わがリファレンス・システム(アナログ編-その5 周辺機器) ― 2014/01/31 11:58
アナログは周辺機器が多くて、書き始めると切りがないですね。お次はターンテーブルシートへ行きましょうか。アナログプレーヤーはターンテーブルシートによってもう全く別物製品になってしまったようにその表情を変えるものです。ある意味で非常に怖いキーパーツというべき存在でしょうね。
わが家のパイオニアPL-70には、購入時から同社の名シートJP-501の同等品が付属していたようでした。故・長岡鉄男氏がたまたまプレーヤーの試聴中にパイオニアの付属シートが素晴らしいと喝破され、それをパーツで取り寄せて使い続けられていました。長岡氏はそれを雑誌でも喧伝されて大人気になってしまったものだから、パイオニアが後に単売パーツとして発売したという来歴を持つ製品です。
もっとも、PL-70に純正でJP-501が付属していたのかどうか、今となっては知る由もありません。中古購入品ですから、前オーナーが取り替えていた可能性もあるわけですしね。
先行エントリにも記しましたが、現在はオヤイデのゴムシートBR-12を使っています。ずいぶん長く付属のJP-501をそのまま使ってきました。しかし、さすがに20年も使っているとシート表面の細かな毛羽が失われてきて、音も何となくガッツに欠けてきました。JP-501後継のJP-701は今も未使用で保存してありますが、それを使ってしまえばもう後がないと、シートもいろいろと聴いてみるようにした次第です。
まず、編集者時分に池袋のビックカメラで現品限りとなっていたAT677を購入してあったので、それと取り替えてみました。JP-501がだいぶ劣化していたこともあり、ずいぶん骨格がしっかりとした立体的な音場が構築されて感激したものです。金属シートにすると音が硬くなりすぎたり特定帯域にキツさが出たりするんじゃないかと思いましたが、AT677にはその心配はないようです。その後、fo.Qから発売された制振素材のシートRS-912の穴あきの方をプラッターとAT677の間に挟み、一段と自然でS/Nの高いサウンドが楽しめるようになっていたものです。
わが家のPL-70にAT677を載せたところ。つい数年前までこれが日常的な風景だった。今でも十分以上に現役として活躍させられる素晴らしいシートだと思う。
AT677は薄いすり鉢型となっており、スタビライザーを載せてやることでレコードが僅かに凹み、反りを修正して針を通しやすくするという効果も持っています。おかげでそれまでほとんど針がまともに通らなかった反りの大きい盤の中にも数多くの愛聴盤を発見することがかないました。
AT677でほぼ満足し、それからもいろいろなシートを聴きましたがあまり食指は動きませんでした。面白いものもいろいろとあったんですがね。しかし、生産完了品を使っているのは本来ならあまり好ましいことじゃありません。まぁもっとも、そんなことをいっていたらわが家のシステムなんてほとんど失格ですけれど。
それだけに、オヤイデからAT677とよく似たMJ-12が登場した時には大いに注目しました。早速取り寄せてじっくりと音を聴いてみましたが、AT677よりも材質が柔らかいのか別の要因かは分かりませんが、いくらか優しい肌合いのサウンドと聴こえてきます。すり鉢はどうやら677より僅かに浅いようで、反りの抑制効果が少し減じますが、その分外周と内周でのアーム高の誤差が少なくなるので、トータルでは良し悪しといったところでしょう。
オヤイデ MJ-12 ¥20,000(税抜き)
ただしMJ-12は比較的滑りやすく、プラッターとの間に何らかのスリップ止めを併用した方が大幅に音質向上するのは明らかです。同社ではBR-1という1mm厚のゴム製シートを発売していますからそれを併用するもよし、わが家では前述のfo.Q・RS-912を挟んで使っていました。この組み合わせの音はかなりの水準で、広くアナログマニアへお薦めしたくなるものでした。
fo.Q RS-912 ¥8,800(税抜き)
オヤイデはMJ-12の翌年、全く同形状ながらゴム製のシートBR-12を発売します。化学的に安定性の高い合成ゴムをベースとして、比重を大幅に高めゴムのキャラクターを抑えるためにタングステンの粉末を混入した力作です。音質はゴムの落ち着きとパワー、そして金属の切れ味を重畳した感じで、盤の反りを抑える効果もMJ-12とほとんど変わりません。このシートは試作の頃から音を聴いていますが、発売されたバージョンが最もバランスの良いサウンドだったと思います。私もいっぺんに惚れ込み、JP-501以来久しぶりにゴムシートがリファレンス返り咲きとなりました。
オヤイデ BR-12 ¥6,000(税抜き)
今でも時々AT677とMJ-12は引っ張り出すことがありますが、やはりどちらも私の好みに適合する素晴らしいシートだと思います。どれをお使いになっても、キャラクターの違いこそあれ、そう大きく盤の持ち味を損なったり余分な音色を付け加えたりすることはないでしょう。安心してお薦めできるシートたちだと太鼓判を押せる製品群だと思っています。
もうひとつお薦めのシートがあります。東京防音THT-291です。でも白状するとこのシート、自宅では使ったことがないんですよ。
東京防音 THT-291 ¥7,000(税抜き)
音元出版で仕事をもらうようになって、同社の試聴室へ足繁く通うようになった頃、個人的に試聴室のレファレンス・プレーヤーはテクニクスのSL-1200シリーズを用意してもらっていました。あのプレーヤーは本当に素晴らしい完成度で、現代にゼロから開発するとなるとおそらく20万円は超えていたことでしょう。しかし、唯一にして最大の問題点がありました。ターンテーブルシートです。とにかくゴムの材質が硬く、盤とシートの密着性が悪くてどうにも音がしっくりしないのです。JP-501を取り付けてやると素晴らしい音に変貌することは、故・長岡鉄男氏の担当編集者として取材に立ち合い、SL-1200MK4の試聴をした時に痛感した体験があります。
ところが、音元出版の試聴室へ顔を出すようになった頃には既にJP-501後継のJP-701も生産完了で、用意してもらうわけにいきません。それで「何かいいシートはないか」と探して発見したのがTHT-291だったというわけです。同時比較をしたわけではないのでJP-501とどちらが優れているとはいえませんが、少なくともSL-1200MK3D~MK5あたりまでは「THT-291と組み合わせることで完成する」といっても過言ではないほどの相性の良さを聴かせてくれたものです。
ところが、SL-1200シリーズの掉尾を飾ったMK6のみは少々様相が違いました。シートの外観は全く変わりないのですが、触ってみてビックリ。THT-291そっくりの質感のゴムに変更されていたのです。試しにそのまま音を聴いてみましたが、全然問題なし。こんなにいいシートが作れるなら最初からそうしておけばよかったのに、とつくづく思いましたね。
栄光のSL-1200シリーズ・ラストモデルとなったMK6。写真ではDJ用のスリップマットが載っているが、別に付属していたオーディオ用のゴムシートが逸品だった。名器の退役を心より残念に思う。
MK6は都合2年ほどしか生産されず、栄光のSL-1200はそこで命脈が尽きてしまいました。頼みのDJ需要がデジタル化の波をモロに食らって先細りとなり、大企業としては維持できる採算が挙げられなくなってしまったのでしょうけれど、せめて生産工場をどこか他のメーカーへ移管するなどといった対応が取れなかったものか、あるいは大幅に値上げしてでも継続生産ができなかったかと、いまだに残念な思いが尽きません。
それ以来、音元出版で私が用いるレファレンス・プレーヤーはデノンやラックスマンなどいろいろ変遷しましたが、一貫してTHT-291を用意してもらっています。そうそう、連載「炭山太鼓判」でアナログを取り上げる際も必ず使っています。
それじゃ自宅でも使おうかといえば当時のリファレンスにはJP-501があったし、その後も信頼すべき製品が途切れることなく手元にあるもので、わざわざ買って使うほどでもないかと見送ったまま現在に至っています。安いものなんだから買っておけばいいんですけれどね。
ターンテーブルシートとくれば、次はスタビライザーですかね。私の絶対的リファレンスはオーディオテクニカAT6274(生産完了)です。人生で初めて買ったスタビライザーは同社AT673でした。シングル盤のアダプター越しにも使える面白いスタビライザーで、何の問題もなく愛用していたのですが、ある日安価な中古品を見つけて上級のAT618に買い替え、ほぼ満足して長く使っていました。
オーディオテクニカ AT618 ¥4,500(税抜き)
もうずいぶん前になりますが、雑誌でスタビライザーの一斉試聴を引き受けました。それはもう山ほどの製品を聴きまくったものですが、その中で頭抜けて心の琴線に触れたのがAT6274でした。「何だよ、またオーディオテクニカか」と呆れられるかもしれませんね。もちろん、長年テクニカ製のスタビライザーを使っていたからより耳へなじみやすかったということもあるでしょうけれど、それにしてもAT6274の音質は素晴らしいものがあると思います。
オーディオテクニカ AT6274 オープン価格(生産完了)
友人の運営するウェブサイトの掲示板へ書いた文章の引き写しですが、ご参照いただけると幸いです。
以下引用
それまでのレファレンスAT618と比べるとさらに低域の馬力が増し、しかし極めて安定した土台の上で炸裂する感じです。中~高域はやや暗色方向のAT618に対して、こちらは雲間から差し込んだお日様のような明るさと温かみを感じます。
パワフルなのに気品があり、安定しているのに活発で、高解像度なのに神経質にならない。もう一聴して手放せなくなり、テクニカへ電話をして譲ってもらったという次第です。既に生産完了で、現行品が手元にあるというのに、いまだレファレンスから外すことがどうしてもできません。
引用終わり
これで個人的な印象は言い尽くしました。本当に大好きなスタビライザーです。
ほか、その時に聴いたスタビライザーの中では、キャストロンの鋳鉄製スタビライザーADS730がとりわけ印象に残っています。こちらはやや暗色方向ですが、しっくりと落ち着いた響きの中に強い芯が通ったサウンドで、「見た目はちょっと取っ付きづらいけれど打ち解けると面白い人」というようなイメージです。これもいつかは購入したいと思っていたんですが、残念ながらもう販売されていないようですね。
あと、ちょっと変り種でハセヒロの「イオンデューサー」というのも面白い音でした。釉薬を一切使わない備前焼で作られたもので、上面のくぼみに水を満たしてレコードを再生すると「マイナスイオン」が発生して音質が向上するという触れ込みの製品です。
ハセヒロ イオンデューサー ¥38,000(税抜き)
私は「マイナスイオン」というヤツがよく分からないので純粋に音だけで評価しましたが、音が明るく軽くポンポンと弾け飛ぶように耳へ届き、それなりの潤いと艶やかさも聴かせるのだから面白いものです。ただし、水を満たして使うならダストカバーは使わないようにすることを薦めなければなりません。カートリッジは非常に精密な金属の集合体で、湿気には決して強くないのです。かつて私もレコードを水洗いしてしっかり乾かさずに音を聴いていたら、カートリッジを1本断線させてしまったことがありました。
ほかにもいろいろありましたが、この2機種は飛び切りの個性派ということで書き記しておきたくなりました。
さて、お次はフォノケーブルへ話題を進めましょうか。PL-70は取説もない中古品を買ったもので、フォノケーブルが交換可能(片側DINストレートタイプ)だとは長く気づかないまま使っていました。いよいよ付属ケーブルのRCAピンプラグが傷んで導通が悪くなったものですから、コレットチャックのプラグを買ってきてつけ直したりはしていましたけれど。交換可能だと分かってからは極力雑誌などで聴き比べなどの取材が獲得できるよう各誌の編集者へ働きかけ、おかげで結構な数のフォノケーブルを聴くことがかないました。
たくさんのフォノケーブルを聴いた中で、とりわけその表現力に感銘を受けたのはオーディオテクニカAT6209でした。導体は金クラッドのOFC、被覆は「ハイブラー」と「レオストマー」という絶縁性と制振性を高度に両立した高分子素材が用いられています。二重シールド構造で耐ノイズ性も非常に高度なものがあります。
オーディオテクニカ AT6209P ¥38,500(税抜き、1.5m 生産完了)
テクニカのAT6209には両端RCAと片側ストレートDIN、同L型DINの3種類があった。写真は私も愛用している片側ストレートDINの6209Pだ。なお、この写真はファイル・ウェブの取材カットより拝借した。
音はとにかくDレンジの広さが圧倒的で、大砲の大爆発とホールトーンの消え際をどちらも極めて忠実に描き出します。色づけも至って少なく、やや暗色方向ですがとにかく音源に封入された音楽の表情を克明に描き分けるのが印象的でした。
残念ながらこのケーブルは生産完了になってしまいましたが、まだリファレンスから外すことをためらっています。本当にいいケーブルでした。
生産完了品の中ではもうひとつ、ゾノトーン7NTW-7060グランディオも長く使いました。こちらは一転極めて明るい表現の方向で、使い始めはやや白っちゃけた感じもあるのですが、使っているうちにゾノトーンならではのクールな明るさに変貌していきます。両端へどこまでも伸びるワイドレンジを強調するよりも音楽の魂をわしづかみにしてリスナーへ直接届けるような、ゾノトーン総帥・前園俊彦氏ならではの音楽への"愛"が直接聴こえるようなサウンドでした。
7NTW-7060グランディオの生産完了後は6NTW-6060マイスターを借り出して使っていますが、こちらはゾノトーンの持ち味の中でもよりクール側へ振ったような感じで、両端へよく伸びた引き締まったサウンドを聴かせます。あくまで好みの問題ですが、上級の7NTW-7060グランディオよりもわが家の装置とは相性が良いのではないかと思います。
ゾノトーン 6NTW-6060 Meister ¥22,900(税抜き、1.5m 片側ストレートDINタイプ)
他に最近のフォノケーブルで良品というと、ナノテック・システムズPH-2Sを挙げておかねばならないでしょうね。こちらは同社ならではの肌当たりの柔らかさを存分に味わわせながら、細かな音をこれでもかというくらい微に入り細をうがって表現するタイプです。それでいて大編成のオケや強烈なポップス系の音源も平然と鳴らすのだから、なかなかの包容力です。
ナノテック・システムズ PH-2S ¥27,500(税抜き 1.2m)
なお、ナノテック・システムズのインターコネクト・ケーブルは、ものによってかなり柔らかい音のように思われる人がおいでかもしれません。実は同社の初期製品を私も使っていて、実際にそう思っていたのです。しかし、長年システムの核として使い続けた同社のインコネは、硬いとか柔らかいとかいう次元を超越した超ハイファイになっていました。本当にキャラクターを一切感じさせない理想的なケーブルです。ただし、そういう音が実現するまでは相当の年月が必要です。お手元に同社ケーブルがあってもうひとつしっくりきていないという人は、少し長期戦の構えで「育ててやる」ことを強く薦めます。
やれやれ、ずいぶん長々と書いてきましたが、まだアナログは書き切れていません。次回くらいで完結させられるかなぁ。
わが家のパイオニアPL-70には、購入時から同社の名シートJP-501の同等品が付属していたようでした。故・長岡鉄男氏がたまたまプレーヤーの試聴中にパイオニアの付属シートが素晴らしいと喝破され、それをパーツで取り寄せて使い続けられていました。長岡氏はそれを雑誌でも喧伝されて大人気になってしまったものだから、パイオニアが後に単売パーツとして発売したという来歴を持つ製品です。
もっとも、PL-70に純正でJP-501が付属していたのかどうか、今となっては知る由もありません。中古購入品ですから、前オーナーが取り替えていた可能性もあるわけですしね。
先行エントリにも記しましたが、現在はオヤイデのゴムシートBR-12を使っています。ずいぶん長く付属のJP-501をそのまま使ってきました。しかし、さすがに20年も使っているとシート表面の細かな毛羽が失われてきて、音も何となくガッツに欠けてきました。JP-501後継のJP-701は今も未使用で保存してありますが、それを使ってしまえばもう後がないと、シートもいろいろと聴いてみるようにした次第です。
まず、編集者時分に池袋のビックカメラで現品限りとなっていたAT677を購入してあったので、それと取り替えてみました。JP-501がだいぶ劣化していたこともあり、ずいぶん骨格がしっかりとした立体的な音場が構築されて感激したものです。金属シートにすると音が硬くなりすぎたり特定帯域にキツさが出たりするんじゃないかと思いましたが、AT677にはその心配はないようです。その後、fo.Qから発売された制振素材のシートRS-912の穴あきの方をプラッターとAT677の間に挟み、一段と自然でS/Nの高いサウンドが楽しめるようになっていたものです。
わが家のPL-70にAT677を載せたところ。つい数年前までこれが日常的な風景だった。今でも十分以上に現役として活躍させられる素晴らしいシートだと思う。
AT677は薄いすり鉢型となっており、スタビライザーを載せてやることでレコードが僅かに凹み、反りを修正して針を通しやすくするという効果も持っています。おかげでそれまでほとんど針がまともに通らなかった反りの大きい盤の中にも数多くの愛聴盤を発見することがかないました。
AT677でほぼ満足し、それからもいろいろなシートを聴きましたがあまり食指は動きませんでした。面白いものもいろいろとあったんですがね。しかし、生産完了品を使っているのは本来ならあまり好ましいことじゃありません。まぁもっとも、そんなことをいっていたらわが家のシステムなんてほとんど失格ですけれど。
それだけに、オヤイデからAT677とよく似たMJ-12が登場した時には大いに注目しました。早速取り寄せてじっくりと音を聴いてみましたが、AT677よりも材質が柔らかいのか別の要因かは分かりませんが、いくらか優しい肌合いのサウンドと聴こえてきます。すり鉢はどうやら677より僅かに浅いようで、反りの抑制効果が少し減じますが、その分外周と内周でのアーム高の誤差が少なくなるので、トータルでは良し悪しといったところでしょう。
オヤイデ MJ-12 ¥20,000(税抜き)
ただしMJ-12は比較的滑りやすく、プラッターとの間に何らかのスリップ止めを併用した方が大幅に音質向上するのは明らかです。同社ではBR-1という1mm厚のゴム製シートを発売していますからそれを併用するもよし、わが家では前述のfo.Q・RS-912を挟んで使っていました。この組み合わせの音はかなりの水準で、広くアナログマニアへお薦めしたくなるものでした。
fo.Q RS-912 ¥8,800(税抜き)
オヤイデはMJ-12の翌年、全く同形状ながらゴム製のシートBR-12を発売します。化学的に安定性の高い合成ゴムをベースとして、比重を大幅に高めゴムのキャラクターを抑えるためにタングステンの粉末を混入した力作です。音質はゴムの落ち着きとパワー、そして金属の切れ味を重畳した感じで、盤の反りを抑える効果もMJ-12とほとんど変わりません。このシートは試作の頃から音を聴いていますが、発売されたバージョンが最もバランスの良いサウンドだったと思います。私もいっぺんに惚れ込み、JP-501以来久しぶりにゴムシートがリファレンス返り咲きとなりました。
オヤイデ BR-12 ¥6,000(税抜き)
今でも時々AT677とMJ-12は引っ張り出すことがありますが、やはりどちらも私の好みに適合する素晴らしいシートだと思います。どれをお使いになっても、キャラクターの違いこそあれ、そう大きく盤の持ち味を損なったり余分な音色を付け加えたりすることはないでしょう。安心してお薦めできるシートたちだと太鼓判を押せる製品群だと思っています。
もうひとつお薦めのシートがあります。東京防音THT-291です。でも白状するとこのシート、自宅では使ったことがないんですよ。
東京防音 THT-291 ¥7,000(税抜き)
音元出版で仕事をもらうようになって、同社の試聴室へ足繁く通うようになった頃、個人的に試聴室のレファレンス・プレーヤーはテクニクスのSL-1200シリーズを用意してもらっていました。あのプレーヤーは本当に素晴らしい完成度で、現代にゼロから開発するとなるとおそらく20万円は超えていたことでしょう。しかし、唯一にして最大の問題点がありました。ターンテーブルシートです。とにかくゴムの材質が硬く、盤とシートの密着性が悪くてどうにも音がしっくりしないのです。JP-501を取り付けてやると素晴らしい音に変貌することは、故・長岡鉄男氏の担当編集者として取材に立ち合い、SL-1200MK4の試聴をした時に痛感した体験があります。
ところが、音元出版の試聴室へ顔を出すようになった頃には既にJP-501後継のJP-701も生産完了で、用意してもらうわけにいきません。それで「何かいいシートはないか」と探して発見したのがTHT-291だったというわけです。同時比較をしたわけではないのでJP-501とどちらが優れているとはいえませんが、少なくともSL-1200MK3D~MK5あたりまでは「THT-291と組み合わせることで完成する」といっても過言ではないほどの相性の良さを聴かせてくれたものです。
ところが、SL-1200シリーズの掉尾を飾ったMK6のみは少々様相が違いました。シートの外観は全く変わりないのですが、触ってみてビックリ。THT-291そっくりの質感のゴムに変更されていたのです。試しにそのまま音を聴いてみましたが、全然問題なし。こんなにいいシートが作れるなら最初からそうしておけばよかったのに、とつくづく思いましたね。
栄光のSL-1200シリーズ・ラストモデルとなったMK6。写真ではDJ用のスリップマットが載っているが、別に付属していたオーディオ用のゴムシートが逸品だった。名器の退役を心より残念に思う。
MK6は都合2年ほどしか生産されず、栄光のSL-1200はそこで命脈が尽きてしまいました。頼みのDJ需要がデジタル化の波をモロに食らって先細りとなり、大企業としては維持できる採算が挙げられなくなってしまったのでしょうけれど、せめて生産工場をどこか他のメーカーへ移管するなどといった対応が取れなかったものか、あるいは大幅に値上げしてでも継続生産ができなかったかと、いまだに残念な思いが尽きません。
それ以来、音元出版で私が用いるレファレンス・プレーヤーはデノンやラックスマンなどいろいろ変遷しましたが、一貫してTHT-291を用意してもらっています。そうそう、連載「炭山太鼓判」でアナログを取り上げる際も必ず使っています。
それじゃ自宅でも使おうかといえば当時のリファレンスにはJP-501があったし、その後も信頼すべき製品が途切れることなく手元にあるもので、わざわざ買って使うほどでもないかと見送ったまま現在に至っています。安いものなんだから買っておけばいいんですけれどね。
ターンテーブルシートとくれば、次はスタビライザーですかね。私の絶対的リファレンスはオーディオテクニカAT6274(生産完了)です。人生で初めて買ったスタビライザーは同社AT673でした。シングル盤のアダプター越しにも使える面白いスタビライザーで、何の問題もなく愛用していたのですが、ある日安価な中古品を見つけて上級のAT618に買い替え、ほぼ満足して長く使っていました。
オーディオテクニカ AT618 ¥4,500(税抜き)
もうずいぶん前になりますが、雑誌でスタビライザーの一斉試聴を引き受けました。それはもう山ほどの製品を聴きまくったものですが、その中で頭抜けて心の琴線に触れたのがAT6274でした。「何だよ、またオーディオテクニカか」と呆れられるかもしれませんね。もちろん、長年テクニカ製のスタビライザーを使っていたからより耳へなじみやすかったということもあるでしょうけれど、それにしてもAT6274の音質は素晴らしいものがあると思います。
オーディオテクニカ AT6274 オープン価格(生産完了)
友人の運営するウェブサイトの掲示板へ書いた文章の引き写しですが、ご参照いただけると幸いです。
以下引用
それまでのレファレンスAT618と比べるとさらに低域の馬力が増し、しかし極めて安定した土台の上で炸裂する感じです。中~高域はやや暗色方向のAT618に対して、こちらは雲間から差し込んだお日様のような明るさと温かみを感じます。
パワフルなのに気品があり、安定しているのに活発で、高解像度なのに神経質にならない。もう一聴して手放せなくなり、テクニカへ電話をして譲ってもらったという次第です。既に生産完了で、現行品が手元にあるというのに、いまだレファレンスから外すことがどうしてもできません。
引用終わり
これで個人的な印象は言い尽くしました。本当に大好きなスタビライザーです。
ほか、その時に聴いたスタビライザーの中では、キャストロンの鋳鉄製スタビライザーADS730がとりわけ印象に残っています。こちらはやや暗色方向ですが、しっくりと落ち着いた響きの中に強い芯が通ったサウンドで、「見た目はちょっと取っ付きづらいけれど打ち解けると面白い人」というようなイメージです。これもいつかは購入したいと思っていたんですが、残念ながらもう販売されていないようですね。
あと、ちょっと変り種でハセヒロの「イオンデューサー」というのも面白い音でした。釉薬を一切使わない備前焼で作られたもので、上面のくぼみに水を満たしてレコードを再生すると「マイナスイオン」が発生して音質が向上するという触れ込みの製品です。
ハセヒロ イオンデューサー ¥38,000(税抜き)
私は「マイナスイオン」というヤツがよく分からないので純粋に音だけで評価しましたが、音が明るく軽くポンポンと弾け飛ぶように耳へ届き、それなりの潤いと艶やかさも聴かせるのだから面白いものです。ただし、水を満たして使うならダストカバーは使わないようにすることを薦めなければなりません。カートリッジは非常に精密な金属の集合体で、湿気には決して強くないのです。かつて私もレコードを水洗いしてしっかり乾かさずに音を聴いていたら、カートリッジを1本断線させてしまったことがありました。
ほかにもいろいろありましたが、この2機種は飛び切りの個性派ということで書き記しておきたくなりました。
さて、お次はフォノケーブルへ話題を進めましょうか。PL-70は取説もない中古品を買ったもので、フォノケーブルが交換可能(片側DINストレートタイプ)だとは長く気づかないまま使っていました。いよいよ付属ケーブルのRCAピンプラグが傷んで導通が悪くなったものですから、コレットチャックのプラグを買ってきてつけ直したりはしていましたけれど。交換可能だと分かってからは極力雑誌などで聴き比べなどの取材が獲得できるよう各誌の編集者へ働きかけ、おかげで結構な数のフォノケーブルを聴くことがかないました。
たくさんのフォノケーブルを聴いた中で、とりわけその表現力に感銘を受けたのはオーディオテクニカAT6209でした。導体は金クラッドのOFC、被覆は「ハイブラー」と「レオストマー」という絶縁性と制振性を高度に両立した高分子素材が用いられています。二重シールド構造で耐ノイズ性も非常に高度なものがあります。
オーディオテクニカ AT6209P ¥38,500(税抜き、1.5m 生産完了)
テクニカのAT6209には両端RCAと片側ストレートDIN、同L型DINの3種類があった。写真は私も愛用している片側ストレートDINの6209Pだ。なお、この写真はファイル・ウェブの取材カットより拝借した。
音はとにかくDレンジの広さが圧倒的で、大砲の大爆発とホールトーンの消え際をどちらも極めて忠実に描き出します。色づけも至って少なく、やや暗色方向ですがとにかく音源に封入された音楽の表情を克明に描き分けるのが印象的でした。
残念ながらこのケーブルは生産完了になってしまいましたが、まだリファレンスから外すことをためらっています。本当にいいケーブルでした。
生産完了品の中ではもうひとつ、ゾノトーン7NTW-7060グランディオも長く使いました。こちらは一転極めて明るい表現の方向で、使い始めはやや白っちゃけた感じもあるのですが、使っているうちにゾノトーンならではのクールな明るさに変貌していきます。両端へどこまでも伸びるワイドレンジを強調するよりも音楽の魂をわしづかみにしてリスナーへ直接届けるような、ゾノトーン総帥・前園俊彦氏ならではの音楽への"愛"が直接聴こえるようなサウンドでした。
7NTW-7060グランディオの生産完了後は6NTW-6060マイスターを借り出して使っていますが、こちらはゾノトーンの持ち味の中でもよりクール側へ振ったような感じで、両端へよく伸びた引き締まったサウンドを聴かせます。あくまで好みの問題ですが、上級の7NTW-7060グランディオよりもわが家の装置とは相性が良いのではないかと思います。
ゾノトーン 6NTW-6060 Meister ¥22,900(税抜き、1.5m 片側ストレートDINタイプ)
他に最近のフォノケーブルで良品というと、ナノテック・システムズPH-2Sを挙げておかねばならないでしょうね。こちらは同社ならではの肌当たりの柔らかさを存分に味わわせながら、細かな音をこれでもかというくらい微に入り細をうがって表現するタイプです。それでいて大編成のオケや強烈なポップス系の音源も平然と鳴らすのだから、なかなかの包容力です。
ナノテック・システムズ PH-2S ¥27,500(税抜き 1.2m)
なお、ナノテック・システムズのインターコネクト・ケーブルは、ものによってかなり柔らかい音のように思われる人がおいでかもしれません。実は同社の初期製品を私も使っていて、実際にそう思っていたのです。しかし、長年システムの核として使い続けた同社のインコネは、硬いとか柔らかいとかいう次元を超越した超ハイファイになっていました。本当にキャラクターを一切感じさせない理想的なケーブルです。ただし、そういう音が実現するまでは相当の年月が必要です。お手元に同社ケーブルがあってもうひとつしっくりきていないという人は、少し長期戦の構えで「育ててやる」ことを強く薦めます。
やれやれ、ずいぶん長々と書いてきましたが、まだアナログは書き切れていません。次回くらいで完結させられるかなぁ。
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