わがリファレンス・システム(アナログ編-その3 カートリッジ周辺)2014/01/29 00:00

アナログ関連のエントリを続けます。プレーヤーは2回のエントリで詳述したパイオニアPL-70でここ25年間不変ですが、カートリッジやターンテーブルシート、スタビライザー、フォノケーブルといった周辺機器・アクセサリー類はたびたび変わっています。

カートリッジはメインのリファレンス機が4機種。MMタイプはオーディオテクニカAT150MLXを長年愛用しています。これはフォノイコのMMポジションを試聴する際に加え、適正針圧が0.75~1.75g(1.25g標準)という昨今珍しくなったローマス/ハイコンプライアンス型なので、そちら方面の代表としても活躍を願っています。

AT150MLX

オーディオテクニカ AT150MLX ¥35,000(税抜き)

MCのハイインピーダンス型はおなじみデノンDL-103です。これはもう定番中の定番ですし、いまさら紹介するまでもありませんね。日本初のステレオMCカートリッジにしてNHK-FMの音の要ともなった名器中の名器です。ずいぶん長く使った103が先年ついに針先の寿命を迎え、ただいま針交換後の新しい個体を慣らし運転中です。

DL-103

デノン DL-103 ¥35,000(税抜き)

MCのミドルインピーダンス・タイプはオーディオテクニカAT-OC9/IIIを愛用しています。このワイドレンジと解像度、そして最高域まで鋭く切れ上がる持ち味はとても6万円台とは思えません。決して万能型万人向けというわけではありませんが、故・長岡鉄男氏が推奨された「A級外盤」などを楽しむにはうってつけのカートリッジだと思います。

AT-OC9/III

オーディオテクニカ AT-OC9/III ¥62,500(税抜き)

MCローはこちらもご存じオルトフォンSPUです。世界初のステレオカートリッジにしてまだ生産が続く驚異のロングセラーですが、現代カートリッジでこういう味わいを持つ製品はほとんどなく、まさに余人をもって代え難いカートリッジというべきでしょうね。ベースモデルのクラシックIIは適正針圧が4gと重いので、こちらはハイマス/ローコンプライアンス型の代表としても活用しています。

SPUクラシックGII

オルトフォン SPUクラシックG MkII ¥78,000(税抜き)

ただし、私の愛用するSPUは重いGシェルを脱ぎ捨て、オーディオ工房のハヤシ・ラボが製作・販売するアダプターを介して一般シェルに取り付けています。これをやると「あのSPUが!!」と驚くくらいハイスピードで現代的なサウンドになるんですよ。最近になって神奈川県は湘南台のオーディオショップ「でんき堂スクェア湘南」でも、同じように使えるアダプターを売り出しましたね。

ハヤシ・ラボSPUアダプター

ハヤシ・ラボのSPUアダプター(写真右 ¥15,000)。左はアナログ全盛期に商品化されていたオーディオクラフトのSPUアダプターOF-3a(¥5,000 当時)。

実はハヤシ・ラボのアダプターとでんき堂スクェア湘南のものは、全く構造が違います。後者はかつてオーディオクラフトが発売していたアダプターとほぼ同形状で、天面に大きなアルニコマグネットが突き出しているSPU本体の形状に合わせてくぼみを作り、前方へ向けて僅かに傾けたものですが、前者はアルニコマグネットを左右からネジで締め付け、より振動の基点を明確化しようという設計の方針を見て取ることができます。

でんき堂スクェアSPUネイキッド・アダプター

でんき堂スクェア湘南謹製のSPU"ネイキッド"アダプター(¥5,000 税抜き)。往年のオーディオクラフトとほぼ同じ構成で、価格まで揃えてきているのがニクい。

両者の価格はだいぶ違いますが、こういう構造の違いと製造の難しさがそのまま価格差になっていると見て間違いないでしょう。両方とも実際に使ってみましたが、確かにそれなりの音質差はあります。前者がよりがっちりと音像が決まり、音場も広大に広がります。後者は前者に比べるとやや緩い感じですね。しかし、でんき堂スクェア湘南のアダプターが使えないということでは全然ありませんから、ご予算と音の好みで選ばれるのもよいと思います。

ちなみに、SPUの本体を外す際にはシェルリードを絶対ねじってはいけません。必ずまっすぐ引き抜くようにしましょう。ねじり方向の力が加わるとSPUの内部配線は非常に断線しやすいのだそうです。以上、オルトフォンジャパン坂田清史さんのお話からでした。

ほかにもカートリッジは購入品と貸与品を含めて結構な数を持っています。オーディオアクセサリー誌で連載しているハイCP機を中心とした「炭山太鼓判」でレファレンス・カートリッジの1本としていたオルトフォンMC-09Aは残念ながら生産完了になっちゃいましたが、2万円と少しで購入できる超廉価MCカートリッジながら結構MCらしさ、オルトフォンらしさを聴かせる逸品でした。次にMCカートリッジを取り上げる時には、同社の新しいMC-Qシリーズで初加入した末弟MC-Q5を使うことになると思います。これも3万円を切っているから相当のハイCPといって間違いありません。

MC-Q5

オルトフォン MC-Q5 ¥29,000(税抜き 1月末発売)

大昔に購入していまだ実働状態にあるカートリッジの中で、面白いものといったら断然ビクターMC-L10ですね。学生時分に必死のバイトで購入したL10は、友人と大酒を飲みながら音楽を聴いていたと思ったら、翌朝針先が消失していることに気づいてしばらく立ち直れなかったものでした。その後、20世紀の終わり頃に突然オーディオユニオンから放出品が出たという情報をキャッチ、慌ててお茶の水へ走りゲットしたのが現用の個体です。

MC-L10

わが家のMC-L10。ゾノトーンのヘッドシェルに取り付け、シェルリードは在野のアナログ職人モスビンさんがMC-L10専用に作って下さった特製品を使っている。このリードへ交換した時にはあまりの解像度と抜けの良さ、爆発的な力感に肝をつぶした。すごいノウハウと耳をお持ちの人である。

L10の後継にして長岡氏が長くリファレンスとして使い続けられたMC-L1000も手元に1個あるのですが、残念ながら片ch断線してしまっています。どこかにこれが修理できる業者さんはおられないものですかねぇ。

あと面白い変り種カートリッジといえばソニーXL-MC3が挙げられるかな。独自の「8の字コイル」で空芯MCながら結構な出力電圧を確保していて、ソニーらしい肌合いの優しい表現の中にかなりしっかりした1本の芯を持つ、なかなかの力作だったと思います。わが家では現在もそういう音を存分に楽しませてくれています。

XL-MC3

ソニーXL-MC3はテクニカのAT-LT13aシェルに取り付けている。シェルリードは直出しで、リード込みで3gしかないという驚異的な軽量カートリッジだった。軽量シェルに取り付けるとバランスしないアームも多いのではないか。

ヘッドシェルは長年オーディオテクニカのAT-LHシリーズを愛用しています。特にAT-LH13occは結構たくさんのカートリッジに使っているなぁ。ご存じの人も多いかと思いますがAT-LHには13、15、18の3種類あって、それぞれ自重を表しています。LH15を標準とすると、LH13はブレード部が短く、LH18はコネクター部がアルミ合金からステンレスに変更されています。

AT-LH13occ

オーディオテクニカ AT-LH13occ ¥6,200(税抜き)

それぞれに音質的な持ち味はあるのですが、概して重い方が低域の馬力と重量感が出て、軽い方が俊敏で切れ味鋭い音になる傾向です。カートリッジによって相性が出てくると思いますが、私はどちらかというと俊敏な音を好むのでしょうね、LH13を使いたくなることが多いように思います。それに対して、LH18は若い頃にその馬力感が気に入って大いに愛好したものですが、昨今はめっきり起用することが減りました。わが家では慢性的にヘッドシェル不足なんですが、それでも何本か遊んでますからね。

シェルリードはまずリファレンスとしてオーディオテクニカAT6101を挙げねばなりません。とにかくこれほど安価で音のしっかりしたリード線もないものですからね。ただし、それでは本当の高音質には不足していることも重々承知しています。これまでまぁ数え切れないくらいのシェルリードを体験してきましたが、絶対的なナンバー1を挙げろといわれると困惑してしまいます。それぞれにあまりにもキャラクターが違い、同じ土俵で点数をつけるのが困難なのです。

思い出すままにキャラクターを記しておきましょうか。まずAT6101(¥1,000 税抜き)は中~高域が自然で伸びやかですがやや低域不足、いくらか素っ気ない感じもあります。同社AT6106(¥4,800 税抜き)はワイドレンジで分厚く実体感と色彩感が豊か、しかしどことなく自然の色味というよりカラーテレビの色を見ているようなイメージがあります。ZYXシェルリード・ワイヤー(¥4,800 税抜き)は極めて色づけ少なくストレートな高解像度ですが、若干淡彩に感じる部分があります。ゾノトーン8NLW-8000プレステージ(¥7,600 税抜き)は肉太で抜けが良く鮮やかな表現が魅力ですが、ちょっと高域方向へキラッと輝くところがあってカートリッジを選びます。オーグライン「クラシック」(¥11,000)は輝かしい音楽成分が耳へ猛烈に押し寄せ、さながら黄金の大洪水といったイメージ、同「ボーカル」(同)はすっきりと伸びたバランスが声を凛と際立たせます。

まだまだありますが、今回はこんなところで。とまぁ書いてきた通りのイメージなもので、「どれを本命にするんだ!?」といわれると困惑してしまう、というわけです。といってカートリッジとの相性をスクランブルテスト的にチェックするのも大変だし、ということで、基本はAT6101に置きつつ、いろいろなリードをカートリッジごとにある程度使い分けているというのが正直なところです。なお、シェルリードの画像は省略させてもらいました。

アナログについて書き始めると、ホント止まらなくなっちゃいますね。いったんここでエントリを分けたいと思います。

わがリファレンス・システム(アナログ編-その4 愛しのAT33シリーズ)2014/01/29 19:53

先のエントリで一つ重要なわがリファレンス・カートリッジを忘れていました。オーディオテクニカAT33シリーズ。1981年に発売された第1号機のAT33Eは、「ビクターMC-1の弟分というイメージもある」という故・長岡鉄男氏の激賞もあって爆発的なヒット作となり、1980年代前半の読者訪問記事「長岡鉄男のオーディオ・クリニック」などでは「持ってない人の方が珍しいんじゃないか?」と思われるほどの驚異的な普及率を見せていました。

AT33E

オーディオテクニカ AT33E 1981年発売 ¥35,000(当時)

その当時、私はちょうどオーディオに興味を持ち始めた頃で、高校生にとって当時の3万5,000円はとても手の届かない大金だったことを覚えています。その頃というと「交換針が安いから」というだけでジュエルトーンMP-10J(本体¥3,900 交換針¥2,000 いずれも当時)を使っていたくらいでしたからね。ちなみにそのMP-10J、安いからといって決して見くびってはならないなかなかのサウンドを聴かせてくれてはいました。交換針のナガオカが作ったカートリッジだから、内容の割には非常に安価だったんだろうと今にして思います。

MP-10J

ジュエルトーン(現:ナガオカ) MP-10J 1979年発売 ¥3,900(本体、交換針¥2,000)

そんな私は大学に入ってもそうそうバイト代で懐が潤っていたことなぞありもせず、やはり3万5,000円は高嶺の花でした。大学入学後、最初に買ったのは同社のAT27E(¥11,000)だったなぁ。

ようやく一念発起してAT33Eを買いに行ったら既に生産完了で、後継のAT33MLが店頭に並んでいました。3万8,000円と少し価格が上がり、値引き率も渋くなっていましたが、針先の長持ちする「マイクロリニア針」が装着されたということで自分を納得させ、ドキドキしながら購入したことを覚えています。1986年頃だったかなぁ。

AT33ML

久しぶりに引っ張り出したAT33ML。普段はシェル不足で仕舞い込んでいたが、余っていたAT-LH18に取り付けて撮影した。そういう次第で本調子ではないものの、音を聴いてみるとやはりなかなか聴かせるものを持っている。

初めて音を聴いたAT33MLには驚きました。もうAT27Eなんてまるで及びもつかぬ高解像度と駆け上がる切れ味、ハイスピード&パワフルに音楽を明るく楽しく歌い上げる、という表現は、それまで自分では結構積み上げていたつもりだったオーディオ観そのものを覆してしまうに十分なものでした。前述したガチガチ改造プレーヤーがまだ生きていて、割合にプレーヤーがしっかりしていたのも33MLの実力が理解できた要因ではあるのでしょうね。

それ以来、バイトで給料が出てはいろいろなカートリッジ(主に中古品でしたが)へ浮気を繰り返しましたが、解像度や切れ味に関してはビクターMC-L10(これも中古)が圧倒したくらいで、ありったけの音楽情報を放り出してアッケラカンと床に散りばめたような、ややチープながらワクワクするような楽しさは33MLにかなうものがありませんでした。

その後結構たくさんのカートリッジを入手し、いろいろと取り替えて使っていたこともあり、33MLはずいぶん長持ちしてくれました。何と今でも全然問題なく鳴ってくれるのです。「針先が減りにくい」というマイクロリニア針の宣伝文句に嘘はなかった、と断言してもいいんじゃないでしょうか。

その後、33にはいろいろな限定バージョンが出ました。1994年のAT33LTD(¥38,000 税抜き、AT33シリーズ33周年記念!)と95年のAT33VTG(¥40,000 税抜き)くらいはすぐに思い出せますね。ところがこの2モデル、私は既にこの業界へ潜り込んでいましたから音を聴く機会がありましたが、わが愛しのAT33MLとはまるで別物のサウンドで、厚みがあって高品位な音ではあるのですが、音楽をウキウキとスキップしながら奏でるような楽しさが影を潜め、重厚で密度の高い音楽を再現するようになっていました。例えるならイタリアとドイツのオケが同じ曲を演奏しているようなイメージです。大変優れたカートリッジであることはよく理解できましたが、買い替える気にはなりませんでした。

AT33LTD

オーディオテクニカ AT33LTD 1994年発売 ¥38,000(税抜き)

次に登場したのは限定モデルではなく、レギュラーの追加モデルでした。1997年発売のAT33PTG(¥40,000 税抜き)です。ちなみにMLはコイルがLC-OFC巻き線からPC-OCCに変わり、それからもずいぶん長く継続生産されていました。PC-OCCになってからは聴いたことがないんですが、音は変わっていなかったんでしょうかねぇ。

AT33PTG

こちらもしばらくぶりのAT33PTGとなる。PTG/IIよりもよりMLに近い切れ味と爆発力を持ち、それでいてどっしりとした落ち着きも感じさせるなかなかの逸品だった。PTG/IIはその切れ味方向をOC9/IIIに任せることで、より音楽を楽しく聴かせる方向へ進化することができたというべきであろう。

さて、AT33PTGは故・長岡鉄男氏が年間ベスト企画の「ダイナミック大賞」で激賞され、当時は既に私が氏の担当編集者を務めていたもので、断然興味を引かれることとなりました。急ぎ入手してMLと音を聴き比べてみると、う~む、例の音楽の楽しさ、子猫が毛糸玉にじゃれ付いているような、ある種乱雑なまでの情報量の提示はありません。その代わりLTDやVTGに際立っていた品位の高さや落ち着きをこのPTGも備え、それでいながら積極的に音楽を表現し、日本刀の切れ味から炸裂する大太鼓まで存分に描き上げるスケールの大きさを感じさせました。

この頃にはもう私も少しずつライターとして仕事を始めていたので、自分のリファレンスをある程度しっかりさせておく必要が出てきていました。そこで新製品ということもあり、カートリッジはAT33PTGをわが基準と定めることにしました。

などと格好のいいことを言っていますが、ライター活動を開始した最初の頃は古い古いサンスイのプリメインAU-D707を核に、NECのCDプレーヤーCD-10(名器!)と前述のPL-70、そしてテクニクスの10cmフルレンジEAS-10F20をダブルバスレフのキャビネットへ収めた自作スピーカーという、何ともトホホなシステムでの活動ではありました。部屋も6畳1間のアパートでしたしね。

以来、システムも部屋もずいぶん変わりましたが、わがリファレンスの一角へAT33PTGは常に居続けています。2010年にAT33PTGはAT33PTG/II(¥58,000 税抜き)へとモデルチェンジを遂げました。こちらはまず試聴仕事で初対面となりましたが、おやおやずいぶん音の傾向が違っています。PTG/IIに1年先立ってほぼ同価格帯で発売されたAT-OC9/III(¥62,500 税抜き)が極めつけの切れ味とスピード感を聴かせる分、少し33は傾向を違えてきたのだなと直感しました。33らしい「音楽の楽しさ」をむしろ前面に引き出し、良い意味でより万能型万人向きに仕立て直したような感じのサウンドです。

AT33PTG/II

こちらが現在のわが家リファレンスにおける"日常"、AT33PTG/IIだ。旧PTGに比べると底面のゴールドがシルバーになったのが外観上の最大の違いとなる。音はエントリに書いた通り。まさに「日常をともに過ごす相棒」として、個人的にはほぼ理想なのではないかと感じている。

わが家のレコードはいわゆる「優秀録音盤」が多数を占めているわけでは決してなく、むしろ録音など二の次で「聴きたい音楽」本位に買い進めているものですから、かなりトホホなサウンドの盤がプラッターに乗ることも決して珍しくありません。そういう時にOC9/IIIやMC-L10などのカートリッジは「悪い音は悪いまま」表現してしまうので、とても耳障りなことになりかねません。

オーソドックスなハイファイとはまさにそれが正解で、ソフト側も良い音を極力目指すのが正解だということは分かっていますが、私のような"雑食派"はそうもいっていられません。そういう時に今度のAT33PTG/IIは音の粗を適度にいなし、音楽の旨味を上手く表現してくれます。しかも、しっかりした録音の盤はその持ち味もちゃんと表現するのですから、非常に懐の深いカートリッジということがいえると思うのです。

というわけで、仕事中以外のPL-70にはAT33PTG/IIが取り付けられていることが多くなりました。やっぱり私は33シリーズと"縁が深い"のでしょうね。これからもわがメイン・リファレンスの1本として、長く働いてもらおうと思っています。