わがリファレンス・システム(アナログ編-その1) ― 2014/01/25 16:49
さて、わがリファレンスのアナログ編です。アナログプレーヤーもパイオニアのPL-70ですが、これは珍しいことに自費購入したものです。
これを購入したのはまだ学生の頃だったと記憶します。PL-70を購入するまでは高校生の頃に兄からお下がりでもらったシステムコンポ(トリオ製)のアナログプレーヤーを、もはや原形をとどめなくなるまでに改造しまくって使っていました。当時は江川三郎氏のアナログ理論に傾倒し、吸着式のオーディオテクニカAT666スタビライザーを購入、プラッターとの間にガラスを敷いて共振を分散させ、FGサーボのダイレクトドライブだったのを糸ドライブに改造(これはワウが抑えられず、大失敗となりました)、感度が鈍くろくな音がしなかったS字アームを諦め、ガラス2枚重ねのピュアストレート・アームを自作するところまでやったものです。
そういえば、有り合わせの角材を使ってではありましたが、江川式「絶対アーム」も実験したなぁ。あまりといえばあまりの音質向上にアナログの遥かな可能性を感じ、そしてとてつもない扱い勝手の悪さに辟易したものでした。いわゆる「手回しターンテーブル」の実験も行いましたが、ワウだらけでとても音楽を楽しむ雰囲気ではなかったものの、モーターを使わないと音はこんなに澄み渡るものかという感激を味わうことがかないました。
とまぁ、こんなことをやっていてプレーヤー本体がまともに動き続けるわけもありません。10年近くの実験の後そのプレーヤーは昇天しました。で、次のプレーヤーを探している時にPL-70と巡り合った、というわけです。
PL-70は1979年の発売ですから今年で35年にもなります。確かメーカー希望小売価格15万円くらいだったと記憶します。S字のセミロングアームでクオーツロックのDD方式ですから、ピュアストレート・アームでベルトドライブの江川式とは相容れないプレーヤーでした。
私がプレーヤーを壊して次の製品を探していたのは、ちょうど折良くというべきかCDが爆発的に普及し始めた時期と重なり、アナログプレーヤーはあまり省みる人もなく、中古売り場の大きな面積を占めながらあまり物が動かないという状況でした。その状況で元箱はおろか取説も付属シェルも重量級ウエイトもアーム調整用のレンチも付属しない「現状渡し品」として店の隅に置いてあったのがPL-70でした。3万8,000円くらいだったっけ。店頭で何の気なしに持ち上げてみようとして、思わず腰を痛めそうに重かったもので、その場で「これ下さい!」と店員さんに声をかけちゃった次第です。
パイオニア PL-70 1979年発売 ¥150,000(当時)
わが家のプレーヤー風景。何かとゴチャついているのはご勘弁願いたい。写真ではパイオニアJP-501ターンテーブルシートが載せられているが、オーディオテクニカAT677→オヤイデMJ-12と変遷して、現在はオヤイデBR-12を使用している。
このプレーヤーにはいろいろ手がかかりました。何たってこれだけ安い現状渡しなんですから、並みの程度だなんて思う方が間違っているというものです。
まず、標準のアームウエイトでは現代のカートリッジ&シェルがほとんど使えません。PL-70の開発当時はローマス/ハイコンプライアンスのカートリッジが全盛の頃で、付属シェルは何とカーボングラファイト製で7.8gだったといいます。現代のシェルでそれに匹敵する目方というとSMEの超軽量穴あきシェルS-2Rですら8gほどあるようですからもはやお手上げ。カートリッジ本体の質量も時代を追うに連れて高まってきているようですし、本当に適合するカートリッジが少ないことに頭を抱えたものでした。
これはもう重量級のカウンターウエイトを作るしかありません。といったって旋盤が手元にあるわけじゃなし、ここは一工夫と頭をひねりました。まず軽量級のカウンターウエイトに、荷造り用のクラフトテープを糊の面を外側にしてリング状に貼り付けます。そしてそこに東京防音の鉛シートP-50を適当なサイズに切って貼り回していきます。「まぁこんなもんかな」というところで、プリセットの針圧目盛りの約30%減でバランスするようになりました。
クラフトテープと鉛シートで自作したカウンターウエイトの増量用リング。ウエイトの外側へはめ込んで使う。
これで増量用のウエイトリングは取り外しが可能になり、カートリッジの適合範囲が飛躍的に広がりました。SPUなどの極端に重いカートリッジはまだこれでもちょっとした裏技を用いないとバランスしませんが、私のSPUはアダプターを介して一般シェルに取り付けてあるので、現状でも全然問題なくバランスしています。
アルミのチャンネルとボルトナットで自作したアーム高さ調整用レンチ。穴がおかしなところへあいているが、寸法を測りもせずに当初そこへボルトを取りつけたらレンチの用をなさず、まじめに実測して穴をあけ直した次第。いやはや、お恥ずかしい。
お次はアームの高さ調整用のレンチです。買った当初は高さ調整の方法が分からなくて四苦八苦しましたが、何とか専用のレンチでアームベース周辺のリングを回してチャックを緩める方式だと判明、そのレンチが付属していなかったもので、これも自作しました。見栄えは非常に冴えないヤツですが、パイオニアの純正レンチより何倍も強度があり、扱いやすいものに仕上がったと自負しています。
さて、これでアーム回りはしっかりと調整できたはずなんですが、どうも音を聴いているとキンシャンとやかましく、全然カートリッジの持ち味が発揮されたサウンドとはいえません。おかしいなとアームをしげしげと眺めたら止んぬるかな、アームの先端が僅かに上を向いているじゃないですか!
PL-70のアームはS字型ですから、カートリッジ側から向かって時計方向に少しだけ曲がって取り付けられているのかと思ったのですが、後述する修理の職人さんが一見して「あぁ、これはアームパイプが歪んでいるんですよ」と喝破、ちょっとした置き台と緩衝材を持ち出し、その場で曲げ直してくれました。この修理がかなったのが2013年、確か購入が1988年ごろだったと記憶しますから、何と25年も歪んだまま使っていたことになります。やれやれ。
それでは曲げ直すまで私がどうやってこのアームを使いこなしていたのかというと、アームのサポート部分をえいやっと持ち上げ、思い切り尻上がりにして使っていたのです。大半のカートリッジはこうしてやることで音域バランスが整いましたが、SPUなどの背が高いカートリッジはダストカバーへ接触するぎりぎりまでサポートを上げてやってどうにかこうにかといったところでした。しかも、音を聴きながらの微調整が必要ですから、本当に神経をすり減らしながらの調整だったものです。
これでどうやら何とかまともな音は出るようになりました。しかし、今度はハウリングです。当初はほとんど気にならなかったのですが、自宅リファレンスのスピーカーに30cmのウーファーを入れた頃からハウリング・マージンの低下が著しくなっていました。特に大編成のクラシックなどは超低域のノイズまみれになってしまい、大音量では聴けたものではありません。
どうなっているのかと調べてみたら、よりにもよってアーム直下のインシュレーターが固着してしまっています。その状態でハウリング・マージンを測ってみると、常用音量よりほんの気持ち上の時点で早くも超低域にものすごいノイズが現れます。これじゃ全く使い物になりません。
そこで、テニスボールから始まって幼児用のふわふわのボールや自転車のタイヤチューブなど、いろいろと下に挟んで試してみました。いずれもマージンには不足がなくなるのですが、音質がコロコロ変わってビックリでした。テニスボールは上品で穏やかな質感となり、幼児ボールは何だか中低域が緩んでだらしない感じ、自転車チューブは力感がみなぎりピラミッド型の非常に好ましい再現となります。ただ、見た目はどうにもいただけません。
それで、「そのうちケース入りの自転車チューブ・インシュレーターを作ってやろう」と思っていたら、アコリバに先を越されちゃいましたね。まぁこの手の自作ボードは太古からあるものですから、どっちが先と今さら言い募るものじゃないですけれど。
ヒノエンタープライズ扱いで発売された限定品のインシュレーター。堅木の間に粘弾性材を挟んであり、いろいろな機器の振動対策に有効なグッズである。アナログ用にハウリング・マージンを増すため、耐震ジェルシートを張り込んだりもしてみたが、マージンは上がるものの音が少しふらつく感じもあり、良し悪しといったところだった。
それで結局、たまたま試聴でわが家にやってきた堅木2枚の間に粘弾性材を挟んだインシュレーターの音質が気に入ったものですから、それをそのまま譲ってもらいプレーヤーに挟んで使っていました。これだとマージンが常用音量+10dBくらいで、ちょっと気合を入れて大音量を鳴らそうとするとまだ悲鳴が上がることがありましたが、音質的にはようやく満足したものです。
程度の悪い中古プレーヤーをねじ伏せてなだめすかし、どうにかこうにか使っているわがアナログ・ライフは、特に古いプレーヤーをお使いの人にとっては「不具合の見本市」みたいなものでしょうね。同様の不具合を抱えていらっしゃる人に、私の取った対策が何かのお役に立つといいんですが。
その後、私のプレーヤーは劇的な変化を遂げます。長くなっちゃったので、この辺のくだりはまたエントリを改めますね。
これを購入したのはまだ学生の頃だったと記憶します。PL-70を購入するまでは高校生の頃に兄からお下がりでもらったシステムコンポ(トリオ製)のアナログプレーヤーを、もはや原形をとどめなくなるまでに改造しまくって使っていました。当時は江川三郎氏のアナログ理論に傾倒し、吸着式のオーディオテクニカAT666スタビライザーを購入、プラッターとの間にガラスを敷いて共振を分散させ、FGサーボのダイレクトドライブだったのを糸ドライブに改造(これはワウが抑えられず、大失敗となりました)、感度が鈍くろくな音がしなかったS字アームを諦め、ガラス2枚重ねのピュアストレート・アームを自作するところまでやったものです。
そういえば、有り合わせの角材を使ってではありましたが、江川式「絶対アーム」も実験したなぁ。あまりといえばあまりの音質向上にアナログの遥かな可能性を感じ、そしてとてつもない扱い勝手の悪さに辟易したものでした。いわゆる「手回しターンテーブル」の実験も行いましたが、ワウだらけでとても音楽を楽しむ雰囲気ではなかったものの、モーターを使わないと音はこんなに澄み渡るものかという感激を味わうことがかないました。
とまぁ、こんなことをやっていてプレーヤー本体がまともに動き続けるわけもありません。10年近くの実験の後そのプレーヤーは昇天しました。で、次のプレーヤーを探している時にPL-70と巡り合った、というわけです。
PL-70は1979年の発売ですから今年で35年にもなります。確かメーカー希望小売価格15万円くらいだったと記憶します。S字のセミロングアームでクオーツロックのDD方式ですから、ピュアストレート・アームでベルトドライブの江川式とは相容れないプレーヤーでした。
私がプレーヤーを壊して次の製品を探していたのは、ちょうど折良くというべきかCDが爆発的に普及し始めた時期と重なり、アナログプレーヤーはあまり省みる人もなく、中古売り場の大きな面積を占めながらあまり物が動かないという状況でした。その状況で元箱はおろか取説も付属シェルも重量級ウエイトもアーム調整用のレンチも付属しない「現状渡し品」として店の隅に置いてあったのがPL-70でした。3万8,000円くらいだったっけ。店頭で何の気なしに持ち上げてみようとして、思わず腰を痛めそうに重かったもので、その場で「これ下さい!」と店員さんに声をかけちゃった次第です。
パイオニア PL-70 1979年発売 ¥150,000(当時)
わが家のプレーヤー風景。何かとゴチャついているのはご勘弁願いたい。写真ではパイオニアJP-501ターンテーブルシートが載せられているが、オーディオテクニカAT677→オヤイデMJ-12と変遷して、現在はオヤイデBR-12を使用している。
このプレーヤーにはいろいろ手がかかりました。何たってこれだけ安い現状渡しなんですから、並みの程度だなんて思う方が間違っているというものです。
まず、標準のアームウエイトでは現代のカートリッジ&シェルがほとんど使えません。PL-70の開発当時はローマス/ハイコンプライアンスのカートリッジが全盛の頃で、付属シェルは何とカーボングラファイト製で7.8gだったといいます。現代のシェルでそれに匹敵する目方というとSMEの超軽量穴あきシェルS-2Rですら8gほどあるようですからもはやお手上げ。カートリッジ本体の質量も時代を追うに連れて高まってきているようですし、本当に適合するカートリッジが少ないことに頭を抱えたものでした。
これはもう重量級のカウンターウエイトを作るしかありません。といったって旋盤が手元にあるわけじゃなし、ここは一工夫と頭をひねりました。まず軽量級のカウンターウエイトに、荷造り用のクラフトテープを糊の面を外側にしてリング状に貼り付けます。そしてそこに東京防音の鉛シートP-50を適当なサイズに切って貼り回していきます。「まぁこんなもんかな」というところで、プリセットの針圧目盛りの約30%減でバランスするようになりました。
クラフトテープと鉛シートで自作したカウンターウエイトの増量用リング。ウエイトの外側へはめ込んで使う。
これで増量用のウエイトリングは取り外しが可能になり、カートリッジの適合範囲が飛躍的に広がりました。SPUなどの極端に重いカートリッジはまだこれでもちょっとした裏技を用いないとバランスしませんが、私のSPUはアダプターを介して一般シェルに取り付けてあるので、現状でも全然問題なくバランスしています。
アルミのチャンネルとボルトナットで自作したアーム高さ調整用レンチ。穴がおかしなところへあいているが、寸法を測りもせずに当初そこへボルトを取りつけたらレンチの用をなさず、まじめに実測して穴をあけ直した次第。いやはや、お恥ずかしい。
お次はアームの高さ調整用のレンチです。買った当初は高さ調整の方法が分からなくて四苦八苦しましたが、何とか専用のレンチでアームベース周辺のリングを回してチャックを緩める方式だと判明、そのレンチが付属していなかったもので、これも自作しました。見栄えは非常に冴えないヤツですが、パイオニアの純正レンチより何倍も強度があり、扱いやすいものに仕上がったと自負しています。
さて、これでアーム回りはしっかりと調整できたはずなんですが、どうも音を聴いているとキンシャンとやかましく、全然カートリッジの持ち味が発揮されたサウンドとはいえません。おかしいなとアームをしげしげと眺めたら止んぬるかな、アームの先端が僅かに上を向いているじゃないですか!
PL-70のアームはS字型ですから、カートリッジ側から向かって時計方向に少しだけ曲がって取り付けられているのかと思ったのですが、後述する修理の職人さんが一見して「あぁ、これはアームパイプが歪んでいるんですよ」と喝破、ちょっとした置き台と緩衝材を持ち出し、その場で曲げ直してくれました。この修理がかなったのが2013年、確か購入が1988年ごろだったと記憶しますから、何と25年も歪んだまま使っていたことになります。やれやれ。
それでは曲げ直すまで私がどうやってこのアームを使いこなしていたのかというと、アームのサポート部分をえいやっと持ち上げ、思い切り尻上がりにして使っていたのです。大半のカートリッジはこうしてやることで音域バランスが整いましたが、SPUなどの背が高いカートリッジはダストカバーへ接触するぎりぎりまでサポートを上げてやってどうにかこうにかといったところでした。しかも、音を聴きながらの微調整が必要ですから、本当に神経をすり減らしながらの調整だったものです。
これでどうやら何とかまともな音は出るようになりました。しかし、今度はハウリングです。当初はほとんど気にならなかったのですが、自宅リファレンスのスピーカーに30cmのウーファーを入れた頃からハウリング・マージンの低下が著しくなっていました。特に大編成のクラシックなどは超低域のノイズまみれになってしまい、大音量では聴けたものではありません。
どうなっているのかと調べてみたら、よりにもよってアーム直下のインシュレーターが固着してしまっています。その状態でハウリング・マージンを測ってみると、常用音量よりほんの気持ち上の時点で早くも超低域にものすごいノイズが現れます。これじゃ全く使い物になりません。
そこで、テニスボールから始まって幼児用のふわふわのボールや自転車のタイヤチューブなど、いろいろと下に挟んで試してみました。いずれもマージンには不足がなくなるのですが、音質がコロコロ変わってビックリでした。テニスボールは上品で穏やかな質感となり、幼児ボールは何だか中低域が緩んでだらしない感じ、自転車チューブは力感がみなぎりピラミッド型の非常に好ましい再現となります。ただ、見た目はどうにもいただけません。
それで、「そのうちケース入りの自転車チューブ・インシュレーターを作ってやろう」と思っていたら、アコリバに先を越されちゃいましたね。まぁこの手の自作ボードは太古からあるものですから、どっちが先と今さら言い募るものじゃないですけれど。
ヒノエンタープライズ扱いで発売された限定品のインシュレーター。堅木の間に粘弾性材を挟んであり、いろいろな機器の振動対策に有効なグッズである。アナログ用にハウリング・マージンを増すため、耐震ジェルシートを張り込んだりもしてみたが、マージンは上がるものの音が少しふらつく感じもあり、良し悪しといったところだった。
それで結局、たまたま試聴でわが家にやってきた堅木2枚の間に粘弾性材を挟んだインシュレーターの音質が気に入ったものですから、それをそのまま譲ってもらいプレーヤーに挟んで使っていました。これだとマージンが常用音量+10dBくらいで、ちょっと気合を入れて大音量を鳴らそうとするとまだ悲鳴が上がることがありましたが、音質的にはようやく満足したものです。
程度の悪い中古プレーヤーをねじ伏せてなだめすかし、どうにかこうにか使っているわがアナログ・ライフは、特に古いプレーヤーをお使いの人にとっては「不具合の見本市」みたいなものでしょうね。同様の不具合を抱えていらっしゃる人に、私の取った対策が何かのお役に立つといいんですが。
その後、私のプレーヤーは劇的な変化を遂げます。長くなっちゃったので、この辺のくだりはまたエントリを改めますね。
最近のコメント