オープンのご挨拶2014/01/18 13:56

皆さんこんにちは。炭山アキラです。何とも遅ればせながら、このたびブログを開設することにしました。オーディオのお客様以外の方へ向けて、まずは自己紹介から始めましょうか。

炭山アキラ(スミヤマアキラ)。もうすぐ50歳を迎えるオーディオライターです。普段は音元出版の「オーディオアクセサリー」「アナログ」「ネットオーディオ」他の各誌、また音楽之友社「ステレオ」誌などに文章を寄せています。

ライターになる前は、今はなきFMfan誌(共同通信社)で編集者をやっていました。2000年の5月に亡くなられたオーディオ評論家・長岡鉄男さんの担当編集者として、連載「ダイナミックテスト」やスピーカー工作ページの担当を務めていた者です。

長岡氏との思い出話は、おいおいこちらへエントリしていきたいと思います。6年ほどの短い間でしたが、先生とは本当にいろいろ仕事をさせてもらったし、人生の指針も数え切れないほどもらいましたからね。ほんの僅かずつでもお読みいただいている皆様にお裾分けできれば、などと僭越なことを考えておるわけであります。

長岡氏が突然亡くなられ、"書き手"を失ってしまった編集者の私は途方に暮れました。当時は特にスピーカー工作の分野は長岡氏があって初めて成り立っているといっても過言ではないくらい氏の影響が強いジャンルでしたから、突然ぽっかりと空いてしまった大穴をなす術もなく見守っていた、といった具合でした。

しかし、いつまでも放心状態ではいられません。巨星が墜ちてもスピーカー工作は続けていかなければならないのです。もともと私自身にしてからが、ふとしたことからスピーカー工作を始めて長岡鉄男という人に憧れ、この業界へ入ってきたのですから、「火を消すな!」という甚だ蟷螂の斧的な使命感ではありましたが、慌てて自ら設計・製作したスピーカーを誌面へ発表し始めた、という次第です。

そういう経緯なものですから、このブログは自作オーディオ、とりわけスピーカー工作を応援するものとなっていくだろうと思います。まぁスピーカーだけでなく、そのうち自分の勉強も兼ねてアンプの自作入門なんかもやってみたいと思っていますが、さてどこまで上手くいきますやら。

ほか、雑誌で書き切れなかった内容や差し障りのない範囲の裏話、自宅リスニングルームでの実験、日常の身辺雑記などを含め、できるだけ頻繁に更新できるよう頑張ります。

ただし、毎年2、5、8、11月とその前後1週間くらいは雑誌の締め切りが重なるために忙しくなりがちなものですから、更新がしばらく途絶えることもあることと思います。そんな時期も、どうか温かく見守っていただけると幸いです。

それでは、また。

私がブログを始めたわけ2014/01/18 17:05

2本目のエントリでは、どうしてブログを始めることにしたか、綴っていくことにしましょうか。

いや、話せば簡単なことなんですがね。私がかつて編集部員として在籍していたオーディオベーシックというオーディオ雑誌がありました(共同通信社・刊)。いろいろ紆余曲折はありましたが、1970年代の前半に創刊された別冊FMfanという名門オーディオ雑誌の系譜を引く本です。

別冊FMfanの頃は毎号、故・長岡鉄男氏のスピーカー工作とこちらも先年亡くなられた上杉佳郎氏ほかによるアンプや便利グッズ類の自作記事が載っていました。同時期に連載されていたオーディオアクセサリー誌(音元出版・刊)の「長岡鉄男のワンダーランド」にも長岡氏はよく工作記事を掲載されていて、慢性的に金のなかった学生時分の私はいつも両誌の新刊が出揃ったところでどちらか記事の面白い方を購入する、ということをやっていたものです。

その後、1980年代の末頃に別冊FMfanはAV FRONTという名前のオーディオビジュアル雑誌へ模様替えをします。当初こそ別冊時代の面影を色濃く残した作風でしたが同誌はどんどん"本格的"オーディオビジュアル雑誌へ進んでいき、それとともに工作記事は見る影もなく減っていってしまいました。

その頃は専らFMfan本誌でスピーカー工作記事を掲載していましたが、いくら「業界一マニアックなFM雑誌」と呼ばれたFMfanでもそこはオーディオ雑誌ならぬ身、頑張っても獲得ページにはおのずと限界があり、年に2~3作が限界です。

でも、別冊から本誌へ引き継いで連綿とシリーズ掲載を続けた長岡氏の鳥型バックロードホーンは1992年のスーパースワン、そして97年のモアというオーディオ史に残る傑作を生みましたから、それなりに誇っていい成果だったと思っています。

そうこうしているうちに、1992年でAV FRONTは廃刊されてしまいました。そしてしばらく間を置き、特別編集のムック本扱いではじめてのオーディオを出すことによって共同通信社はオーディオ雑誌を復刊、半年後にオーディオベーシックという誌名で本格的にオーディオ・ジャーナリズムへ復帰します。

初代編集長は「はじめてのオーディオ」から「オーディオベーシック」を創刊するに当たって、「日本のオーディオ雑誌はマニアックな記事や高額の機器をレポートしたページは多いが、ビギナーに優しいものが少ない。どうせ新しく始めるならわれわれは若い人へ向けた"入り口"を目指そう。うちから"卒業"していく読者がいてもそれはかまわないじゃないか」という方針を掲げました。誌名にもその志が表れていますね。その使命感は大切なものでしたし、当時FMfanに在籍していた私も大いに共感したものでした。

しかし、そういう方針になると、とりわけマニアックな自作記事が減少してしまうのはもう致し方がありません。当時の編集担当にしても頑張っていたとは思いますが、スピーカー工作は「時折思い出したように掲載されるスポット記事」以上にはなりませんでした。

その後オーディオベーシックも編集長が代々替わり、組織の変更もあって、当初の方向性とは徐々に違う雑誌へと変貌していきました。「お前もちょっと手伝え」と私も引っ張られ、FMfanと2足の草鞋を履いていたこともあります。

ちょうどのその時期に当時の編集長代理へ承認を受け、私がオーディオベーシックでも長岡氏にお願いをして工作記事を製作し始めました。続いてオーディオ諸国漫遊記という読者訪問を、さらにディスク・フラッシュという高音質ソフトのレビュー・ページも開始、何のことはない、かつて長岡氏が別冊FMfanで連載されていた「自分で作ってみるページ」「長岡鉄男のオーディオ・クリニック」「外盤ジャーナル」を復刻したみたいなものなんですがね。

それで1998~2000年頃のオーディオベーシックは結構活気があったのではないかと思うのですが、そんな体制を固めたところで突然長岡氏が亡くなられてしまったものですからもう大変でした。

「諸国漫遊記」は最もコストのかかる取材だったもので長岡氏なしには成立しない企画でしたが、工作記事は何とか私がオリジナルの図面を引き原稿を書くことで2002年に復活、「ディスク・フラッシュ」は市川二朗氏と高崎素行氏のお2人と私の鼎談形式による高音質ディスク聴きまくりとして、どうにか火を絶やさずに続けることがかないました。市川さんも高崎さんも長岡氏の弟子筋というか、アドバイザー的な役割を果たしてこられた人たちなので、長岡氏のセレクションとそう大きく外れるようなことはなかったんじゃないかと感じています。

いつしか私はライター仕事の方が多くなり、編集者の看板を下ろして「オーディオライター」となりました。その頃にはスピーカー工作記事をレギュラーで載せている雑誌が3冊ありましたが、音楽之友社ステレオには浅生昉氏、誠文堂新光社無線と実験には小澤隆久氏、そして「オーディオベーシック」には私、という具合に棲み分けがなされていたような状況です。

ところがオーディオベーシックはガウディオと改名した後、3号でその命脈が尽き、廃刊の憂き目を見ることに。ウェブ版が続けられてはいるようですが、同じものというわけにはいかないでしょうね。

これまでも何度か頼りにしていた雑誌の廃刊には立ち合いましたが、このたびの「ガウディオ」廃刊は少々私にとって打撃が大きすぎました。下世話な話をすれば収入もかなり下落しましたが、それより何よりスピーカー工作の発表媒体を失ってしまったことがあまりにも大きな痛手です。1誌なくなってしまったからといっておいそれと別の雑誌が企画を引き受けてくれるはずもなく、このままでは新しいユニットが出てきても、また新しいキャビネットの腹案が浮かんでも、私の作例は発表できなくなってしまいます。

幸い「ステレオ」誌が何回か私の作例を掲載してくれましたし、長年憧れだった評論家競作にも昨年から参加させてくれましたが、それでもあまり大先輩の浅生さんを邪魔するわけにもいきませんしね。

現に昨年の夏に登場したフォステクスの限定ウーファー+トゥイーターの作例は、設計・製作して記事にもまとめたものの掲載誌がなく、やむなくpdf化してプリントアウト、東京と大阪の発表会場へお見え下さったお客様のみへ配布するという、甚だ小規模なこととなってしまいました。 近々そのpdfをこちらのブログで公開しようと思います。でも限定ユニットだし、まだ買えるのかどうかをまず確かめてからということになりますね。

そしてこの1月、フォステクスがまた大変に魅力的な限定ユニットをリリースしました。われわれスピーカー自作派にとって永遠のリファレンスFE103の生誕50周年記念モデル、FE103-Solです。

こんなヨダレが出そうなユニットをみすみす見逃すわけにはいきません。何としてもこれでいくつかスピーカーを作って発表したい、それがブログ開設のモチベーションとなりました。もういくつか腹案はできかかっています。そう遠からず、皆さんへ御目文字のかなう日がくると思います。

あれれ、「話せば簡単なこと」なんていっておきながら、ずいぶんな長話となってしまいました。あっさり終わる回もあればこうやってグダグダとムダ話の続くエントリもあるかと思いますが、どうか気長にお付き合い下さいませ。

早くも壁にぶち当たりました2014/01/20 18:45

個人的に、インターネットへ入り込んだかなり初期の段階から今日まで世話になっているプロバイダがASAHIネットで、そこが展開しているブログなものですから、何の気なしにこの「アサブロ」を選び、何の下調べもせずにブログを書き始めちゃったんですが、早くも大きな壁にぶち当たりました。

この「アサブロ」というヤツ、実のところかなり上級者向けの作りであることが、書き始めてすぐにひしひしと伝わってきました。ただ文章を書くだけなら別段困ったこともありませんが、それじゃあんまり素っ気ないだろうといろいろエントリに装飾を加えようとしたら、とたんに難易度がグンとアップする仕掛けなのです。

アップロードするには「そのまま」と「HTML」「Wiki」を選ぶことができるんですが、「そのまま」では文字強調や文字色/大きさの変更などが一切ままならないのです。それはHTMLでタグを打ってやらないといけないんですね。それで、ヒイヒイいいながら五十の手習いでHTMLを勉強しているところです。

また、ブログの機能を使って画像をアップロードしようとすると1エントリにつき1点だけで、それもエントリのトップに持ってこられてしまいます。ところがこの「アサブロ」、ブログの機能としてはほとんど無制限といっていいくらい画像を張ることができるそうで、それにはもう「裏技」としか言いようのない手段を駆使してやらなければいけません。

本来ならこのブログ、「ホームページビルダー」などのHTMLエディタを使って書くのが正解なのだそうですね。そういうものを持っていない私が手打ちタグで挑もうなんて考えたのは、大変に浅はかだったのかもしれません。でもまぁこれも経験のうち、としばらくここでエントリを書き進めようと思います。

しかし、スピーカー工作や各種実験のエントリを上げようとするならば、画像をガンガン張って解説を加えながらという体裁としないわけにはいきません。私が自由自在にそういうエントリが立てられるようになるのが先か、ギブアップして他のブログへ引っ越すのが先か。まぁこちらも長い目で見守っていただけると幸いです。

FE-103-Sol


前述の裏技を使って表示した画像です。フォステクスの限定発売フルレンジ・ユニットFE103-Solですが、オレンジ色のフレームが何とも鮮烈ですね。早くこれでキャビネットを作りたいなぁ。

お薦めソフトも紹介していこうかと2014/01/21 16:46

かつて「オーディオベーシック」誌で連載していた高音質ディスク聴きまくりというページは、私が編集者だった頃に立ち上げ、最後の方の数回を除いてずっとまとめ役を務めていました。割合に長く続いた連載で、読者の皆さんに支持していただいていたことがありがたかったものです。

市川二朗さん、高崎素行さんのお2人と鼎談形式の連載だったのですが、2人とも故・長岡鉄男氏の許をよく訪問されていて、たびたび「これ、面白いですよ」と長岡氏にソフトを紹介されていたという兵(つわもの)です。豪壮雄大なサウンドを聴かせる「クラフィンス・ピアノ」は市川さんがドイツ現地で発見されてきたものですし、あの「日本の自衛隊」をCDで復刻されたのは高崎さんでした。高崎さんは勢い余ってアナログ盤の復刻まで手がけられちゃったし、このあたりはよくご存じの人も多いんじゃないかと思います。

クラフィンス・ピアノの音源はただいま入手不可能ですが、とある代理店に契約できないか探ってもらっているところです。「日本の自衛隊」LPはご存じMYUtakasakiで今なお購入可能ですから、ご希望の人はまず問い合わせてみられるとよいでしょう。

あの連載を立ち上げた当初は私は一介の編集者で、本来は市川さんと高崎さんにレギュラーでお薦めディスクを紹介してもらい、毎回ゲストを呼んで2枚ほど挙げてもらう、という体裁で進めていました。ところが、そう毎回ゲストが都合良く仕込めるわけもなく、結局私がほぼ毎回2枚ずつディスクを紹介することとなってしまいました。その後すぐにライターとしての仕事が増えてきたので、小さいながらディスクが紹介できる枠があったのは大いに助かったんですがね。

「高音質ディスク聴きまくり」の連載が形を変えてすぐに打ち切りとなり、かてて加えて雑誌そのものがなくなってしまった昨今、私のソフト紹介ページは音元出版でスポット的にもらっているもののみとなってしまいました。なにぶんひどい貧乏暮らしで、そうそう山ほどソフトが買える身分でもありませんが、それでもこういう仕事をするからにはいいソフトがなきゃ話にならないわけですし、普通の人よりもたくさん購入しているつもりです。

それで、本ブログでもお薦めのソフトを紹介していきたいと思います。基本的に実際わが家のリファレンス・システムで音を聴き、良かったもののみを扱うという線は堅持するつもりです。ただし、一概に「高音質ソフト」というわけでもありません。録音はまぁまぁだけれどつい何度も再生してしまう魅力にあふれた演奏というものも世の中には少なくないですからね。

このエントリもちょっと長くなっちゃったので、ディスク紹介のエントリはまた別途、ということにさせてもらいましょうか。近日やり始めると思います。

グスターヴ・ホルスト/組曲「惑星」ほか2014/01/23 10:34

お薦めソフトの第1弾は、いきなりのハイレゾ配信音源です。これ、今出ている号のネットオーディオ誌「私のハイレゾ・ベスト10」的なコーナーで紹介しているんですが、文字数が少なかったもので、タイトルが表示されているだけでどういうソフトか全然書けなかったんですよね。それでいっそのこと、当欄で紹介記事にしてしまおうと思い立ったわけです。

ジャケ写


ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編曲)、はげ山の一夜、
ホルスト/組曲「惑星」
レナード・スラットキン指揮(ムソルグスキー)、ワルター・ジュスキント指揮(ホルスト)
セントルイス交響楽団


こちらの音源です。米Voxレコードにはお買い得詰め合わせ2CDセットがあって、それと同様の体裁で曲を詰め合わせにしたハイレゾ配信音源です。それにしても、作曲者はムソルグスキーホルストの2人で指揮者もスラットキンジュスキントですから、セントルイス響以外の共通点が見当たりません。「もうちょっと売り方を考えた方がいいよ」と助言すべきなのか、はたまた一部を除いて曲単位の分売も可能だから別にこれでかまわないのか。廉価盤レーベルならではというか、ジャケットも全然凝ったものじゃないですし、あんまり難しいことをいっても仕方ないのかもしれませんね。

で、どうしてこんなマイナーなレーベルの作品を「ベスト10」に推したのか。これにはずいぶん長い前節があります。私が大学に入って間もない頃ですから、もう30年近くも前の話になりますね。今はなき秋葉原・石丸電気の本店ソフトフロアでたまたま見つけたCDが、上記ハイレゾと同一音源のホルスト/惑星でした。

故・長岡鉄男氏の「外盤A級セレクション(1)」が発売になり、むさぼるように読んでいた頃とちょうど時期が重なっていて、紹介されている盤に何枚か入っていたMMGレーベルの、フリューゲルホーンをかたどったようなロゴマークを覚えていました。それが見えたので「ひょっとしたら掘り出し物かも!」と引っつかんでレジに並んだ、という次第です。

自宅へ戻りCDの封を切ってビックリ! 光に透かしてみたディスクはさながらプラネタリウムの如し。無数のピンホールが空いてしまっているのです。これは初期のアメリカ盤で、品質管理がお粗末だったんでしょうね。今はそんな盤など薬にしたくてもそうそう見つかるものじゃありませんが、当時は結構いくつもピンホールの空いた盤があったものでした。

当時使っていたCDプレーヤーはCD/LDコンパチブルプレーヤーの1号機パイオニアCLD-9000だったのですが、これがまた読み取りの不安定な代物で、案の定この盤を読み取ることができませんでした。読み取ることさえできればどんな高級プレーヤーにも真似のできないド迫力の再生音を楽しませてくれる、得難いプレーヤーだったんですがねぇ。

かからなければ仕方ないものですから石丸までディスクの交換に向かったんですが、何ともはや私の買った盤が最後の1枚だったとか。「返金しますか?」と訊かれましたが、これも何かの縁とそのまま持って帰ってきました。ですから、この盤をじっくり聴くことができたのはもう1台のプレーヤーを買った後ということになります。

確か次に買ったCDプレーヤーはマランツCD34だったかな。85年に驚異的なベストセラーを記録、一気にCDを普及の軌道へ乗せた記念碑的なプレーヤーです。そのプレーヤーで初めてじっくりと聴いたジュスキントの「惑星」にはたまげました。確かなホールの音場感とともに大編成のオケがどっしりと定位、華やかに音楽の成分が飛び散るような生きいきとみずみずしい鳴りっぷりを聴かせてくれたのです。

学生当時のシステムですから、そう大した装置がそろっていたわけではありません。スピーカー工作だってまださほどのノウハウを蓄積していたわけでもありませんでしたしね。それでもこのソフトの「本質」ははっきりと耳へ飛び込んできました。「あぁ、俺、ひょっとして"当たり"を引いたかな」と、1人でニヤニヤしたことを覚えています。

それでもこのソフト、決して「地上最強の録音」というほどのものではありません。後年になって故・長岡鉄男氏のシアタールーム「方舟」へ担当編集者として足繁く通うようになってから、この盤を持っていって聴かせてもらったことがあるんですが、さわりを聴いたところで先生が立ち上がり、CDラックからプレヴィン/ロイヤル・フィルの「惑星」を取り出してこられました。ご存じ米テラークの名盤です。

方舟の装置では、もう圧倒的にテラークの勝利でした。情報量も音場感もケタが違う、という感じです。「井の中の蛙だったなぁ」とガッカリしてその日は帰りました。

その後すぐに私もテラーク盤を買い求め、自宅の装置で聴くようになりました。でも、何だかちょっと違うのです。テラークは綺麗過ぎるというか、整いすぎているというか。方舟並みに持てる器量を全部引き出してやればテラークが圧倒するのですが、わが家の装置では少々小ぢんまりとして音色の安っぽいMMG盤の方がなぜかしっくりくるような気がして、結局ジュスキントを聴き続けることとなりました。

「惑星」という楽曲についてはもっといろいろ書きたいことがあるので、またそのうち別個エントリを立てますね。

その後、どうやらこの演奏は割合に定評のあるものだったらしく、海外でプレミアム版CDとして発売されていたりもしたそうですね。私がその情報と巡り合った頃にはもうすっかり売り切れてしまった後で、入手することはかないませんでしたが。

いや、何のことはない。高音質ディスク聴きまくり用に有望な盤を探していて、まずVox盤がヒットしたんですよ。「何でMMGじゃなくてVoxなんだろう?」と疑問に思っていたら、どうやらMMGはVoxの社内レーベルのようですね。

ところが、せっかく見つけたというのにその時点で廃盤となってしまっていて、諦めきれずにいろいろ情報を当たっていたらそのプレミアム盤に当たり、慌てて購入しようとしたらとっくに売り切れていた、という次第です。それが3~4年前の話だったかな。以来、「縁がないのかなぁ」とボヤきつつ、つい最近まで個人的にCDを愛聴してきました。

で、話は昨年の12月へ一気に飛びます。ネットオーディオ編集部から「今号はハイレゾ特集だから、筆者のハイレゾ・ベスト10を挙げて下さい」と連絡が入りました。どれを選ぶかもう既に困るくらいのハイレゾ音源は手元にありますが、こういう企画なら「これを挙げなきゃ!」と慌てて購入したのがこの「惑星」を含むVoxの音源だった、というわけです。音源そのものはもう半年ほども前だったかに米HDtracksで販売されていることを確認していて、「そのうち雑誌の企画で取り上げられたら購入しよう」と思っていた(不純ですね (^^;))だけに、まさに渡りに船でした。

ダウンロードした音源を早速、長年愛聴してきたCDと聴き比べたら、もう第1曲の「火星」で完全に勝負アリ! 音像は実体感豊かに生きいきと立ち上がり、音場は遥かに広く澄み切ってどこまでも伸びていきます。一方のCDは、単体で聴いていれば全然気にならなかったというのに、ハイレゾを聴いてしまうとCD版には微細なワウフラッターを感じさせます。「いい演奏と録音だけれど、まぁ仕方ないかな」と思っていた部分がものの見事に払拭されてしまった、といった感があります。

音源の品位は96kHz/24ビットで、今となってはまぁそう突っ込んだ高品位でもないのですが、これだけのサウンドを聴かせてくれたら大満足です。確かCDを買った時は1,300円くらいだったと記憶しますが、ここまで音質向上してかつ「展覧会の絵」「はげ山の一夜」まで詰め合わせになって$17.99なんですから、それはもうただみたいな価格だと思います。

ちなみにあとの2曲ですが、「スラットキンにしては若干ヌルい指揮かな」と思わなくもないものの、立体的な骨格で豪快にオケをドライブするところはさすがアメリカという感じです。オーディオ試聴用にお薦めできる音源じゃないかと思います。

あぁ、長々と思い出話を書き連ねていたら、たった音源ひとつを紹介するのにずいぶんな文字数になっちゃいましたね。でも、雑誌じゃまずこんな誌面の無駄遣いができるはずもありませんから、ひとつブログならではのネタ記事ということでご容赦いただけると幸いです。