴なのであります。
それにしても上の段落、読みづらいことこの上ないですねぇ。全部読んで下さった方には謹んでお詫び申し上げます。
そんなゴチャ混ぜブツ切りのボックスセットなものですから、私も買ったはいいもののなかなか手が出ないという状況で、しばらくCDラックの片隅でアクビをしていたものでした。
そんな私も仕事柄の必要に駆られ、また個人的な興味もあってPCオーディオを本格的に開始します。あんまりハイレゾ音源を大量に買う予算もないものですから、手元のCDをどんどんリッピングし始めました。そこで真っ先に思いついたのがこのボックスです。リッピングさえしてしまえばあとはこっちのもの、前述の通り曲別にフォルダ分けして整理してやれば、いつでも盤のかけ替えなしに楽しむことができるようになるのです。おかげでこのボックス、今では最も再生頻度の高い音源のひとつになっています。
これはジャズなんかでも全く同じ事情です。ジャズやポップス系のリファレンス・ディスクについてはまた別項を設けますが、リッピング音源だけちょっとここで触れておきましょうか。
この後のエントリで詳述しますが、ジャズのリファレンスで最もよく使っているビル・エヴァンス「ワルツ・フォー・デビイ」のCDがまた困ったことに、サービスのつもりで別テイクや未採用曲をボーナス・トラックとして収録しています。それらの楽曲自身はちょっと面白いもので、資料的な価値は実に高いというべきでしょうね。
しかし、本テイクに隣接させて別テイクを置いてある構成がどうにもいただけません。おかげで元のLPと曲順が違ってしまい、聴いているとイライラと違和感ばかりが募ってしまうのですね。同じ曲が何回もかかるわけですし。
というわけで、こちらも早々にリッピングしてボーナス・トラックだけ別フォルダへ収めました。これでずいぶん聴きやすくなり、試聴のみならず、執筆時のBGMとしても大いに役立ってもらっています。
また、今時は往年のジャズ・ジャイアンツが残した名盤をまとめて、俄かには信じられないような安値で売っているんですね。先日買ったマイルス・デイヴィスのCD10枚組(LPにして何と20枚組)は何ともはや、1,900円くらいでした。「こりゃ安い買い物だった」と喜んだらそれでもまだ底値ではなく、1,680円なんて値札をつけてる店も後から見かけましたからね。私が買った値段でもマイルスの名盤1枚あたり95円ですよ! 全くもってありがたいというか、ジャズ・ジャイアンツに申し訳ないというか。

CD
マイルス・デイヴィス TWENTY CLASSIC ALBUMS
英musicmelon RGJCD246 ※輸入盤
1950年の「クールの誕生」から1958年「マイルストーン」までの20枚を凝縮したボックスセット。音も決して悪くない。かなり真面目に作られた組み物というイメージが濃厚に漂うセットである。
でも、そんな規模の大きな組み物を買うと、通しで聴くのも大変です。そんな時に一番敷居を下げてくれるのはやっぱりリッピング音源にしてしまうことだと思うんですね。最初はかなり大変で、特にアルバム名や曲名を「後から編集すりゃいいやぁ」とばかり最初から入れておかずにいると、必ずといっていいくらい何が何やら分からなくなり、せっかくリッピングしても宝の持ち腐れとなってしまいます。必ず曲名やアルバム名をしっかりと編集してからリッピングすることを薦めます。
そうやってきっちりアルバム20枚分のリッピング音源が整ってから、既に一体私は何回通しで聴いたかしれません。もちろん気に入ったアルバムは何度も単独で聴いていますし、実に快適至極です。
勢い余ってデイヴ・ブルーベックのクラシック・アルバム20枚組も買っちゃいました。こちらは再安の1,680円です。全く同じようにリッピングし、大いに楽しんでいます。

CD
デイヴ・ブルーベック TWENTY CLASSIC ALBUMS
英musicmelon RGJCD318 ※輸入盤
こちらも音質はそこそこ良好、たっぷりと楽しめるボックスセットである。
思えば、前述のシノーポリによるマーラーやこういうジャズの大きな組み物は、表立っては言わないとしても、レコード会社としては「リッピング用」と考えているんじゃないかと考えられる節があります。件のマーラーなんていくら安くたってそうでもしないと不便でそうそう聴く気にならないんですからね。今はMP3で音源を配信している会社も数多くあり、もちろんハイレゾ音源もたくさん登場してきてはいるのですが、まだまだCDの製盤工場も稼動させないと赤字が蓄積してしまうし、ということで、CDの延命策として「リッピング用CD」というものを売り出しているのではないか、と考えるわけです。
こういう組み物はまだまだあり、私も散々買ってきたし、これからも買っていくだろうと思います。でも、リッピング前提でないとここまで購入意欲は出なかったろうな、とも。皆さんもぜひどんどんCDをリッピングして快適PCオーディオ・ライフを送ろうではありませんか。
お恥ずかしい話なんですが、私はごく最近になるまでワーグナーの面白味が全然理解できませんでした。わが家にもワーグナーは何セットかありますから、好きになれるかと何度もチャレンジはしていたのですが、「ところどころに心掻きむしる、あるいは血沸き肉踊る展開が埋め込まれてはいるものの、あんな長いものをよく聴いていられるものだ」なんて感想にとどまってしまい、結局好んでトレイへ載せるようにはならなかったものです。
ところが、最近になって「ニーベルングの指輪」のCDをリッピングしてPCへ収めたんですよ。それで改めて再生してみたら何たることか、実にスルスルと耳へ入ってくるじゃないですか! いっぺんに通しで聴き切ってしまいました。ワーグナーがこんなに楽しかったなんて!
「ただリッピングしただけなのに、一体どこが違うんだろう?」とひとしきり考えてみたんですが、何のことはない、「ディスクのかけ替えがいらない」というポイントに尽きるんじゃないかと。手元の「指輪」はCD14枚組で、「ラインの黄金」だけでも2枚のCDを要しています。CDで聴いていると音楽が途中で途切れてしまい、かけ替えの際に「また今度でいいや」なんて思っちゃったが最後、その「今度」はもう当分訪れることはなく、結局どこまで聴いたかも分からなくなり、ということになりがちだったのです。
その点リッピング音源なら尺を気にせず1曲を1フォルダにまとめることが可能ですから、途中で止まる心配がありません。しかも、私は各楽曲ごとに作ったフォルダの下位へさらに幕ごとのフォルダで分類してありますから、楽曲を通しで聴くことも幕ごとに聴くことも可能になっています。非常に自由度が高いんですね。
同じことをCDでやろうとすると、ライナーノーツ首っ引きで盤をかけ替えながら行わなきゃいけませんでした。ゆったりとした気分で音楽鑑賞というにはいささか遠い営為といわざるを得ませんね。ましてLPレコードはA/B面もありますから、どれほどの手間であろうかと思うといささかウンザリするところなきにしもあらずです。
いや、もちろん故・長岡鉄男氏も絶賛されたショルティ/VPOの金字塔をアナログで聴いた際の感動もよく分かっています。所有している友人が少なくなく、いろいろな環境で聴かせてもらっていますからね。でも、それと「何も気にせず音楽のみに没入できる」喜びとは、全く別のジャンルに収めなければならないものだと思うのです。
ちなみに私が愛聴している「指輪」はギュンター・ノイホルト指揮、カールスルーエ・バーデン州立歌劇場のライブ盤です。私が買った時で確かセット2,000円したかどうか。だいぶ為替が下落した今なお3,000円も出さずに買えるウルトラ激安盤です。ちょっと前にクラシック・ファンの間では評判になりましたから、ご存じの人も多いでしょうね。

CD
ワーグナー ニーベルングの指輪 全曲版
ギュンター・ノイホルト指揮、カールスルーエ・バーデン州立歌劇場管弦楽団、同合唱団ほか
独DOCUMENTS 224056 375 ※輸入盤
元はベラ・ムジカというレーベルから発売されたセットで、それがオランダのBrilliantで廉価盤となり、その数年後さらにMembran-Documentsで廉価盤化されるという数奇な運命をたどった音源。元の値段からしたら10分の1くらいになっているのではないだろうか。演奏・録音とも十二分に鑑賞に堪える、素晴らしいボックスセットである。
ならば演奏・録音はどうかというと、これが結構健闘しているんですよ。ブリュンヒルデがちょっと音域が伸び切らなくてヒイヒイ言っているのを除けば、歌手陣は入れ込みすぎず、流しすぎずでいい感じに歌っているし、オケはライブの割に傷が非常に少なく、安心して聴いていられるのは驚くばかりです。カールスルーエ・バーデン州立歌劇場管弦楽団というとあまり著名な楽団じゃないと思うんですが、欧州の各地方に昔から根付いているオペラ文化の深みに触れるような気がする演奏です。
対するにわが地元、日本有数の音響を誇る小ホール「田園ホール・エローラ」を作ってもう20年以上にもなるというのに、常設の楽団が存在していません。オペラを持てとまで無理はいわないから、せめて室内管弦楽団か、それが無理なら弦楽合奏団くらい持てないものかと思い、地元の議員に陳情したりもしているんですが、文化に理解のある議員が絶望的に少なく、なかなか先へ進まない状況です。地元に音楽科を持つ高校があり、そこの卒業生からプロになった人を集めるくらいのことはできないのか、などと素人は考えちゃうんですけどねぇ。
すみません、グチになっちゃいました。
一方、LPの時代からCDになっても、一定以下の尺の作品には「オマケ」として小曲が付属していることが多いものですよね。まとめて買うこともなかなかないし、そういう機会でもないとまず聴かないだろうという曲が手元に増えるのは喜ばしいことでもありますが、あれは一面で困ったことも引き起こしかねません。
要は、大きな曲が終わって感動の余韻に浸っていると、次の曲が始まってしまうのですね。エンディングの曖昧な曲になると、別の曲が始まっているのに気がつかず、そのまま記憶へと刷り込まれてしまい、むしろ曲を単独で聴くと違和感を生ずるようにすらなってしまっていたり。学生時分に買い込んだニールセンの交響曲第2番(CD)は「アラジン」組曲が一緒に入っていましたが、おかげで2番が終わったら自動的に「アラジン」が始まるような条件反射が身についてしまい、他の演奏を聴いた時に違和感が残って仕方なかったものでした。まだまだたくさんそういうCDやLPが手元にあります。

CD
カール・ニールセン 交響曲第2番、「アラジン」組曲
チョン・ミョンフン指揮、イエテボリ交響楽団
スウェーデンBIS CD247 ※輸入盤
長岡鉄男氏の「外盤ジャーナル」によると「BISとしてはベストではない」ということだが、実際に聴いてみるとそれでも結構な高音質である。広大な音場の奥にオケがくっきりと定位、遠くの音像が楽員1人ずつ数えられるような解像度で耳へ迫る。このアルバムは私のオーディオにおける成長の過程を見守ってきてくれたものでもあり、そのうちまた別エントリで詳述したいと思う。
PCオーディオならそういう心配はありません。がんがんリッピングしておいて、PCのHDD(あるいはNAS)上で編集してフォルダを分けておけば選曲時にも"混じる"ことがありませんし、そうまでしなくても再生時にトラックを選べばいいのですから、LPはいうまでもなく、CDのプログラム再生ほどの手間も必要ありません。
ちなみに私はiTunesなどの楽曲管理ソフトは導入せず、HDDにジャンル別のフォルダを作って作曲家の名前でアルファベット順に並べるようにしています。メディアプレーヤーはfoobar2000を主に使っていますが、聴きたい曲をドラッグ&ドロップして再生、聴き終わったら削除するという繰り返しで、何不自由なくPCオーディオ生活を営んでいます。
最近はレコード会社が各社工夫して少しでも安価に商品を提供しようとしているのがありがたいところです。中でもジュゼッペ・シノーポリが残したマーラーの名演を、「嘆きの歌」を除いてしまったのは残念ですが、それだけで15枚組から12枚組に圧縮し、価格を3分の1ほどにまで下げた「エロクエンス」ボックスセットは、金のないマーラー・ファン、そしてシノーポリ・ファンにとって大いなる朗報でした。

CD
マーラー 交響曲全集
ジュゼッペ・シノーポリ指揮、フィルハーモニア管弦楽団、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
独Deutsche Grammophon 480 4742 ※輸入盤
前々から欲しかったが高価でなかなか購入するに至らなかったシノーポリのマーラー全集が安く再発されたというので喜んで買ってみたら、ひどく聴きづらいセットだった。そういう印象をお持ちの人も多いのではないか。こういう組み物こそリッピングで自ら整理して聴くのが一番だと思うのだ。
しかしこのセット、1枚目に第1番と第2番の第1楽章、2枚目には第2番の残り、3枚目は第3番の5楽章までが入り、4枚目は3番の6楽章に続いていきなり7番の3楽章までが入れられ、5枚目は7番の残りに続いて8番の8曲目まで、6枚目は8番の残りに「さすらう若者の歌」が詰め込まれ、7枚目は「大地の歌」全曲に第4番の第1楽章、8枚目は4番の残りに「亡き子をしのぶ歌」、9枚目は第5番の全曲、10枚目は「若き日の歌」より6曲が入ってから第6番の3楽章まで、11枚目は6番の4楽章に9番の第2部まで、12枚目は9番の残りと10番(第1楽章のみ)と、いやはやもう限られたCDの器の中へ効率的に詰め込むことのみを目標とした、シッチャカメッチャカな曲順と途中の仮借ないぶった切りが大きな特徴なのであります。
それにしても上の段落、読みづらいことこの上ないですねぇ。全部読んで下さった方には謹んでお詫び申し上げます。
そんなゴチャ混ぜブツ切りのボックスセットなものですから、私も買ったはいいもののなかなか手が出ないという状況で、しばらくCDラックの片隅でアクビをしていたものでした。
そんな私も仕事柄の必要に駆られ、また個人的な興味もあってPCオーディオを本格的に開始します。あんまりハイレゾ音源を大量に買う予算もないものですから、手元のCDをどんどんリッピングし始めました。そこで真っ先に思いついたのがこのボックスです。リッピングさえしてしまえばあとはこっちのもの、前述の通り曲別にフォルダ分けして整理してやれば、いつでも盤のかけ替えなしに楽しむことができるようになるのです。おかげでこのボックス、今では最も再生頻度の高い音源のひとつになっています。
これはジャズなんかでも全く同じ事情です。ジャズやポップス系のリファレンス・ディスクについてはまた別項を設けますが、リッピング音源だけちょっとここで触れておきましょうか。
この後のエントリで詳述しますが、ジャズのリファレンスで最もよく使っているビル・エヴァンス「ワルツ・フォー・デビイ」のCDがまた困ったことに、サービスのつもりで別テイクや未採用曲をボーナス・トラックとして収録しています。それらの楽曲自身はちょっと面白いもので、資料的な価値は実に高いというべきでしょうね。
しかし、本テイクに隣接させて別テイクを置いてある構成がどうにもいただけません。おかげで元のLPと曲順が違ってしまい、聴いているとイライラと違和感ばかりが募ってしまうのですね。同じ曲が何回もかかるわけですし。
というわけで、こちらも早々にリッピングしてボーナス・トラックだけ別フォルダへ収めました。これでずいぶん聴きやすくなり、試聴のみならず、執筆時のBGMとしても大いに役立ってもらっています。
また、今時は往年のジャズ・ジャイアンツが残した名盤をまとめて、俄かには信じられないような安値で売っているんですね。先日買ったマイルス・デイヴィスのCD10枚組(LPにして何と20枚組)は何ともはや、1,900円くらいでした。「こりゃ安い買い物だった」と喜んだらそれでもまだ底値ではなく、1,680円なんて値札をつけてる店も後から見かけましたからね。私が買った値段でもマイルスの名盤1枚あたり95円ですよ! 全くもってありがたいというか、ジャズ・ジャイアンツに申し訳ないというか。

CD
マイルス・デイヴィス TWENTY CLASSIC ALBUMS
英musicmelon RGJCD246 ※輸入盤
1950年の「クールの誕生」から1958年「マイルストーン」までの20枚を凝縮したボックスセット。音も決して悪くない。かなり真面目に作られた組み物というイメージが濃厚に漂うセットである。
でも、そんな規模の大きな組み物を買うと、通しで聴くのも大変です。そんな時に一番敷居を下げてくれるのはやっぱりリッピング音源にしてしまうことだと思うんですね。最初はかなり大変で、特にアルバム名や曲名を「後から編集すりゃいいやぁ」とばかり最初から入れておかずにいると、必ずといっていいくらい何が何やら分からなくなり、せっかくリッピングしても宝の持ち腐れとなってしまいます。必ず曲名やアルバム名をしっかりと編集してからリッピングすることを薦めます。
そうやってきっちりアルバム20枚分のリッピング音源が整ってから、既に一体私は何回通しで聴いたかしれません。もちろん気に入ったアルバムは何度も単独で聴いていますし、実に快適至極です。
勢い余ってデイヴ・ブルーベックのクラシック・アルバム20枚組も買っちゃいました。こちらは再安の1,680円です。全く同じようにリッピングし、大いに楽しんでいます。

CD
デイヴ・ブルーベック TWENTY CLASSIC ALBUMS
英musicmelon RGJCD318 ※輸入盤
こちらも音質はそこそこ良好、たっぷりと楽しめるボックスセットである。
思えば、前述のシノーポリによるマーラーやこういうジャズの大きな組み物は、表立っては言わないとしても、レコード会社としては「リッピング用」と考えているんじゃないかと考えられる節があります。件のマーラーなんていくら安くたってそうでもしないと不便でそうそう聴く気にならないんですからね。今はMP3で音源を配信している会社も数多くあり、もちろんハイレゾ音源もたくさん登場してきてはいるのですが、まだまだCDの製盤工場も稼動させないと赤字が蓄積してしまうし、ということで、CDの延命策として「リッピング用CD」というものを売り出しているのではないか、と考えるわけです。
こういう組み物はまだまだあり、私も散々買ってきたし、これからも買っていくだろうと思います。でも、リッピング前提でないとここまで購入意欲は出なかったろうな、とも。皆さんもぜひどんどんCDをリッピングして快適PCオーディオ・ライフを送ろうではありませんか。
わがリファレンス・ソフト(クラシック編) ― 2014/02/18 20:26
私のリファレンス・ソフトについて少しお話したいと思います。といっても「このソフトを買っておけば高音質チェックはカンペキ!」といった記事にはなりません。私自身、チェックに使うソフトは始終変更していますし、それに何より個人的に「高音質であれば内容は問わない」という聴き方ができないもので、どうしても楽曲や演奏が好みに合うソフトの中から選ぶことになってしまうものですからね。
アナログ/デジタルとも長年にわたってクラシックのリファレンス盤としてしょっちゅう引っ張り出しているのがストラヴィンスキーの「火の鳥」、ピエール・ブーレーズ/ニューヨーク・フィルハーモニックの演奏です。レコード盤の方はまだ20代の頃、お茶の水ディスクユニオンの見切りワゴンで見つけました。キズ盤につき50円という捨て値で転がっていた盤です。何の期待もせずに拾い上げた盤でしたが、帰宅して針を落としてみると、A面の冒頭5分頃に少しバチバチいうものの、それ以外は結構良好なコンディションでした。
当時使っていたリファレンス・システムはスピーカーがテクニクスの7cmフルレンジEAS-7F10×1発のバックロードホーン(BH、この作例は20年以上後に学研の「大人の科学マガジン」で「ヒヨッ子」として発表しました)で、とりわけ低音再生に限界があり、100Hz以下急降下という代物だったものですから、その盤の実力はとても発揮させることができず、「うん、まぁいい盤かな」といったくらいで終わっていましたが、この盤はその後システムをグレードアップするたびに猛烈な器の大きさを少しずつ表してくるようになりました。まさに止めども知らぬ向上ぶりを聴かせてくれるのです。
わが家のシステムでこれほど変化が分かりやすいのだからこれはありがたい、というわけでこの仕事を始めて間もなくから試聴用のリファレンスとして活用している、という次第です。
ただしこのLP、私が所有しているのは米コロムビア盤です。この音源が収録された1975年当時というと、手元にある日本のCBSソニーによるレコードの大半はいまだ高音質とはとてもいい難く、日本盤についてはお薦めリストから外させてもらいます。
個人的にではありますが、CBSソニーは1970年代の終わり頃に突如としてとてつもない高音質化を遂げたという印象があります。1970年代に発売されたバーンスタインのLPなんて何枚買ってはガッカリしたことか。それが、CD時代を間近に控えた1980年頃、ちょうど伝説の「マスターサウンド」盤が登場した時期と重なるんでしょうね、それくらいから先の盤はビックリするくらい高音質になっていて目を白黒させたものでした。
バーンスタインだって後にCDで買い直した当時の演奏には素晴らしい優秀録音が結構あるんですよね。1970年代までのCBSソニーの製盤は一体何をやっていたんだ! と机を叩きたくなります。
ちなみにこの音源はCDでも所有しています。とある雑誌で「ブルースペックCD」や「HQCD」「SHM-CD」などの新世代製盤技術を使った高音質CDを聴く企画を受けたんですが、その時に何枚か買った中の1枚がこれでした。ソニー・クラシカルの盤ですからブルースベックCDです。

ブルースペックCD
ストラヴィンスキー 火の鳥~1910年版~
バルトーク 中国の不思議な役人
ピエール・ブーレーズ指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック
ソニーミュージック SICC20005 ¥2,500(税込み)
わが永遠のリファレンス音源というべき「火の鳥」。ジャケットはブルースペックCD版を掲載しているが、LPもほんの僅かトリミングが違うくらいで火の鳥のイラストは共通である。くれぐれも国内盤LPには手を出されぬよう。
本当に優れたアナログのソフトを所有していて同じ音源をCDで購入すると、時に癒し難い「これじゃない感」に襲われることがあります。ミシェル・プラッソンがトゥールーズ市立管弦楽団を振ったオネゲルの交響曲第3番「典礼風」と「パシフィック231」が収まった盤なんてまさにそうでした。LPを中古盤でたまたま購入して演奏と音質に感激、探してCDも購入し、「高音質ディスク聴きまくり」で取り上げてやろうと思ったら、通販で届いたCD(オネゲルの交響曲全集でしたが)は何とも元気のない輝きの失せてしまったようなサウンドでした。それでも他に取り上げる盤がない回には昇格させるべく、ずっと「補欠」として候補へ入れていたのですが、結局取り上げず仕舞いになっちゃったなぁ。
その点、この「火の鳥」は少なくともブルースペックCDを聴く限り、その心配はありません。もちろん全く同一の音質にはなりようがありませんが、それぞれにちゃんと良いところを聴かせてくれるので、アナログ/デジタル共通音源として大いに活用することとなりました。
またこのCD、「火の鳥」のほかにバルトーク「中国の不思議な役人」も収録されていて、それがまた素晴らしい演奏と録音です。お買い得の盤だと思います。
同じようにアナログ/デジタル両音源でリファレンスに使っている盤というと、ベルリオーズの「幻想交響曲」もあります。ご存じ米テラークの名盤、ロリン・マゼール/クリーブランド管弦楽団の演奏でです。マゼールがテラークに残した音源で至高のものといえば個人的には一も二もなくストラヴィンスキー「春の祭典」だと確信していますが、あれは聴き始めると没頭してしまって試聴になりません。幻想交響曲くらい「耳タコ」になっていないと仕事に使うのは難しいものですね。

CD
ベルリオーズ 幻想交響曲
ロリン・マゼール指揮、クリーブランド管弦楽団
米TELARC CD80076 ※輸入盤
キャリアの長いマニア諸賢にはいわずと知れた名盤であろう。佃煮にするほどある「幻想」の中で実のところ最も気に入った演奏というわけではないのだが、機器の音の違いを読み取ることにかけては極めて優れた音源で、LPと重複して所有していることもあり、試聴用リファレンスとして重宝している。
ただしこの盤、手元のLPは国内廉価盤なもので音質イマイチ、かつて友人宅で聴いた米オリジナル盤は比較にならない素晴らしいサウンドでした。CDもごくごく初期に買った盤なので、多分今買い直したらずっと高音質になっているんじゃないでしょうかねぇ。それでも試聴盤としては十二分なので結構活用しています。
ほかにも試聴に使う盤は山ほどありますが、レコードで昨今よく引っ張り出すのは「ヴォーン・ウィリアムズのさわやかな世界」という何ともトホホなタイトルの盤です。ネヴィル・マリナーが手兵アカデミー室内管弦楽団を率いてレイフ・ヴォーン・ウィリアムズの小曲を演奏した盤で、とにかく弦の美しさと深々とした音場の表現が一度聴いたら病み付きになります。霞がたなびくような弦の響きと、透明感よりも空気の濃厚さで聴かせるような音場感をどれくらい表現できるかがシステムによってコロコロ変わるので、試聴向きの音源ともいえますね。

LP
ヴォーン・ウィリアムズのさわやかな世界
ネヴィル・マリナー指揮、アカデミー室内管弦楽団
キング(英argo) SLA1066
これも中古で安く買った盤だが、針を落として驚いた。マリナーとアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズの演奏は独特の音場感を持つものが多いが、これはまた格別である。試聴中にも没頭しないように気を引き締めておかねばならない、極上の聴き心地を持つ盤だ。
最近CDで引っ張り出すのはプロコフィエフの「アレクサンドル・ネフスキー」が多いかな。故・長岡鉄男氏の単行本「外盤A級セレクション(1)」の60番目に紹介されている、クラウディオ・アバド/ロンドン交響楽団の演奏です。「いやはやもうたいへんなもので、まさに大画面の映画を見る感じ」(同書、見出しより)という氏の印象そのままの目くるめく大展開が堪能できる盤です。

CD
プロコフィエフ アレクサンドル・ネフスキー
キージェ中尉、スキタイ組曲
クラウディオ・アバド指揮、ロンドン交響楽団、同合唱団、シカゴ交響楽団
独Deutsche Grammophon 447419-2 ※輸入盤
長岡氏が絶賛された「アレクサンドル・ネフスキー」のみならず、「キージェ中尉」と「スキタイ組曲」も大いにお薦めの演奏と録音である。後2者はLP時代には独立した1枚として売られていたので、CDは大変なバーゲン品ということにもなる。元気いっぱいだった若き時代のアバドの快演だけに、先日亡くなった彼を偲ぶためにもいい盤だと思う。
実はこれ、LPでも持ってはいるのですが、CDには「キージェ中尉」と「スキタイ組曲」(こちらはアバドとシカゴ交響楽団)も収録されており、そっちも素晴らしい演奏と録音なものですから、CDを聴く方が多くなっています。CDは高音質リマスターでありながら廉価盤として発売されているし、絶対のお薦め盤です。
SACDの試聴には、ラフマニノフ「聖金口イオアン聖体礼儀」を愛用しています。かつては「ヨハネス・クリソストモスの典礼」という名で知られていた曲ですね。フィンランド・オンディーヌの音源で、シグヴァルズ・クリャーヴァ指揮/ラトビア放送合唱団という、いずれも日本ではほとんど知られないコンビによる演奏ですが、演奏/録音とも一聴して気に入り、以来愛聴することになりました。ラトビアの首都リガの大聖堂で録音された音源で、よく響く広大な空間のそこかしこからはね返ってくるクールな残響が直接音と、また間接音同士でも交じり合い、時にビリビリと干渉縞のようなノイズを発することすらありますが、それをどこまで分解することができるか、深いエコーの中から直接音をどこまですくい上げることができるかは、まさに装置次第といってよい盤です。

SACDハイブリッド
ラフマニノフ 聖金口イオアン聖体礼儀
シグヴァルズ・クリャーヴァ指揮、ラトビア放送合唱団
フォンランドONDINE ODE1151-5 ※輸入盤
収録されたリガ大聖堂はルーテル派のプロテスタント系だそうだが、ロシア正教のこの曲も実に素晴らしく響く。18世紀の建設以来、ソ連へ併呑されていた間も守り続けられた素晴らしい建物といってよいだろう。「聖金口イオアン聖体礼儀」はあまり多く録音される楽曲ではないだけに、これをもって当面の決定版としてもよいのではないかと思う。
もうすぐSACDで有望な試聴盤がたくさん登場してきますから、この項はこれから加筆が進むと思います。
昨今はモノーラルのカートリッジが結構な頻度で発売されるようになりましたから、モノーラルの試聴盤も用意しています。クラシックは米Voxのモーツァルト「フィガロの結婚」をよく使うかな。指揮はハンス・ロスバウト、現代音楽を得意とした往年の名匠ですが、モーツァルトもパリ音楽院管弦楽団を手際よく振っているという感じです。コーラスはエクス・アン・ブロバンス祝祭合唱団、歌手は全然知る人がいませんがなかなかの名人ぞろい、この辺はさすが廉価盤レーベルの雄Voxというべきでしょうね。

モノーラルLP
モーツァルト フィガロの結婚(ハイライト)
ハンス・ロスバウト指揮、パリ音楽院管弦楽団ほか
米Vox PL15.120 ※輸入盤
決して「優秀録音盤」と薦めるほどのものではないのだが、それでも声の太さと実体感は往年のモノーラルらしさが横溢、有名なアリアが次々飛び出してはお決まりの拍手で次へつないでいくという感じの、何ともお気軽な音源である。
録音については肉太で生々しい歌手とずいぶん奥へ控えたオケ&コーラス、そして明らかに後付けのわざとらしい拍手という半世紀前までしばしば見られた演出の盤ですが、声の表現力だけでも十分試聴に使える盤です。
あらら、アナログとCDだけでずいぶんなスペースを食っちゃったな。ジャズやポップスとハイレゾに関してはまた稿を改めますね。
アナログ/デジタルとも長年にわたってクラシックのリファレンス盤としてしょっちゅう引っ張り出しているのがストラヴィンスキーの「火の鳥」、ピエール・ブーレーズ/ニューヨーク・フィルハーモニックの演奏です。レコード盤の方はまだ20代の頃、お茶の水ディスクユニオンの見切りワゴンで見つけました。キズ盤につき50円という捨て値で転がっていた盤です。何の期待もせずに拾い上げた盤でしたが、帰宅して針を落としてみると、A面の冒頭5分頃に少しバチバチいうものの、それ以外は結構良好なコンディションでした。
当時使っていたリファレンス・システムはスピーカーがテクニクスの7cmフルレンジEAS-7F10×1発のバックロードホーン(BH、この作例は20年以上後に学研の「大人の科学マガジン」で「ヒヨッ子」として発表しました)で、とりわけ低音再生に限界があり、100Hz以下急降下という代物だったものですから、その盤の実力はとても発揮させることができず、「うん、まぁいい盤かな」といったくらいで終わっていましたが、この盤はその後システムをグレードアップするたびに猛烈な器の大きさを少しずつ表してくるようになりました。まさに止めども知らぬ向上ぶりを聴かせてくれるのです。
わが家のシステムでこれほど変化が分かりやすいのだからこれはありがたい、というわけでこの仕事を始めて間もなくから試聴用のリファレンスとして活用している、という次第です。
ただしこのLP、私が所有しているのは米コロムビア盤です。この音源が収録された1975年当時というと、手元にある日本のCBSソニーによるレコードの大半はいまだ高音質とはとてもいい難く、日本盤についてはお薦めリストから外させてもらいます。
個人的にではありますが、CBSソニーは1970年代の終わり頃に突如としてとてつもない高音質化を遂げたという印象があります。1970年代に発売されたバーンスタインのLPなんて何枚買ってはガッカリしたことか。それが、CD時代を間近に控えた1980年頃、ちょうど伝説の「マスターサウンド」盤が登場した時期と重なるんでしょうね、それくらいから先の盤はビックリするくらい高音質になっていて目を白黒させたものでした。
バーンスタインだって後にCDで買い直した当時の演奏には素晴らしい優秀録音が結構あるんですよね。1970年代までのCBSソニーの製盤は一体何をやっていたんだ! と机を叩きたくなります。
ちなみにこの音源はCDでも所有しています。とある雑誌で「ブルースペックCD」や「HQCD」「SHM-CD」などの新世代製盤技術を使った高音質CDを聴く企画を受けたんですが、その時に何枚か買った中の1枚がこれでした。ソニー・クラシカルの盤ですからブルースベックCDです。

ブルースペックCD
ストラヴィンスキー 火の鳥~1910年版~
バルトーク 中国の不思議な役人
ピエール・ブーレーズ指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック
ソニーミュージック SICC20005 ¥2,500(税込み)
わが永遠のリファレンス音源というべき「火の鳥」。ジャケットはブルースペックCD版を掲載しているが、LPもほんの僅かトリミングが違うくらいで火の鳥のイラストは共通である。くれぐれも国内盤LPには手を出されぬよう。
本当に優れたアナログのソフトを所有していて同じ音源をCDで購入すると、時に癒し難い「これじゃない感」に襲われることがあります。ミシェル・プラッソンがトゥールーズ市立管弦楽団を振ったオネゲルの交響曲第3番「典礼風」と「パシフィック231」が収まった盤なんてまさにそうでした。LPを中古盤でたまたま購入して演奏と音質に感激、探してCDも購入し、「高音質ディスク聴きまくり」で取り上げてやろうと思ったら、通販で届いたCD(オネゲルの交響曲全集でしたが)は何とも元気のない輝きの失せてしまったようなサウンドでした。それでも他に取り上げる盤がない回には昇格させるべく、ずっと「補欠」として候補へ入れていたのですが、結局取り上げず仕舞いになっちゃったなぁ。
その点、この「火の鳥」は少なくともブルースペックCDを聴く限り、その心配はありません。もちろん全く同一の音質にはなりようがありませんが、それぞれにちゃんと良いところを聴かせてくれるので、アナログ/デジタル共通音源として大いに活用することとなりました。
またこのCD、「火の鳥」のほかにバルトーク「中国の不思議な役人」も収録されていて、それがまた素晴らしい演奏と録音です。お買い得の盤だと思います。
同じようにアナログ/デジタル両音源でリファレンスに使っている盤というと、ベルリオーズの「幻想交響曲」もあります。ご存じ米テラークの名盤、ロリン・マゼール/クリーブランド管弦楽団の演奏でです。マゼールがテラークに残した音源で至高のものといえば個人的には一も二もなくストラヴィンスキー「春の祭典」だと確信していますが、あれは聴き始めると没頭してしまって試聴になりません。幻想交響曲くらい「耳タコ」になっていないと仕事に使うのは難しいものですね。

CD
ベルリオーズ 幻想交響曲
ロリン・マゼール指揮、クリーブランド管弦楽団
米TELARC CD80076 ※輸入盤
キャリアの長いマニア諸賢にはいわずと知れた名盤であろう。佃煮にするほどある「幻想」の中で実のところ最も気に入った演奏というわけではないのだが、機器の音の違いを読み取ることにかけては極めて優れた音源で、LPと重複して所有していることもあり、試聴用リファレンスとして重宝している。
ただしこの盤、手元のLPは国内廉価盤なもので音質イマイチ、かつて友人宅で聴いた米オリジナル盤は比較にならない素晴らしいサウンドでした。CDもごくごく初期に買った盤なので、多分今買い直したらずっと高音質になっているんじゃないでしょうかねぇ。それでも試聴盤としては十二分なので結構活用しています。
ほかにも試聴に使う盤は山ほどありますが、レコードで昨今よく引っ張り出すのは「ヴォーン・ウィリアムズのさわやかな世界」という何ともトホホなタイトルの盤です。ネヴィル・マリナーが手兵アカデミー室内管弦楽団を率いてレイフ・ヴォーン・ウィリアムズの小曲を演奏した盤で、とにかく弦の美しさと深々とした音場の表現が一度聴いたら病み付きになります。霞がたなびくような弦の響きと、透明感よりも空気の濃厚さで聴かせるような音場感をどれくらい表現できるかがシステムによってコロコロ変わるので、試聴向きの音源ともいえますね。

LP
ヴォーン・ウィリアムズのさわやかな世界
ネヴィル・マリナー指揮、アカデミー室内管弦楽団
キング(英argo) SLA1066
これも中古で安く買った盤だが、針を落として驚いた。マリナーとアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズの演奏は独特の音場感を持つものが多いが、これはまた格別である。試聴中にも没頭しないように気を引き締めておかねばならない、極上の聴き心地を持つ盤だ。
最近CDで引っ張り出すのはプロコフィエフの「アレクサンドル・ネフスキー」が多いかな。故・長岡鉄男氏の単行本「外盤A級セレクション(1)」の60番目に紹介されている、クラウディオ・アバド/ロンドン交響楽団の演奏です。「いやはやもうたいへんなもので、まさに大画面の映画を見る感じ」(同書、見出しより)という氏の印象そのままの目くるめく大展開が堪能できる盤です。

CD
プロコフィエフ アレクサンドル・ネフスキー
キージェ中尉、スキタイ組曲
クラウディオ・アバド指揮、ロンドン交響楽団、同合唱団、シカゴ交響楽団
独Deutsche Grammophon 447419-2 ※輸入盤
長岡氏が絶賛された「アレクサンドル・ネフスキー」のみならず、「キージェ中尉」と「スキタイ組曲」も大いにお薦めの演奏と録音である。後2者はLP時代には独立した1枚として売られていたので、CDは大変なバーゲン品ということにもなる。元気いっぱいだった若き時代のアバドの快演だけに、先日亡くなった彼を偲ぶためにもいい盤だと思う。
実はこれ、LPでも持ってはいるのですが、CDには「キージェ中尉」と「スキタイ組曲」(こちらはアバドとシカゴ交響楽団)も収録されており、そっちも素晴らしい演奏と録音なものですから、CDを聴く方が多くなっています。CDは高音質リマスターでありながら廉価盤として発売されているし、絶対のお薦め盤です。
SACDの試聴には、ラフマニノフ「聖金口イオアン聖体礼儀」を愛用しています。かつては「ヨハネス・クリソストモスの典礼」という名で知られていた曲ですね。フィンランド・オンディーヌの音源で、シグヴァルズ・クリャーヴァ指揮/ラトビア放送合唱団という、いずれも日本ではほとんど知られないコンビによる演奏ですが、演奏/録音とも一聴して気に入り、以来愛聴することになりました。ラトビアの首都リガの大聖堂で録音された音源で、よく響く広大な空間のそこかしこからはね返ってくるクールな残響が直接音と、また間接音同士でも交じり合い、時にビリビリと干渉縞のようなノイズを発することすらありますが、それをどこまで分解することができるか、深いエコーの中から直接音をどこまですくい上げることができるかは、まさに装置次第といってよい盤です。

SACDハイブリッド
ラフマニノフ 聖金口イオアン聖体礼儀
シグヴァルズ・クリャーヴァ指揮、ラトビア放送合唱団
フォンランドONDINE ODE1151-5 ※輸入盤
収録されたリガ大聖堂はルーテル派のプロテスタント系だそうだが、ロシア正教のこの曲も実に素晴らしく響く。18世紀の建設以来、ソ連へ併呑されていた間も守り続けられた素晴らしい建物といってよいだろう。「聖金口イオアン聖体礼儀」はあまり多く録音される楽曲ではないだけに、これをもって当面の決定版としてもよいのではないかと思う。
もうすぐSACDで有望な試聴盤がたくさん登場してきますから、この項はこれから加筆が進むと思います。
昨今はモノーラルのカートリッジが結構な頻度で発売されるようになりましたから、モノーラルの試聴盤も用意しています。クラシックは米Voxのモーツァルト「フィガロの結婚」をよく使うかな。指揮はハンス・ロスバウト、現代音楽を得意とした往年の名匠ですが、モーツァルトもパリ音楽院管弦楽団を手際よく振っているという感じです。コーラスはエクス・アン・ブロバンス祝祭合唱団、歌手は全然知る人がいませんがなかなかの名人ぞろい、この辺はさすが廉価盤レーベルの雄Voxというべきでしょうね。

モノーラルLP
モーツァルト フィガロの結婚(ハイライト)
ハンス・ロスバウト指揮、パリ音楽院管弦楽団ほか
米Vox PL15.120 ※輸入盤
決して「優秀録音盤」と薦めるほどのものではないのだが、それでも声の太さと実体感は往年のモノーラルらしさが横溢、有名なアリアが次々飛び出してはお決まりの拍手で次へつないでいくという感じの、何ともお気軽な音源である。
録音については肉太で生々しい歌手とずいぶん奥へ控えたオケ&コーラス、そして明らかに後付けのわざとらしい拍手という半世紀前までしばしば見られた演出の盤ですが、声の表現力だけでも十分試聴に使える盤です。
あらら、アナログとCDだけでずいぶんなスペースを食っちゃったな。ジャズやポップスとハイレゾに関してはまた稿を改めますね。
グスターヴ・ホルスト/組曲「惑星」ほか ― 2014/01/23 10:34
お薦めソフトの第1弾は、いきなりのハイレゾ配信音源です。これ、今出ている号のネットオーディオ誌「私のハイレゾ・ベスト10」的なコーナーで紹介しているんですが、文字数が少なかったもので、タイトルが表示されているだけでどういうソフトか全然書けなかったんですよね。それでいっそのこと、当欄で紹介記事にしてしまおうと思い立ったわけです。
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)、はげ山の一夜、
ホルスト/組曲「惑星」
レナード・スラットキン指揮(ムソルグスキー)、ワルター・ジュスキント指揮(ホルスト)
セントルイス交響楽団
こちらの音源です。米Voxレコードにはお買い得詰め合わせ2CDセットがあって、それと同様の体裁で曲を詰め合わせにしたハイレゾ配信音源です。それにしても、作曲者はムソルグスキーとホルストの2人で指揮者もスラットキンとジュスキントですから、セントルイス響以外の共通点が見当たりません。「もうちょっと売り方を考えた方がいいよ」と助言すべきなのか、はたまた一部を除いて曲単位の分売も可能だから別にこれでかまわないのか。廉価盤レーベルならではというか、ジャケットも全然凝ったものじゃないですし、あんまり難しいことをいっても仕方ないのかもしれませんね。
で、どうしてこんなマイナーなレーベルの作品を「ベスト10」に推したのか。これにはずいぶん長い前節があります。私が大学に入って間もない頃ですから、もう30年近くも前の話になりますね。今はなき秋葉原・石丸電気の本店ソフトフロアでたまたま見つけたCDが、上記ハイレゾと同一音源のホルスト/惑星でした。
故・長岡鉄男氏の「外盤A級セレクション(1)」が発売になり、むさぼるように読んでいた頃とちょうど時期が重なっていて、紹介されている盤に何枚か入っていたMMGレーベルの、フリューゲルホーンをかたどったようなロゴマークを覚えていました。それが見えたので「ひょっとしたら掘り出し物かも!」と引っつかんでレジに並んだ、という次第です。
自宅へ戻りCDの封を切ってビックリ! 光に透かしてみたディスクはさながらプラネタリウムの如し。無数のピンホールが空いてしまっているのです。これは初期のアメリカ盤で、品質管理がお粗末だったんでしょうね。今はそんな盤など薬にしたくてもそうそう見つかるものじゃありませんが、当時は結構いくつもピンホールの空いた盤があったものでした。
当時使っていたCDプレーヤーはCD/LDコンパチブルプレーヤーの1号機パイオニアCLD-9000だったのですが、これがまた読み取りの不安定な代物で、案の定この盤を読み取ることができませんでした。読み取ることさえできればどんな高級プレーヤーにも真似のできないド迫力の再生音を楽しませてくれる、得難いプレーヤーだったんですがねぇ。
かからなければ仕方ないものですから石丸までディスクの交換に向かったんですが、何ともはや私の買った盤が最後の1枚だったとか。「返金しますか?」と訊かれましたが、これも何かの縁とそのまま持って帰ってきました。ですから、この盤をじっくり聴くことができたのはもう1台のプレーヤーを買った後ということになります。
確か次に買ったCDプレーヤーはマランツCD34だったかな。85年に驚異的なベストセラーを記録、一気にCDを普及の軌道へ乗せた記念碑的なプレーヤーです。そのプレーヤーで初めてじっくりと聴いたジュスキントの「惑星」にはたまげました。確かなホールの音場感とともに大編成のオケがどっしりと定位、華やかに音楽の成分が飛び散るような生きいきとみずみずしい鳴りっぷりを聴かせてくれたのです。
学生当時のシステムですから、そう大した装置がそろっていたわけではありません。スピーカー工作だってまださほどのノウハウを蓄積していたわけでもありませんでしたしね。それでもこのソフトの「本質」ははっきりと耳へ飛び込んできました。「あぁ、俺、ひょっとして"当たり"を引いたかな」と、1人でニヤニヤしたことを覚えています。
それでもこのソフト、決して「地上最強の録音」というほどのものではありません。後年になって故・長岡鉄男氏のシアタールーム「方舟」へ担当編集者として足繁く通うようになってから、この盤を持っていって聴かせてもらったことがあるんですが、さわりを聴いたところで先生が立ち上がり、CDラックからプレヴィン/ロイヤル・フィルの「惑星」を取り出してこられました。ご存じ米テラークの名盤です。
方舟の装置では、もう圧倒的にテラークの勝利でした。情報量も音場感もケタが違う、という感じです。「井の中の蛙だったなぁ」とガッカリしてその日は帰りました。
その後すぐに私もテラーク盤を買い求め、自宅の装置で聴くようになりました。でも、何だかちょっと違うのです。テラークは綺麗過ぎるというか、整いすぎているというか。方舟並みに持てる器量を全部引き出してやればテラークが圧倒するのですが、わが家の装置では少々小ぢんまりとして音色の安っぽいMMG盤の方がなぜかしっくりくるような気がして、結局ジュスキントを聴き続けることとなりました。
「惑星」という楽曲についてはもっといろいろ書きたいことがあるので、またそのうち別個エントリを立てますね。
その後、どうやらこの演奏は割合に定評のあるものだったらしく、海外でプレミアム版CDとして発売されていたりもしたそうですね。私がその情報と巡り合った頃にはもうすっかり売り切れてしまった後で、入手することはかないませんでしたが。
いや、何のことはない。高音質ディスク聴きまくり用に有望な盤を探していて、まずVox盤がヒットしたんですよ。「何でMMGじゃなくてVoxなんだろう?」と疑問に思っていたら、どうやらMMGはVoxの社内レーベルのようですね。
ところが、せっかく見つけたというのにその時点で廃盤となってしまっていて、諦めきれずにいろいろ情報を当たっていたらそのプレミアム盤に当たり、慌てて購入しようとしたらとっくに売り切れていた、という次第です。それが3~4年前の話だったかな。以来、「縁がないのかなぁ」とボヤきつつ、つい最近まで個人的にCDを愛聴してきました。
で、話は昨年の12月へ一気に飛びます。ネットオーディオ編集部から「今号はハイレゾ特集だから、筆者のハイレゾ・ベスト10を挙げて下さい」と連絡が入りました。どれを選ぶかもう既に困るくらいのハイレゾ音源は手元にありますが、こういう企画なら「これを挙げなきゃ!」と慌てて購入したのがこの「惑星」を含むVoxの音源だった、というわけです。音源そのものはもう半年ほども前だったかに米HDtracksで販売されていることを確認していて、「そのうち雑誌の企画で取り上げられたら購入しよう」と思っていた(不純ですね (^^;))だけに、まさに渡りに船でした。
ダウンロードした音源を早速、長年愛聴してきたCDと聴き比べたら、もう第1曲の「火星」で完全に勝負アリ! 音像は実体感豊かに生きいきと立ち上がり、音場は遥かに広く澄み切ってどこまでも伸びていきます。一方のCDは、単体で聴いていれば全然気にならなかったというのに、ハイレゾを聴いてしまうとCD版には微細なワウフラッターを感じさせます。「いい演奏と録音だけれど、まぁ仕方ないかな」と思っていた部分がものの見事に払拭されてしまった、といった感があります。
音源の品位は96kHz/24ビットで、今となってはまぁそう突っ込んだ高品位でもないのですが、これだけのサウンドを聴かせてくれたら大満足です。確かCDを買った時は1,300円くらいだったと記憶しますが、ここまで音質向上してかつ「展覧会の絵」「はげ山の一夜」まで詰め合わせになって$17.99なんですから、それはもうただみたいな価格だと思います。
ちなみにあとの2曲ですが、「スラットキンにしては若干ヌルい指揮かな」と思わなくもないものの、立体的な骨格で豪快にオケをドライブするところはさすがアメリカという感じです。オーディオ試聴用にお薦めできる音源じゃないかと思います。
あぁ、長々と思い出話を書き連ねていたら、たった音源ひとつを紹介するのにずいぶんな文字数になっちゃいましたね。でも、雑誌じゃまずこんな誌面の無駄遣いができるはずもありませんから、ひとつブログならではのネタ記事ということでご容赦いただけると幸いです。
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)、はげ山の一夜、
ホルスト/組曲「惑星」
レナード・スラットキン指揮(ムソルグスキー)、ワルター・ジュスキント指揮(ホルスト)
セントルイス交響楽団
こちらの音源です。米Voxレコードにはお買い得詰め合わせ2CDセットがあって、それと同様の体裁で曲を詰め合わせにしたハイレゾ配信音源です。それにしても、作曲者はムソルグスキーとホルストの2人で指揮者もスラットキンとジュスキントですから、セントルイス響以外の共通点が見当たりません。「もうちょっと売り方を考えた方がいいよ」と助言すべきなのか、はたまた一部を除いて曲単位の分売も可能だから別にこれでかまわないのか。廉価盤レーベルならではというか、ジャケットも全然凝ったものじゃないですし、あんまり難しいことをいっても仕方ないのかもしれませんね。
で、どうしてこんなマイナーなレーベルの作品を「ベスト10」に推したのか。これにはずいぶん長い前節があります。私が大学に入って間もない頃ですから、もう30年近くも前の話になりますね。今はなき秋葉原・石丸電気の本店ソフトフロアでたまたま見つけたCDが、上記ハイレゾと同一音源のホルスト/惑星でした。
故・長岡鉄男氏の「外盤A級セレクション(1)」が発売になり、むさぼるように読んでいた頃とちょうど時期が重なっていて、紹介されている盤に何枚か入っていたMMGレーベルの、フリューゲルホーンをかたどったようなロゴマークを覚えていました。それが見えたので「ひょっとしたら掘り出し物かも!」と引っつかんでレジに並んだ、という次第です。
自宅へ戻りCDの封を切ってビックリ! 光に透かしてみたディスクはさながらプラネタリウムの如し。無数のピンホールが空いてしまっているのです。これは初期のアメリカ盤で、品質管理がお粗末だったんでしょうね。今はそんな盤など薬にしたくてもそうそう見つかるものじゃありませんが、当時は結構いくつもピンホールの空いた盤があったものでした。
当時使っていたCDプレーヤーはCD/LDコンパチブルプレーヤーの1号機パイオニアCLD-9000だったのですが、これがまた読み取りの不安定な代物で、案の定この盤を読み取ることができませんでした。読み取ることさえできればどんな高級プレーヤーにも真似のできないド迫力の再生音を楽しませてくれる、得難いプレーヤーだったんですがねぇ。
かからなければ仕方ないものですから石丸までディスクの交換に向かったんですが、何ともはや私の買った盤が最後の1枚だったとか。「返金しますか?」と訊かれましたが、これも何かの縁とそのまま持って帰ってきました。ですから、この盤をじっくり聴くことができたのはもう1台のプレーヤーを買った後ということになります。
確か次に買ったCDプレーヤーはマランツCD34だったかな。85年に驚異的なベストセラーを記録、一気にCDを普及の軌道へ乗せた記念碑的なプレーヤーです。そのプレーヤーで初めてじっくりと聴いたジュスキントの「惑星」にはたまげました。確かなホールの音場感とともに大編成のオケがどっしりと定位、華やかに音楽の成分が飛び散るような生きいきとみずみずしい鳴りっぷりを聴かせてくれたのです。
学生当時のシステムですから、そう大した装置がそろっていたわけではありません。スピーカー工作だってまださほどのノウハウを蓄積していたわけでもありませんでしたしね。それでもこのソフトの「本質」ははっきりと耳へ飛び込んできました。「あぁ、俺、ひょっとして"当たり"を引いたかな」と、1人でニヤニヤしたことを覚えています。
それでもこのソフト、決して「地上最強の録音」というほどのものではありません。後年になって故・長岡鉄男氏のシアタールーム「方舟」へ担当編集者として足繁く通うようになってから、この盤を持っていって聴かせてもらったことがあるんですが、さわりを聴いたところで先生が立ち上がり、CDラックからプレヴィン/ロイヤル・フィルの「惑星」を取り出してこられました。ご存じ米テラークの名盤です。
方舟の装置では、もう圧倒的にテラークの勝利でした。情報量も音場感もケタが違う、という感じです。「井の中の蛙だったなぁ」とガッカリしてその日は帰りました。
その後すぐに私もテラーク盤を買い求め、自宅の装置で聴くようになりました。でも、何だかちょっと違うのです。テラークは綺麗過ぎるというか、整いすぎているというか。方舟並みに持てる器量を全部引き出してやればテラークが圧倒するのですが、わが家の装置では少々小ぢんまりとして音色の安っぽいMMG盤の方がなぜかしっくりくるような気がして、結局ジュスキントを聴き続けることとなりました。
「惑星」という楽曲についてはもっといろいろ書きたいことがあるので、またそのうち別個エントリを立てますね。
その後、どうやらこの演奏は割合に定評のあるものだったらしく、海外でプレミアム版CDとして発売されていたりもしたそうですね。私がその情報と巡り合った頃にはもうすっかり売り切れてしまった後で、入手することはかないませんでしたが。
いや、何のことはない。高音質ディスク聴きまくり用に有望な盤を探していて、まずVox盤がヒットしたんですよ。「何でMMGじゃなくてVoxなんだろう?」と疑問に思っていたら、どうやらMMGはVoxの社内レーベルのようですね。
ところが、せっかく見つけたというのにその時点で廃盤となってしまっていて、諦めきれずにいろいろ情報を当たっていたらそのプレミアム盤に当たり、慌てて購入しようとしたらとっくに売り切れていた、という次第です。それが3~4年前の話だったかな。以来、「縁がないのかなぁ」とボヤきつつ、つい最近まで個人的にCDを愛聴してきました。
で、話は昨年の12月へ一気に飛びます。ネットオーディオ編集部から「今号はハイレゾ特集だから、筆者のハイレゾ・ベスト10を挙げて下さい」と連絡が入りました。どれを選ぶかもう既に困るくらいのハイレゾ音源は手元にありますが、こういう企画なら「これを挙げなきゃ!」と慌てて購入したのがこの「惑星」を含むVoxの音源だった、というわけです。音源そのものはもう半年ほども前だったかに米HDtracksで販売されていることを確認していて、「そのうち雑誌の企画で取り上げられたら購入しよう」と思っていた(不純ですね (^^;))だけに、まさに渡りに船でした。
ダウンロードした音源を早速、長年愛聴してきたCDと聴き比べたら、もう第1曲の「火星」で完全に勝負アリ! 音像は実体感豊かに生きいきと立ち上がり、音場は遥かに広く澄み切ってどこまでも伸びていきます。一方のCDは、単体で聴いていれば全然気にならなかったというのに、ハイレゾを聴いてしまうとCD版には微細なワウフラッターを感じさせます。「いい演奏と録音だけれど、まぁ仕方ないかな」と思っていた部分がものの見事に払拭されてしまった、といった感があります。
音源の品位は96kHz/24ビットで、今となってはまぁそう突っ込んだ高品位でもないのですが、これだけのサウンドを聴かせてくれたら大満足です。確かCDを買った時は1,300円くらいだったと記憶しますが、ここまで音質向上してかつ「展覧会の絵」「はげ山の一夜」まで詰め合わせになって$17.99なんですから、それはもうただみたいな価格だと思います。
ちなみにあとの2曲ですが、「スラットキンにしては若干ヌルい指揮かな」と思わなくもないものの、立体的な骨格で豪快にオケをドライブするところはさすがアメリカという感じです。オーディオ試聴用にお薦めできる音源じゃないかと思います。
あぁ、長々と思い出話を書き連ねていたら、たった音源ひとつを紹介するのにずいぶんな文字数になっちゃいましたね。でも、雑誌じゃまずこんな誌面の無駄遣いができるはずもありませんから、ひとつブログならではのネタ記事ということでご容赦いただけると幸いです。
お薦めソフトも紹介していこうかと ― 2014/01/21 16:46
かつて「オーディオベーシック」誌で連載していた高音質ディスク聴きまくりというページは、私が編集者だった頃に立ち上げ、最後の方の数回を除いてずっとまとめ役を務めていました。割合に長く続いた連載で、読者の皆さんに支持していただいていたことがありがたかったものです。
市川二朗さん、高崎素行さんのお2人と鼎談形式の連載だったのですが、2人とも故・長岡鉄男氏の許をよく訪問されていて、たびたび「これ、面白いですよ」と長岡氏にソフトを紹介されていたという兵(つわもの)です。豪壮雄大なサウンドを聴かせる「クラフィンス・ピアノ」は市川さんがドイツ現地で発見されてきたものですし、あの「日本の自衛隊」をCDで復刻されたのは高崎さんでした。高崎さんは勢い余ってアナログ盤の復刻まで手がけられちゃったし、このあたりはよくご存じの人も多いんじゃないかと思います。
クラフィンス・ピアノの音源はただいま入手不可能ですが、とある代理店に契約できないか探ってもらっているところです。「日本の自衛隊」LPはご存じMYUtakasakiで今なお購入可能ですから、ご希望の人はまず問い合わせてみられるとよいでしょう。
あの連載を立ち上げた当初は私は一介の編集者で、本来は市川さんと高崎さんにレギュラーでお薦めディスクを紹介してもらい、毎回ゲストを呼んで2枚ほど挙げてもらう、という体裁で進めていました。ところが、そう毎回ゲストが都合良く仕込めるわけもなく、結局私がほぼ毎回2枚ずつディスクを紹介することとなってしまいました。その後すぐにライターとしての仕事が増えてきたので、小さいながらディスクが紹介できる枠があったのは大いに助かったんですがね。
「高音質ディスク聴きまくり」の連載が形を変えてすぐに打ち切りとなり、かてて加えて雑誌そのものがなくなってしまった昨今、私のソフト紹介ページは音元出版でスポット的にもらっているもののみとなってしまいました。なにぶんひどい貧乏暮らしで、そうそう山ほどソフトが買える身分でもありませんが、それでもこういう仕事をするからにはいいソフトがなきゃ話にならないわけですし、普通の人よりもたくさん購入しているつもりです。
それで、本ブログでもお薦めのソフトを紹介していきたいと思います。基本的に実際わが家のリファレンス・システムで音を聴き、良かったもののみを扱うという線は堅持するつもりです。ただし、一概に「高音質ソフト」というわけでもありません。録音はまぁまぁだけれどつい何度も再生してしまう魅力にあふれた演奏というものも世の中には少なくないですからね。
このエントリもちょっと長くなっちゃったので、ディスク紹介のエントリはまた別途、ということにさせてもらいましょうか。近日やり始めると思います。
市川二朗さん、高崎素行さんのお2人と鼎談形式の連載だったのですが、2人とも故・長岡鉄男氏の許をよく訪問されていて、たびたび「これ、面白いですよ」と長岡氏にソフトを紹介されていたという兵(つわもの)です。豪壮雄大なサウンドを聴かせる「クラフィンス・ピアノ」は市川さんがドイツ現地で発見されてきたものですし、あの「日本の自衛隊」をCDで復刻されたのは高崎さんでした。高崎さんは勢い余ってアナログ盤の復刻まで手がけられちゃったし、このあたりはよくご存じの人も多いんじゃないかと思います。
クラフィンス・ピアノの音源はただいま入手不可能ですが、とある代理店に契約できないか探ってもらっているところです。「日本の自衛隊」LPはご存じMYUtakasakiで今なお購入可能ですから、ご希望の人はまず問い合わせてみられるとよいでしょう。
あの連載を立ち上げた当初は私は一介の編集者で、本来は市川さんと高崎さんにレギュラーでお薦めディスクを紹介してもらい、毎回ゲストを呼んで2枚ほど挙げてもらう、という体裁で進めていました。ところが、そう毎回ゲストが都合良く仕込めるわけもなく、結局私がほぼ毎回2枚ずつディスクを紹介することとなってしまいました。その後すぐにライターとしての仕事が増えてきたので、小さいながらディスクが紹介できる枠があったのは大いに助かったんですがね。
「高音質ディスク聴きまくり」の連載が形を変えてすぐに打ち切りとなり、かてて加えて雑誌そのものがなくなってしまった昨今、私のソフト紹介ページは音元出版でスポット的にもらっているもののみとなってしまいました。なにぶんひどい貧乏暮らしで、そうそう山ほどソフトが買える身分でもありませんが、それでもこういう仕事をするからにはいいソフトがなきゃ話にならないわけですし、普通の人よりもたくさん購入しているつもりです。
それで、本ブログでもお薦めのソフトを紹介していきたいと思います。基本的に実際わが家のリファレンス・システムで音を聴き、良かったもののみを扱うという線は堅持するつもりです。ただし、一概に「高音質ソフト」というわけでもありません。録音はまぁまぁだけれどつい何度も再生してしまう魅力にあふれた演奏というものも世の中には少なくないですからね。
このエントリもちょっと長くなっちゃったので、ディスク紹介のエントリはまた別途、ということにさせてもらいましょうか。近日やり始めると思います。
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