わがリファレンス・システム(アナログ編-その5 周辺機器) ― 2014/01/31 11:58
アナログは周辺機器が多くて、書き始めると切りがないですね。お次はターンテーブルシートへ行きましょうか。アナログプレーヤーはターンテーブルシートによってもう全く別物製品になってしまったようにその表情を変えるものです。ある意味で非常に怖いキーパーツというべき存在でしょうね。
わが家のパイオニアPL-70には、購入時から同社の名シートJP-501の同等品が付属していたようでした。故・長岡鉄男氏がたまたまプレーヤーの試聴中にパイオニアの付属シートが素晴らしいと喝破され、それをパーツで取り寄せて使い続けられていました。長岡氏はそれを雑誌でも喧伝されて大人気になってしまったものだから、パイオニアが後に単売パーツとして発売したという来歴を持つ製品です。
もっとも、PL-70に純正でJP-501が付属していたのかどうか、今となっては知る由もありません。中古購入品ですから、前オーナーが取り替えていた可能性もあるわけですしね。
先行エントリにも記しましたが、現在はオヤイデのゴムシートBR-12を使っています。ずいぶん長く付属のJP-501をそのまま使ってきました。しかし、さすがに20年も使っているとシート表面の細かな毛羽が失われてきて、音も何となくガッツに欠けてきました。JP-501後継のJP-701は今も未使用で保存してありますが、それを使ってしまえばもう後がないと、シートもいろいろと聴いてみるようにした次第です。
まず、編集者時分に池袋のビックカメラで現品限りとなっていたAT677を購入してあったので、それと取り替えてみました。JP-501がだいぶ劣化していたこともあり、ずいぶん骨格がしっかりとした立体的な音場が構築されて感激したものです。金属シートにすると音が硬くなりすぎたり特定帯域にキツさが出たりするんじゃないかと思いましたが、AT677にはその心配はないようです。その後、fo.Qから発売された制振素材のシートRS-912の穴あきの方をプラッターとAT677の間に挟み、一段と自然でS/Nの高いサウンドが楽しめるようになっていたものです。
わが家のPL-70にAT677を載せたところ。つい数年前までこれが日常的な風景だった。今でも十分以上に現役として活躍させられる素晴らしいシートだと思う。
AT677は薄いすり鉢型となっており、スタビライザーを載せてやることでレコードが僅かに凹み、反りを修正して針を通しやすくするという効果も持っています。おかげでそれまでほとんど針がまともに通らなかった反りの大きい盤の中にも数多くの愛聴盤を発見することがかないました。
AT677でほぼ満足し、それからもいろいろなシートを聴きましたがあまり食指は動きませんでした。面白いものもいろいろとあったんですがね。しかし、生産完了品を使っているのは本来ならあまり好ましいことじゃありません。まぁもっとも、そんなことをいっていたらわが家のシステムなんてほとんど失格ですけれど。
それだけに、オヤイデからAT677とよく似たMJ-12が登場した時には大いに注目しました。早速取り寄せてじっくりと音を聴いてみましたが、AT677よりも材質が柔らかいのか別の要因かは分かりませんが、いくらか優しい肌合いのサウンドと聴こえてきます。すり鉢はどうやら677より僅かに浅いようで、反りの抑制効果が少し減じますが、その分外周と内周でのアーム高の誤差が少なくなるので、トータルでは良し悪しといったところでしょう。
オヤイデ MJ-12 ¥20,000(税抜き)
ただしMJ-12は比較的滑りやすく、プラッターとの間に何らかのスリップ止めを併用した方が大幅に音質向上するのは明らかです。同社ではBR-1という1mm厚のゴム製シートを発売していますからそれを併用するもよし、わが家では前述のfo.Q・RS-912を挟んで使っていました。この組み合わせの音はかなりの水準で、広くアナログマニアへお薦めしたくなるものでした。
fo.Q RS-912 ¥8,800(税抜き)
オヤイデはMJ-12の翌年、全く同形状ながらゴム製のシートBR-12を発売します。化学的に安定性の高い合成ゴムをベースとして、比重を大幅に高めゴムのキャラクターを抑えるためにタングステンの粉末を混入した力作です。音質はゴムの落ち着きとパワー、そして金属の切れ味を重畳した感じで、盤の反りを抑える効果もMJ-12とほとんど変わりません。このシートは試作の頃から音を聴いていますが、発売されたバージョンが最もバランスの良いサウンドだったと思います。私もいっぺんに惚れ込み、JP-501以来久しぶりにゴムシートがリファレンス返り咲きとなりました。
オヤイデ BR-12 ¥6,000(税抜き)
今でも時々AT677とMJ-12は引っ張り出すことがありますが、やはりどちらも私の好みに適合する素晴らしいシートだと思います。どれをお使いになっても、キャラクターの違いこそあれ、そう大きく盤の持ち味を損なったり余分な音色を付け加えたりすることはないでしょう。安心してお薦めできるシートたちだと太鼓判を押せる製品群だと思っています。
もうひとつお薦めのシートがあります。東京防音THT-291です。でも白状するとこのシート、自宅では使ったことがないんですよ。
東京防音 THT-291 ¥7,000(税抜き)
音元出版で仕事をもらうようになって、同社の試聴室へ足繁く通うようになった頃、個人的に試聴室のレファレンス・プレーヤーはテクニクスのSL-1200シリーズを用意してもらっていました。あのプレーヤーは本当に素晴らしい完成度で、現代にゼロから開発するとなるとおそらく20万円は超えていたことでしょう。しかし、唯一にして最大の問題点がありました。ターンテーブルシートです。とにかくゴムの材質が硬く、盤とシートの密着性が悪くてどうにも音がしっくりしないのです。JP-501を取り付けてやると素晴らしい音に変貌することは、故・長岡鉄男氏の担当編集者として取材に立ち合い、SL-1200MK4の試聴をした時に痛感した体験があります。
ところが、音元出版の試聴室へ顔を出すようになった頃には既にJP-501後継のJP-701も生産完了で、用意してもらうわけにいきません。それで「何かいいシートはないか」と探して発見したのがTHT-291だったというわけです。同時比較をしたわけではないのでJP-501とどちらが優れているとはいえませんが、少なくともSL-1200MK3D~MK5あたりまでは「THT-291と組み合わせることで完成する」といっても過言ではないほどの相性の良さを聴かせてくれたものです。
ところが、SL-1200シリーズの掉尾を飾ったMK6のみは少々様相が違いました。シートの外観は全く変わりないのですが、触ってみてビックリ。THT-291そっくりの質感のゴムに変更されていたのです。試しにそのまま音を聴いてみましたが、全然問題なし。こんなにいいシートが作れるなら最初からそうしておけばよかったのに、とつくづく思いましたね。
栄光のSL-1200シリーズ・ラストモデルとなったMK6。写真ではDJ用のスリップマットが載っているが、別に付属していたオーディオ用のゴムシートが逸品だった。名器の退役を心より残念に思う。
MK6は都合2年ほどしか生産されず、栄光のSL-1200はそこで命脈が尽きてしまいました。頼みのDJ需要がデジタル化の波をモロに食らって先細りとなり、大企業としては維持できる採算が挙げられなくなってしまったのでしょうけれど、せめて生産工場をどこか他のメーカーへ移管するなどといった対応が取れなかったものか、あるいは大幅に値上げしてでも継続生産ができなかったかと、いまだに残念な思いが尽きません。
それ以来、音元出版で私が用いるレファレンス・プレーヤーはデノンやラックスマンなどいろいろ変遷しましたが、一貫してTHT-291を用意してもらっています。そうそう、連載「炭山太鼓判」でアナログを取り上げる際も必ず使っています。
それじゃ自宅でも使おうかといえば当時のリファレンスにはJP-501があったし、その後も信頼すべき製品が途切れることなく手元にあるもので、わざわざ買って使うほどでもないかと見送ったまま現在に至っています。安いものなんだから買っておけばいいんですけれどね。
ターンテーブルシートとくれば、次はスタビライザーですかね。私の絶対的リファレンスはオーディオテクニカAT6274(生産完了)です。人生で初めて買ったスタビライザーは同社AT673でした。シングル盤のアダプター越しにも使える面白いスタビライザーで、何の問題もなく愛用していたのですが、ある日安価な中古品を見つけて上級のAT618に買い替え、ほぼ満足して長く使っていました。
オーディオテクニカ AT618 ¥4,500(税抜き)
もうずいぶん前になりますが、雑誌でスタビライザーの一斉試聴を引き受けました。それはもう山ほどの製品を聴きまくったものですが、その中で頭抜けて心の琴線に触れたのがAT6274でした。「何だよ、またオーディオテクニカか」と呆れられるかもしれませんね。もちろん、長年テクニカ製のスタビライザーを使っていたからより耳へなじみやすかったということもあるでしょうけれど、それにしてもAT6274の音質は素晴らしいものがあると思います。
オーディオテクニカ AT6274 オープン価格(生産完了)
友人の運営するウェブサイトの掲示板へ書いた文章の引き写しですが、ご参照いただけると幸いです。
以下引用
それまでのレファレンスAT618と比べるとさらに低域の馬力が増し、しかし極めて安定した土台の上で炸裂する感じです。中~高域はやや暗色方向のAT618に対して、こちらは雲間から差し込んだお日様のような明るさと温かみを感じます。
パワフルなのに気品があり、安定しているのに活発で、高解像度なのに神経質にならない。もう一聴して手放せなくなり、テクニカへ電話をして譲ってもらったという次第です。既に生産完了で、現行品が手元にあるというのに、いまだレファレンスから外すことがどうしてもできません。
引用終わり
これで個人的な印象は言い尽くしました。本当に大好きなスタビライザーです。
ほか、その時に聴いたスタビライザーの中では、キャストロンの鋳鉄製スタビライザーADS730がとりわけ印象に残っています。こちらはやや暗色方向ですが、しっくりと落ち着いた響きの中に強い芯が通ったサウンドで、「見た目はちょっと取っ付きづらいけれど打ち解けると面白い人」というようなイメージです。これもいつかは購入したいと思っていたんですが、残念ながらもう販売されていないようですね。
あと、ちょっと変り種でハセヒロの「イオンデューサー」というのも面白い音でした。釉薬を一切使わない備前焼で作られたもので、上面のくぼみに水を満たしてレコードを再生すると「マイナスイオン」が発生して音質が向上するという触れ込みの製品です。
ハセヒロ イオンデューサー ¥38,000(税抜き)
私は「マイナスイオン」というヤツがよく分からないので純粋に音だけで評価しましたが、音が明るく軽くポンポンと弾け飛ぶように耳へ届き、それなりの潤いと艶やかさも聴かせるのだから面白いものです。ただし、水を満たして使うならダストカバーは使わないようにすることを薦めなければなりません。カートリッジは非常に精密な金属の集合体で、湿気には決して強くないのです。かつて私もレコードを水洗いしてしっかり乾かさずに音を聴いていたら、カートリッジを1本断線させてしまったことがありました。
ほかにもいろいろありましたが、この2機種は飛び切りの個性派ということで書き記しておきたくなりました。
さて、お次はフォノケーブルへ話題を進めましょうか。PL-70は取説もない中古品を買ったもので、フォノケーブルが交換可能(片側DINストレートタイプ)だとは長く気づかないまま使っていました。いよいよ付属ケーブルのRCAピンプラグが傷んで導通が悪くなったものですから、コレットチャックのプラグを買ってきてつけ直したりはしていましたけれど。交換可能だと分かってからは極力雑誌などで聴き比べなどの取材が獲得できるよう各誌の編集者へ働きかけ、おかげで結構な数のフォノケーブルを聴くことがかないました。
たくさんのフォノケーブルを聴いた中で、とりわけその表現力に感銘を受けたのはオーディオテクニカAT6209でした。導体は金クラッドのOFC、被覆は「ハイブラー」と「レオストマー」という絶縁性と制振性を高度に両立した高分子素材が用いられています。二重シールド構造で耐ノイズ性も非常に高度なものがあります。
オーディオテクニカ AT6209P ¥38,500(税抜き、1.5m 生産完了)
テクニカのAT6209には両端RCAと片側ストレートDIN、同L型DINの3種類があった。写真は私も愛用している片側ストレートDINの6209Pだ。なお、この写真はファイル・ウェブの取材カットより拝借した。
音はとにかくDレンジの広さが圧倒的で、大砲の大爆発とホールトーンの消え際をどちらも極めて忠実に描き出します。色づけも至って少なく、やや暗色方向ですがとにかく音源に封入された音楽の表情を克明に描き分けるのが印象的でした。
残念ながらこのケーブルは生産完了になってしまいましたが、まだリファレンスから外すことをためらっています。本当にいいケーブルでした。
生産完了品の中ではもうひとつ、ゾノトーン7NTW-7060グランディオも長く使いました。こちらは一転極めて明るい表現の方向で、使い始めはやや白っちゃけた感じもあるのですが、使っているうちにゾノトーンならではのクールな明るさに変貌していきます。両端へどこまでも伸びるワイドレンジを強調するよりも音楽の魂をわしづかみにしてリスナーへ直接届けるような、ゾノトーン総帥・前園俊彦氏ならではの音楽への"愛"が直接聴こえるようなサウンドでした。
7NTW-7060グランディオの生産完了後は6NTW-6060マイスターを借り出して使っていますが、こちらはゾノトーンの持ち味の中でもよりクール側へ振ったような感じで、両端へよく伸びた引き締まったサウンドを聴かせます。あくまで好みの問題ですが、上級の7NTW-7060グランディオよりもわが家の装置とは相性が良いのではないかと思います。
ゾノトーン 6NTW-6060 Meister ¥22,900(税抜き、1.5m 片側ストレートDINタイプ)
他に最近のフォノケーブルで良品というと、ナノテック・システムズPH-2Sを挙げておかねばならないでしょうね。こちらは同社ならではの肌当たりの柔らかさを存分に味わわせながら、細かな音をこれでもかというくらい微に入り細をうがって表現するタイプです。それでいて大編成のオケや強烈なポップス系の音源も平然と鳴らすのだから、なかなかの包容力です。
ナノテック・システムズ PH-2S ¥27,500(税抜き 1.2m)
なお、ナノテック・システムズのインターコネクト・ケーブルは、ものによってかなり柔らかい音のように思われる人がおいでかもしれません。実は同社の初期製品を私も使っていて、実際にそう思っていたのです。しかし、長年システムの核として使い続けた同社のインコネは、硬いとか柔らかいとかいう次元を超越した超ハイファイになっていました。本当にキャラクターを一切感じさせない理想的なケーブルです。ただし、そういう音が実現するまでは相当の年月が必要です。お手元に同社ケーブルがあってもうひとつしっくりきていないという人は、少し長期戦の構えで「育ててやる」ことを強く薦めます。
やれやれ、ずいぶん長々と書いてきましたが、まだアナログは書き切れていません。次回くらいで完結させられるかなぁ。
わが家のパイオニアPL-70には、購入時から同社の名シートJP-501の同等品が付属していたようでした。故・長岡鉄男氏がたまたまプレーヤーの試聴中にパイオニアの付属シートが素晴らしいと喝破され、それをパーツで取り寄せて使い続けられていました。長岡氏はそれを雑誌でも喧伝されて大人気になってしまったものだから、パイオニアが後に単売パーツとして発売したという来歴を持つ製品です。
もっとも、PL-70に純正でJP-501が付属していたのかどうか、今となっては知る由もありません。中古購入品ですから、前オーナーが取り替えていた可能性もあるわけですしね。
先行エントリにも記しましたが、現在はオヤイデのゴムシートBR-12を使っています。ずいぶん長く付属のJP-501をそのまま使ってきました。しかし、さすがに20年も使っているとシート表面の細かな毛羽が失われてきて、音も何となくガッツに欠けてきました。JP-501後継のJP-701は今も未使用で保存してありますが、それを使ってしまえばもう後がないと、シートもいろいろと聴いてみるようにした次第です。
まず、編集者時分に池袋のビックカメラで現品限りとなっていたAT677を購入してあったので、それと取り替えてみました。JP-501がだいぶ劣化していたこともあり、ずいぶん骨格がしっかりとした立体的な音場が構築されて感激したものです。金属シートにすると音が硬くなりすぎたり特定帯域にキツさが出たりするんじゃないかと思いましたが、AT677にはその心配はないようです。その後、fo.Qから発売された制振素材のシートRS-912の穴あきの方をプラッターとAT677の間に挟み、一段と自然でS/Nの高いサウンドが楽しめるようになっていたものです。
わが家のPL-70にAT677を載せたところ。つい数年前までこれが日常的な風景だった。今でも十分以上に現役として活躍させられる素晴らしいシートだと思う。
AT677は薄いすり鉢型となっており、スタビライザーを載せてやることでレコードが僅かに凹み、反りを修正して針を通しやすくするという効果も持っています。おかげでそれまでほとんど針がまともに通らなかった反りの大きい盤の中にも数多くの愛聴盤を発見することがかないました。
AT677でほぼ満足し、それからもいろいろなシートを聴きましたがあまり食指は動きませんでした。面白いものもいろいろとあったんですがね。しかし、生産完了品を使っているのは本来ならあまり好ましいことじゃありません。まぁもっとも、そんなことをいっていたらわが家のシステムなんてほとんど失格ですけれど。
それだけに、オヤイデからAT677とよく似たMJ-12が登場した時には大いに注目しました。早速取り寄せてじっくりと音を聴いてみましたが、AT677よりも材質が柔らかいのか別の要因かは分かりませんが、いくらか優しい肌合いのサウンドと聴こえてきます。すり鉢はどうやら677より僅かに浅いようで、反りの抑制効果が少し減じますが、その分外周と内周でのアーム高の誤差が少なくなるので、トータルでは良し悪しといったところでしょう。
オヤイデ MJ-12 ¥20,000(税抜き)
ただしMJ-12は比較的滑りやすく、プラッターとの間に何らかのスリップ止めを併用した方が大幅に音質向上するのは明らかです。同社ではBR-1という1mm厚のゴム製シートを発売していますからそれを併用するもよし、わが家では前述のfo.Q・RS-912を挟んで使っていました。この組み合わせの音はかなりの水準で、広くアナログマニアへお薦めしたくなるものでした。
fo.Q RS-912 ¥8,800(税抜き)
オヤイデはMJ-12の翌年、全く同形状ながらゴム製のシートBR-12を発売します。化学的に安定性の高い合成ゴムをベースとして、比重を大幅に高めゴムのキャラクターを抑えるためにタングステンの粉末を混入した力作です。音質はゴムの落ち着きとパワー、そして金属の切れ味を重畳した感じで、盤の反りを抑える効果もMJ-12とほとんど変わりません。このシートは試作の頃から音を聴いていますが、発売されたバージョンが最もバランスの良いサウンドだったと思います。私もいっぺんに惚れ込み、JP-501以来久しぶりにゴムシートがリファレンス返り咲きとなりました。
オヤイデ BR-12 ¥6,000(税抜き)
今でも時々AT677とMJ-12は引っ張り出すことがありますが、やはりどちらも私の好みに適合する素晴らしいシートだと思います。どれをお使いになっても、キャラクターの違いこそあれ、そう大きく盤の持ち味を損なったり余分な音色を付け加えたりすることはないでしょう。安心してお薦めできるシートたちだと太鼓判を押せる製品群だと思っています。
もうひとつお薦めのシートがあります。東京防音THT-291です。でも白状するとこのシート、自宅では使ったことがないんですよ。
東京防音 THT-291 ¥7,000(税抜き)
音元出版で仕事をもらうようになって、同社の試聴室へ足繁く通うようになった頃、個人的に試聴室のレファレンス・プレーヤーはテクニクスのSL-1200シリーズを用意してもらっていました。あのプレーヤーは本当に素晴らしい完成度で、現代にゼロから開発するとなるとおそらく20万円は超えていたことでしょう。しかし、唯一にして最大の問題点がありました。ターンテーブルシートです。とにかくゴムの材質が硬く、盤とシートの密着性が悪くてどうにも音がしっくりしないのです。JP-501を取り付けてやると素晴らしい音に変貌することは、故・長岡鉄男氏の担当編集者として取材に立ち合い、SL-1200MK4の試聴をした時に痛感した体験があります。
ところが、音元出版の試聴室へ顔を出すようになった頃には既にJP-501後継のJP-701も生産完了で、用意してもらうわけにいきません。それで「何かいいシートはないか」と探して発見したのがTHT-291だったというわけです。同時比較をしたわけではないのでJP-501とどちらが優れているとはいえませんが、少なくともSL-1200MK3D~MK5あたりまでは「THT-291と組み合わせることで完成する」といっても過言ではないほどの相性の良さを聴かせてくれたものです。
ところが、SL-1200シリーズの掉尾を飾ったMK6のみは少々様相が違いました。シートの外観は全く変わりないのですが、触ってみてビックリ。THT-291そっくりの質感のゴムに変更されていたのです。試しにそのまま音を聴いてみましたが、全然問題なし。こんなにいいシートが作れるなら最初からそうしておけばよかったのに、とつくづく思いましたね。
栄光のSL-1200シリーズ・ラストモデルとなったMK6。写真ではDJ用のスリップマットが載っているが、別に付属していたオーディオ用のゴムシートが逸品だった。名器の退役を心より残念に思う。
MK6は都合2年ほどしか生産されず、栄光のSL-1200はそこで命脈が尽きてしまいました。頼みのDJ需要がデジタル化の波をモロに食らって先細りとなり、大企業としては維持できる採算が挙げられなくなってしまったのでしょうけれど、せめて生産工場をどこか他のメーカーへ移管するなどといった対応が取れなかったものか、あるいは大幅に値上げしてでも継続生産ができなかったかと、いまだに残念な思いが尽きません。
それ以来、音元出版で私が用いるレファレンス・プレーヤーはデノンやラックスマンなどいろいろ変遷しましたが、一貫してTHT-291を用意してもらっています。そうそう、連載「炭山太鼓判」でアナログを取り上げる際も必ず使っています。
それじゃ自宅でも使おうかといえば当時のリファレンスにはJP-501があったし、その後も信頼すべき製品が途切れることなく手元にあるもので、わざわざ買って使うほどでもないかと見送ったまま現在に至っています。安いものなんだから買っておけばいいんですけれどね。
ターンテーブルシートとくれば、次はスタビライザーですかね。私の絶対的リファレンスはオーディオテクニカAT6274(生産完了)です。人生で初めて買ったスタビライザーは同社AT673でした。シングル盤のアダプター越しにも使える面白いスタビライザーで、何の問題もなく愛用していたのですが、ある日安価な中古品を見つけて上級のAT618に買い替え、ほぼ満足して長く使っていました。
オーディオテクニカ AT618 ¥4,500(税抜き)
もうずいぶん前になりますが、雑誌でスタビライザーの一斉試聴を引き受けました。それはもう山ほどの製品を聴きまくったものですが、その中で頭抜けて心の琴線に触れたのがAT6274でした。「何だよ、またオーディオテクニカか」と呆れられるかもしれませんね。もちろん、長年テクニカ製のスタビライザーを使っていたからより耳へなじみやすかったということもあるでしょうけれど、それにしてもAT6274の音質は素晴らしいものがあると思います。
オーディオテクニカ AT6274 オープン価格(生産完了)
友人の運営するウェブサイトの掲示板へ書いた文章の引き写しですが、ご参照いただけると幸いです。
以下引用
それまでのレファレンスAT618と比べるとさらに低域の馬力が増し、しかし極めて安定した土台の上で炸裂する感じです。中~高域はやや暗色方向のAT618に対して、こちらは雲間から差し込んだお日様のような明るさと温かみを感じます。
パワフルなのに気品があり、安定しているのに活発で、高解像度なのに神経質にならない。もう一聴して手放せなくなり、テクニカへ電話をして譲ってもらったという次第です。既に生産完了で、現行品が手元にあるというのに、いまだレファレンスから外すことがどうしてもできません。
引用終わり
これで個人的な印象は言い尽くしました。本当に大好きなスタビライザーです。
ほか、その時に聴いたスタビライザーの中では、キャストロンの鋳鉄製スタビライザーADS730がとりわけ印象に残っています。こちらはやや暗色方向ですが、しっくりと落ち着いた響きの中に強い芯が通ったサウンドで、「見た目はちょっと取っ付きづらいけれど打ち解けると面白い人」というようなイメージです。これもいつかは購入したいと思っていたんですが、残念ながらもう販売されていないようですね。
あと、ちょっと変り種でハセヒロの「イオンデューサー」というのも面白い音でした。釉薬を一切使わない備前焼で作られたもので、上面のくぼみに水を満たしてレコードを再生すると「マイナスイオン」が発生して音質が向上するという触れ込みの製品です。
ハセヒロ イオンデューサー ¥38,000(税抜き)
私は「マイナスイオン」というヤツがよく分からないので純粋に音だけで評価しましたが、音が明るく軽くポンポンと弾け飛ぶように耳へ届き、それなりの潤いと艶やかさも聴かせるのだから面白いものです。ただし、水を満たして使うならダストカバーは使わないようにすることを薦めなければなりません。カートリッジは非常に精密な金属の集合体で、湿気には決して強くないのです。かつて私もレコードを水洗いしてしっかり乾かさずに音を聴いていたら、カートリッジを1本断線させてしまったことがありました。
ほかにもいろいろありましたが、この2機種は飛び切りの個性派ということで書き記しておきたくなりました。
さて、お次はフォノケーブルへ話題を進めましょうか。PL-70は取説もない中古品を買ったもので、フォノケーブルが交換可能(片側DINストレートタイプ)だとは長く気づかないまま使っていました。いよいよ付属ケーブルのRCAピンプラグが傷んで導通が悪くなったものですから、コレットチャックのプラグを買ってきてつけ直したりはしていましたけれど。交換可能だと分かってからは極力雑誌などで聴き比べなどの取材が獲得できるよう各誌の編集者へ働きかけ、おかげで結構な数のフォノケーブルを聴くことがかないました。
たくさんのフォノケーブルを聴いた中で、とりわけその表現力に感銘を受けたのはオーディオテクニカAT6209でした。導体は金クラッドのOFC、被覆は「ハイブラー」と「レオストマー」という絶縁性と制振性を高度に両立した高分子素材が用いられています。二重シールド構造で耐ノイズ性も非常に高度なものがあります。
オーディオテクニカ AT6209P ¥38,500(税抜き、1.5m 生産完了)
テクニカのAT6209には両端RCAと片側ストレートDIN、同L型DINの3種類があった。写真は私も愛用している片側ストレートDINの6209Pだ。なお、この写真はファイル・ウェブの取材カットより拝借した。
音はとにかくDレンジの広さが圧倒的で、大砲の大爆発とホールトーンの消え際をどちらも極めて忠実に描き出します。色づけも至って少なく、やや暗色方向ですがとにかく音源に封入された音楽の表情を克明に描き分けるのが印象的でした。
残念ながらこのケーブルは生産完了になってしまいましたが、まだリファレンスから外すことをためらっています。本当にいいケーブルでした。
生産完了品の中ではもうひとつ、ゾノトーン7NTW-7060グランディオも長く使いました。こちらは一転極めて明るい表現の方向で、使い始めはやや白っちゃけた感じもあるのですが、使っているうちにゾノトーンならではのクールな明るさに変貌していきます。両端へどこまでも伸びるワイドレンジを強調するよりも音楽の魂をわしづかみにしてリスナーへ直接届けるような、ゾノトーン総帥・前園俊彦氏ならではの音楽への"愛"が直接聴こえるようなサウンドでした。
7NTW-7060グランディオの生産完了後は6NTW-6060マイスターを借り出して使っていますが、こちらはゾノトーンの持ち味の中でもよりクール側へ振ったような感じで、両端へよく伸びた引き締まったサウンドを聴かせます。あくまで好みの問題ですが、上級の7NTW-7060グランディオよりもわが家の装置とは相性が良いのではないかと思います。
ゾノトーン 6NTW-6060 Meister ¥22,900(税抜き、1.5m 片側ストレートDINタイプ)
他に最近のフォノケーブルで良品というと、ナノテック・システムズPH-2Sを挙げておかねばならないでしょうね。こちらは同社ならではの肌当たりの柔らかさを存分に味わわせながら、細かな音をこれでもかというくらい微に入り細をうがって表現するタイプです。それでいて大編成のオケや強烈なポップス系の音源も平然と鳴らすのだから、なかなかの包容力です。
ナノテック・システムズ PH-2S ¥27,500(税抜き 1.2m)
なお、ナノテック・システムズのインターコネクト・ケーブルは、ものによってかなり柔らかい音のように思われる人がおいでかもしれません。実は同社の初期製品を私も使っていて、実際にそう思っていたのです。しかし、長年システムの核として使い続けた同社のインコネは、硬いとか柔らかいとかいう次元を超越した超ハイファイになっていました。本当にキャラクターを一切感じさせない理想的なケーブルです。ただし、そういう音が実現するまでは相当の年月が必要です。お手元に同社ケーブルがあってもうひとつしっくりきていないという人は、少し長期戦の構えで「育ててやる」ことを強く薦めます。
やれやれ、ずいぶん長々と書いてきましたが、まだアナログは書き切れていません。次回くらいで完結させられるかなぁ。
わがリファレンス・システム(アナログ編-その4 愛しのAT33シリーズ) ― 2014/01/29 19:53
先のエントリで一つ重要なわがリファレンス・カートリッジを忘れていました。オーディオテクニカAT33シリーズ。1981年に発売された第1号機のAT33Eは、「ビクターMC-1の弟分というイメージもある」という故・長岡鉄男氏の激賞もあって爆発的なヒット作となり、1980年代前半の読者訪問記事「長岡鉄男のオーディオ・クリニック」などでは「持ってない人の方が珍しいんじゃないか?」と思われるほどの驚異的な普及率を見せていました。
オーディオテクニカ AT33E 1981年発売 ¥35,000(当時)
その当時、私はちょうどオーディオに興味を持ち始めた頃で、高校生にとって当時の3万5,000円はとても手の届かない大金だったことを覚えています。その頃というと「交換針が安いから」というだけでジュエルトーンMP-10J(本体¥3,900 交換針¥2,000 いずれも当時)を使っていたくらいでしたからね。ちなみにそのMP-10J、安いからといって決して見くびってはならないなかなかのサウンドを聴かせてくれてはいました。交換針のナガオカが作ったカートリッジだから、内容の割には非常に安価だったんだろうと今にして思います。
ジュエルトーン(現:ナガオカ) MP-10J 1979年発売 ¥3,900(本体、交換針¥2,000)
そんな私は大学に入ってもそうそうバイト代で懐が潤っていたことなぞありもせず、やはり3万5,000円は高嶺の花でした。大学入学後、最初に買ったのは同社のAT27E(¥11,000)だったなぁ。
ようやく一念発起してAT33Eを買いに行ったら既に生産完了で、後継のAT33MLが店頭に並んでいました。3万8,000円と少し価格が上がり、値引き率も渋くなっていましたが、針先の長持ちする「マイクロリニア針」が装着されたということで自分を納得させ、ドキドキしながら購入したことを覚えています。1986年頃だったかなぁ。
久しぶりに引っ張り出したAT33ML。普段はシェル不足で仕舞い込んでいたが、余っていたAT-LH18に取り付けて撮影した。そういう次第で本調子ではないものの、音を聴いてみるとやはりなかなか聴かせるものを持っている。
初めて音を聴いたAT33MLには驚きました。もうAT27Eなんてまるで及びもつかぬ高解像度と駆け上がる切れ味、ハイスピード&パワフルに音楽を明るく楽しく歌い上げる、という表現は、それまで自分では結構積み上げていたつもりだったオーディオ観そのものを覆してしまうに十分なものでした。前述したガチガチ改造プレーヤーがまだ生きていて、割合にプレーヤーがしっかりしていたのも33MLの実力が理解できた要因ではあるのでしょうね。
それ以来、バイトで給料が出てはいろいろなカートリッジ(主に中古品でしたが)へ浮気を繰り返しましたが、解像度や切れ味に関してはビクターMC-L10(これも中古)が圧倒したくらいで、ありったけの音楽情報を放り出してアッケラカンと床に散りばめたような、ややチープながらワクワクするような楽しさは33MLにかなうものがありませんでした。
その後結構たくさんのカートリッジを入手し、いろいろと取り替えて使っていたこともあり、33MLはずいぶん長持ちしてくれました。何と今でも全然問題なく鳴ってくれるのです。「針先が減りにくい」というマイクロリニア針の宣伝文句に嘘はなかった、と断言してもいいんじゃないでしょうか。
その後、33にはいろいろな限定バージョンが出ました。1994年のAT33LTD(¥38,000 税抜き、AT33シリーズ33周年記念!)と95年のAT33VTG(¥40,000 税抜き)くらいはすぐに思い出せますね。ところがこの2モデル、私は既にこの業界へ潜り込んでいましたから音を聴く機会がありましたが、わが愛しのAT33MLとはまるで別物のサウンドで、厚みがあって高品位な音ではあるのですが、音楽をウキウキとスキップしながら奏でるような楽しさが影を潜め、重厚で密度の高い音楽を再現するようになっていました。例えるならイタリアとドイツのオケが同じ曲を演奏しているようなイメージです。大変優れたカートリッジであることはよく理解できましたが、買い替える気にはなりませんでした。
オーディオテクニカ AT33LTD 1994年発売 ¥38,000(税抜き)
次に登場したのは限定モデルではなく、レギュラーの追加モデルでした。1997年発売のAT33PTG(¥40,000 税抜き)です。ちなみにMLはコイルがLC-OFC巻き線からPC-OCCに変わり、それからもずいぶん長く継続生産されていました。PC-OCCになってからは聴いたことがないんですが、音は変わっていなかったんでしょうかねぇ。
こちらもしばらくぶりのAT33PTGとなる。PTG/IIよりもよりMLに近い切れ味と爆発力を持ち、それでいてどっしりとした落ち着きも感じさせるなかなかの逸品だった。PTG/IIはその切れ味方向をOC9/IIIに任せることで、より音楽を楽しく聴かせる方向へ進化することができたというべきであろう。
さて、AT33PTGは故・長岡鉄男氏が年間ベスト企画の「ダイナミック大賞」で激賞され、当時は既に私が氏の担当編集者を務めていたもので、断然興味を引かれることとなりました。急ぎ入手してMLと音を聴き比べてみると、う~む、例の音楽の楽しさ、子猫が毛糸玉にじゃれ付いているような、ある種乱雑なまでの情報量の提示はありません。その代わりLTDやVTGに際立っていた品位の高さや落ち着きをこのPTGも備え、それでいながら積極的に音楽を表現し、日本刀の切れ味から炸裂する大太鼓まで存分に描き上げるスケールの大きさを感じさせました。
この頃にはもう私も少しずつライターとして仕事を始めていたので、自分のリファレンスをある程度しっかりさせておく必要が出てきていました。そこで新製品ということもあり、カートリッジはAT33PTGをわが基準と定めることにしました。
などと格好のいいことを言っていますが、ライター活動を開始した最初の頃は古い古いサンスイのプリメインAU-D707を核に、NECのCDプレーヤーCD-10(名器!)と前述のPL-70、そしてテクニクスの10cmフルレンジEAS-10F20をダブルバスレフのキャビネットへ収めた自作スピーカーという、何ともトホホなシステムでの活動ではありました。部屋も6畳1間のアパートでしたしね。
以来、システムも部屋もずいぶん変わりましたが、わがリファレンスの一角へAT33PTGは常に居続けています。2010年にAT33PTGはAT33PTG/II(¥58,000 税抜き)へとモデルチェンジを遂げました。こちらはまず試聴仕事で初対面となりましたが、おやおやずいぶん音の傾向が違っています。PTG/IIに1年先立ってほぼ同価格帯で発売されたAT-OC9/III(¥62,500 税抜き)が極めつけの切れ味とスピード感を聴かせる分、少し33は傾向を違えてきたのだなと直感しました。33らしい「音楽の楽しさ」をむしろ前面に引き出し、良い意味でより万能型万人向きに仕立て直したような感じのサウンドです。
こちらが現在のわが家リファレンスにおける"日常"、AT33PTG/IIだ。旧PTGに比べると底面のゴールドがシルバーになったのが外観上の最大の違いとなる。音はエントリに書いた通り。まさに「日常をともに過ごす相棒」として、個人的にはほぼ理想なのではないかと感じている。
わが家のレコードはいわゆる「優秀録音盤」が多数を占めているわけでは決してなく、むしろ録音など二の次で「聴きたい音楽」本位に買い進めているものですから、かなりトホホなサウンドの盤がプラッターに乗ることも決して珍しくありません。そういう時にOC9/IIIやMC-L10などのカートリッジは「悪い音は悪いまま」表現してしまうので、とても耳障りなことになりかねません。
オーソドックスなハイファイとはまさにそれが正解で、ソフト側も良い音を極力目指すのが正解だということは分かっていますが、私のような"雑食派"はそうもいっていられません。そういう時に今度のAT33PTG/IIは音の粗を適度にいなし、音楽の旨味を上手く表現してくれます。しかも、しっかりした録音の盤はその持ち味もちゃんと表現するのですから、非常に懐の深いカートリッジということがいえると思うのです。
というわけで、仕事中以外のPL-70にはAT33PTG/IIが取り付けられていることが多くなりました。やっぱり私は33シリーズと"縁が深い"のでしょうね。これからもわがメイン・リファレンスの1本として、長く働いてもらおうと思っています。
オーディオテクニカ AT33E 1981年発売 ¥35,000(当時)
その当時、私はちょうどオーディオに興味を持ち始めた頃で、高校生にとって当時の3万5,000円はとても手の届かない大金だったことを覚えています。その頃というと「交換針が安いから」というだけでジュエルトーンMP-10J(本体¥3,900 交換針¥2,000 いずれも当時)を使っていたくらいでしたからね。ちなみにそのMP-10J、安いからといって決して見くびってはならないなかなかのサウンドを聴かせてくれてはいました。交換針のナガオカが作ったカートリッジだから、内容の割には非常に安価だったんだろうと今にして思います。
ジュエルトーン(現:ナガオカ) MP-10J 1979年発売 ¥3,900(本体、交換針¥2,000)
そんな私は大学に入ってもそうそうバイト代で懐が潤っていたことなぞありもせず、やはり3万5,000円は高嶺の花でした。大学入学後、最初に買ったのは同社のAT27E(¥11,000)だったなぁ。
ようやく一念発起してAT33Eを買いに行ったら既に生産完了で、後継のAT33MLが店頭に並んでいました。3万8,000円と少し価格が上がり、値引き率も渋くなっていましたが、針先の長持ちする「マイクロリニア針」が装着されたということで自分を納得させ、ドキドキしながら購入したことを覚えています。1986年頃だったかなぁ。
久しぶりに引っ張り出したAT33ML。普段はシェル不足で仕舞い込んでいたが、余っていたAT-LH18に取り付けて撮影した。そういう次第で本調子ではないものの、音を聴いてみるとやはりなかなか聴かせるものを持っている。
初めて音を聴いたAT33MLには驚きました。もうAT27Eなんてまるで及びもつかぬ高解像度と駆け上がる切れ味、ハイスピード&パワフルに音楽を明るく楽しく歌い上げる、という表現は、それまで自分では結構積み上げていたつもりだったオーディオ観そのものを覆してしまうに十分なものでした。前述したガチガチ改造プレーヤーがまだ生きていて、割合にプレーヤーがしっかりしていたのも33MLの実力が理解できた要因ではあるのでしょうね。
それ以来、バイトで給料が出てはいろいろなカートリッジ(主に中古品でしたが)へ浮気を繰り返しましたが、解像度や切れ味に関してはビクターMC-L10(これも中古)が圧倒したくらいで、ありったけの音楽情報を放り出してアッケラカンと床に散りばめたような、ややチープながらワクワクするような楽しさは33MLにかなうものがありませんでした。
その後結構たくさんのカートリッジを入手し、いろいろと取り替えて使っていたこともあり、33MLはずいぶん長持ちしてくれました。何と今でも全然問題なく鳴ってくれるのです。「針先が減りにくい」というマイクロリニア針の宣伝文句に嘘はなかった、と断言してもいいんじゃないでしょうか。
その後、33にはいろいろな限定バージョンが出ました。1994年のAT33LTD(¥38,000 税抜き、AT33シリーズ33周年記念!)と95年のAT33VTG(¥40,000 税抜き)くらいはすぐに思い出せますね。ところがこの2モデル、私は既にこの業界へ潜り込んでいましたから音を聴く機会がありましたが、わが愛しのAT33MLとはまるで別物のサウンドで、厚みがあって高品位な音ではあるのですが、音楽をウキウキとスキップしながら奏でるような楽しさが影を潜め、重厚で密度の高い音楽を再現するようになっていました。例えるならイタリアとドイツのオケが同じ曲を演奏しているようなイメージです。大変優れたカートリッジであることはよく理解できましたが、買い替える気にはなりませんでした。
オーディオテクニカ AT33LTD 1994年発売 ¥38,000(税抜き)
次に登場したのは限定モデルではなく、レギュラーの追加モデルでした。1997年発売のAT33PTG(¥40,000 税抜き)です。ちなみにMLはコイルがLC-OFC巻き線からPC-OCCに変わり、それからもずいぶん長く継続生産されていました。PC-OCCになってからは聴いたことがないんですが、音は変わっていなかったんでしょうかねぇ。
こちらもしばらくぶりのAT33PTGとなる。PTG/IIよりもよりMLに近い切れ味と爆発力を持ち、それでいてどっしりとした落ち着きも感じさせるなかなかの逸品だった。PTG/IIはその切れ味方向をOC9/IIIに任せることで、より音楽を楽しく聴かせる方向へ進化することができたというべきであろう。
さて、AT33PTGは故・長岡鉄男氏が年間ベスト企画の「ダイナミック大賞」で激賞され、当時は既に私が氏の担当編集者を務めていたもので、断然興味を引かれることとなりました。急ぎ入手してMLと音を聴き比べてみると、う~む、例の音楽の楽しさ、子猫が毛糸玉にじゃれ付いているような、ある種乱雑なまでの情報量の提示はありません。その代わりLTDやVTGに際立っていた品位の高さや落ち着きをこのPTGも備え、それでいながら積極的に音楽を表現し、日本刀の切れ味から炸裂する大太鼓まで存分に描き上げるスケールの大きさを感じさせました。
この頃にはもう私も少しずつライターとして仕事を始めていたので、自分のリファレンスをある程度しっかりさせておく必要が出てきていました。そこで新製品ということもあり、カートリッジはAT33PTGをわが基準と定めることにしました。
などと格好のいいことを言っていますが、ライター活動を開始した最初の頃は古い古いサンスイのプリメインAU-D707を核に、NECのCDプレーヤーCD-10(名器!)と前述のPL-70、そしてテクニクスの10cmフルレンジEAS-10F20をダブルバスレフのキャビネットへ収めた自作スピーカーという、何ともトホホなシステムでの活動ではありました。部屋も6畳1間のアパートでしたしね。
以来、システムも部屋もずいぶん変わりましたが、わがリファレンスの一角へAT33PTGは常に居続けています。2010年にAT33PTGはAT33PTG/II(¥58,000 税抜き)へとモデルチェンジを遂げました。こちらはまず試聴仕事で初対面となりましたが、おやおやずいぶん音の傾向が違っています。PTG/IIに1年先立ってほぼ同価格帯で発売されたAT-OC9/III(¥62,500 税抜き)が極めつけの切れ味とスピード感を聴かせる分、少し33は傾向を違えてきたのだなと直感しました。33らしい「音楽の楽しさ」をむしろ前面に引き出し、良い意味でより万能型万人向きに仕立て直したような感じのサウンドです。
こちらが現在のわが家リファレンスにおける"日常"、AT33PTG/IIだ。旧PTGに比べると底面のゴールドがシルバーになったのが外観上の最大の違いとなる。音はエントリに書いた通り。まさに「日常をともに過ごす相棒」として、個人的にはほぼ理想なのではないかと感じている。
わが家のレコードはいわゆる「優秀録音盤」が多数を占めているわけでは決してなく、むしろ録音など二の次で「聴きたい音楽」本位に買い進めているものですから、かなりトホホなサウンドの盤がプラッターに乗ることも決して珍しくありません。そういう時にOC9/IIIやMC-L10などのカートリッジは「悪い音は悪いまま」表現してしまうので、とても耳障りなことになりかねません。
オーソドックスなハイファイとはまさにそれが正解で、ソフト側も良い音を極力目指すのが正解だということは分かっていますが、私のような"雑食派"はそうもいっていられません。そういう時に今度のAT33PTG/IIは音の粗を適度にいなし、音楽の旨味を上手く表現してくれます。しかも、しっかりした録音の盤はその持ち味もちゃんと表現するのですから、非常に懐の深いカートリッジということがいえると思うのです。
というわけで、仕事中以外のPL-70にはAT33PTG/IIが取り付けられていることが多くなりました。やっぱり私は33シリーズと"縁が深い"のでしょうね。これからもわがメイン・リファレンスの1本として、長く働いてもらおうと思っています。
わがリファレンス・システム(アナログ編-その3 カートリッジ周辺) ― 2014/01/29 00:00
アナログ関連のエントリを続けます。プレーヤーは2回のエントリで詳述したパイオニアPL-70でここ25年間不変ですが、カートリッジやターンテーブルシート、スタビライザー、フォノケーブルといった周辺機器・アクセサリー類はたびたび変わっています。
カートリッジはメインのリファレンス機が4機種。MMタイプはオーディオテクニカAT150MLXを長年愛用しています。これはフォノイコのMMポジションを試聴する際に加え、適正針圧が0.75~1.75g(1.25g標準)という昨今珍しくなったローマス/ハイコンプライアンス型なので、そちら方面の代表としても活躍を願っています。
オーディオテクニカ AT150MLX ¥35,000(税抜き)
MCのハイインピーダンス型はおなじみデノンDL-103です。これはもう定番中の定番ですし、いまさら紹介するまでもありませんね。日本初のステレオMCカートリッジにしてNHK-FMの音の要ともなった名器中の名器です。ずいぶん長く使った103が先年ついに針先の寿命を迎え、ただいま針交換後の新しい個体を慣らし運転中です。
デノン DL-103 ¥35,000(税抜き)
MCのミドルインピーダンス・タイプはオーディオテクニカAT-OC9/IIIを愛用しています。このワイドレンジと解像度、そして最高域まで鋭く切れ上がる持ち味はとても6万円台とは思えません。決して万能型万人向けというわけではありませんが、故・長岡鉄男氏が推奨された「A級外盤」などを楽しむにはうってつけのカートリッジだと思います。
オーディオテクニカ AT-OC9/III ¥62,500(税抜き)
MCローはこちらもご存じオルトフォンSPUです。世界初のステレオカートリッジにしてまだ生産が続く驚異のロングセラーですが、現代カートリッジでこういう味わいを持つ製品はほとんどなく、まさに余人をもって代え難いカートリッジというべきでしょうね。ベースモデルのクラシックIIは適正針圧が4gと重いので、こちらはハイマス/ローコンプライアンス型の代表としても活用しています。
オルトフォン SPUクラシックG MkII ¥78,000(税抜き)
ただし、私の愛用するSPUは重いGシェルを脱ぎ捨て、オーディオ工房のハヤシ・ラボが製作・販売するアダプターを介して一般シェルに取り付けています。これをやると「あのSPUが!!」と驚くくらいハイスピードで現代的なサウンドになるんですよ。最近になって神奈川県は湘南台のオーディオショップ「でんき堂スクェア湘南」でも、同じように使えるアダプターを売り出しましたね。
ハヤシ・ラボのSPUアダプター(写真右 ¥15,000)。左はアナログ全盛期に商品化されていたオーディオクラフトのSPUアダプターOF-3a(¥5,000 当時)。
実はハヤシ・ラボのアダプターとでんき堂スクェア湘南のものは、全く構造が違います。後者はかつてオーディオクラフトが発売していたアダプターとほぼ同形状で、天面に大きなアルニコマグネットが突き出しているSPU本体の形状に合わせてくぼみを作り、前方へ向けて僅かに傾けたものですが、前者はアルニコマグネットを左右からネジで締め付け、より振動の基点を明確化しようという設計の方針を見て取ることができます。
でんき堂スクェア湘南謹製のSPU"ネイキッド"アダプター(¥5,000 税抜き)。往年のオーディオクラフトとほぼ同じ構成で、価格まで揃えてきているのがニクい。
両者の価格はだいぶ違いますが、こういう構造の違いと製造の難しさがそのまま価格差になっていると見て間違いないでしょう。両方とも実際に使ってみましたが、確かにそれなりの音質差はあります。前者がよりがっちりと音像が決まり、音場も広大に広がります。後者は前者に比べるとやや緩い感じですね。しかし、でんき堂スクェア湘南のアダプターが使えないということでは全然ありませんから、ご予算と音の好みで選ばれるのもよいと思います。
ちなみに、SPUの本体を外す際にはシェルリードを絶対ねじってはいけません。必ずまっすぐ引き抜くようにしましょう。ねじり方向の力が加わるとSPUの内部配線は非常に断線しやすいのだそうです。以上、オルトフォンジャパン坂田清史さんのお話からでした。
ほかにもカートリッジは購入品と貸与品を含めて結構な数を持っています。オーディオアクセサリー誌で連載しているハイCP機を中心とした「炭山太鼓判」でレファレンス・カートリッジの1本としていたオルトフォンMC-09Aは残念ながら生産完了になっちゃいましたが、2万円と少しで購入できる超廉価MCカートリッジながら結構MCらしさ、オルトフォンらしさを聴かせる逸品でした。次にMCカートリッジを取り上げる時には、同社の新しいMC-Qシリーズで初加入した末弟MC-Q5を使うことになると思います。これも3万円を切っているから相当のハイCPといって間違いありません。
オルトフォン MC-Q5 ¥29,000(税抜き 1月末発売)
大昔に購入していまだ実働状態にあるカートリッジの中で、面白いものといったら断然ビクターMC-L10ですね。学生時分に必死のバイトで購入したL10は、友人と大酒を飲みながら音楽を聴いていたと思ったら、翌朝針先が消失していることに気づいてしばらく立ち直れなかったものでした。その後、20世紀の終わり頃に突然オーディオユニオンから放出品が出たという情報をキャッチ、慌ててお茶の水へ走りゲットしたのが現用の個体です。
わが家のMC-L10。ゾノトーンのヘッドシェルに取り付け、シェルリードは在野のアナログ職人モスビンさんがMC-L10専用に作って下さった特製品を使っている。このリードへ交換した時にはあまりの解像度と抜けの良さ、爆発的な力感に肝をつぶした。すごいノウハウと耳をお持ちの人である。
L10の後継にして長岡氏が長くリファレンスとして使い続けられたMC-L1000も手元に1個あるのですが、残念ながら片ch断線してしまっています。どこかにこれが修理できる業者さんはおられないものですかねぇ。
あと面白い変り種カートリッジといえばソニーXL-MC3が挙げられるかな。独自の「8の字コイル」で空芯MCながら結構な出力電圧を確保していて、ソニーらしい肌合いの優しい表現の中にかなりしっかりした1本の芯を持つ、なかなかの力作だったと思います。わが家では現在もそういう音を存分に楽しませてくれています。
ソニーXL-MC3はテクニカのAT-LT13aシェルに取り付けている。シェルリードは直出しで、リード込みで3gしかないという驚異的な軽量カートリッジだった。軽量シェルに取り付けるとバランスしないアームも多いのではないか。
ヘッドシェルは長年オーディオテクニカのAT-LHシリーズを愛用しています。特にAT-LH13occは結構たくさんのカートリッジに使っているなぁ。ご存じの人も多いかと思いますがAT-LHには13、15、18の3種類あって、それぞれ自重を表しています。LH15を標準とすると、LH13はブレード部が短く、LH18はコネクター部がアルミ合金からステンレスに変更されています。
オーディオテクニカ AT-LH13occ ¥6,200(税抜き)
それぞれに音質的な持ち味はあるのですが、概して重い方が低域の馬力と重量感が出て、軽い方が俊敏で切れ味鋭い音になる傾向です。カートリッジによって相性が出てくると思いますが、私はどちらかというと俊敏な音を好むのでしょうね、LH13を使いたくなることが多いように思います。それに対して、LH18は若い頃にその馬力感が気に入って大いに愛好したものですが、昨今はめっきり起用することが減りました。わが家では慢性的にヘッドシェル不足なんですが、それでも何本か遊んでますからね。
シェルリードはまずリファレンスとしてオーディオテクニカAT6101を挙げねばなりません。とにかくこれほど安価で音のしっかりしたリード線もないものですからね。ただし、それでは本当の高音質には不足していることも重々承知しています。これまでまぁ数え切れないくらいのシェルリードを体験してきましたが、絶対的なナンバー1を挙げろといわれると困惑してしまいます。それぞれにあまりにもキャラクターが違い、同じ土俵で点数をつけるのが困難なのです。
思い出すままにキャラクターを記しておきましょうか。まずAT6101(¥1,000 税抜き)は中~高域が自然で伸びやかですがやや低域不足、いくらか素っ気ない感じもあります。同社AT6106(¥4,800 税抜き)はワイドレンジで分厚く実体感と色彩感が豊か、しかしどことなく自然の色味というよりカラーテレビの色を見ているようなイメージがあります。ZYXシェルリード・ワイヤー(¥4,800 税抜き)は極めて色づけ少なくストレートな高解像度ですが、若干淡彩に感じる部分があります。ゾノトーン8NLW-8000プレステージ(¥7,600 税抜き)は肉太で抜けが良く鮮やかな表現が魅力ですが、ちょっと高域方向へキラッと輝くところがあってカートリッジを選びます。オーグライン「クラシック」(¥11,000)は輝かしい音楽成分が耳へ猛烈に押し寄せ、さながら黄金の大洪水といったイメージ、同「ボーカル」(同)はすっきりと伸びたバランスが声を凛と際立たせます。
まだまだありますが、今回はこんなところで。とまぁ書いてきた通りのイメージなもので、「どれを本命にするんだ!?」といわれると困惑してしまう、というわけです。といってカートリッジとの相性をスクランブルテスト的にチェックするのも大変だし、ということで、基本はAT6101に置きつつ、いろいろなリードをカートリッジごとにある程度使い分けているというのが正直なところです。なお、シェルリードの画像は省略させてもらいました。
アナログについて書き始めると、ホント止まらなくなっちゃいますね。いったんここでエントリを分けたいと思います。
カートリッジはメインのリファレンス機が4機種。MMタイプはオーディオテクニカAT150MLXを長年愛用しています。これはフォノイコのMMポジションを試聴する際に加え、適正針圧が0.75~1.75g(1.25g標準)という昨今珍しくなったローマス/ハイコンプライアンス型なので、そちら方面の代表としても活躍を願っています。
オーディオテクニカ AT150MLX ¥35,000(税抜き)
MCのハイインピーダンス型はおなじみデノンDL-103です。これはもう定番中の定番ですし、いまさら紹介するまでもありませんね。日本初のステレオMCカートリッジにしてNHK-FMの音の要ともなった名器中の名器です。ずいぶん長く使った103が先年ついに針先の寿命を迎え、ただいま針交換後の新しい個体を慣らし運転中です。
デノン DL-103 ¥35,000(税抜き)
MCのミドルインピーダンス・タイプはオーディオテクニカAT-OC9/IIIを愛用しています。このワイドレンジと解像度、そして最高域まで鋭く切れ上がる持ち味はとても6万円台とは思えません。決して万能型万人向けというわけではありませんが、故・長岡鉄男氏が推奨された「A級外盤」などを楽しむにはうってつけのカートリッジだと思います。
オーディオテクニカ AT-OC9/III ¥62,500(税抜き)
MCローはこちらもご存じオルトフォンSPUです。世界初のステレオカートリッジにしてまだ生産が続く驚異のロングセラーですが、現代カートリッジでこういう味わいを持つ製品はほとんどなく、まさに余人をもって代え難いカートリッジというべきでしょうね。ベースモデルのクラシックIIは適正針圧が4gと重いので、こちらはハイマス/ローコンプライアンス型の代表としても活用しています。
オルトフォン SPUクラシックG MkII ¥78,000(税抜き)
ただし、私の愛用するSPUは重いGシェルを脱ぎ捨て、オーディオ工房のハヤシ・ラボが製作・販売するアダプターを介して一般シェルに取り付けています。これをやると「あのSPUが!!」と驚くくらいハイスピードで現代的なサウンドになるんですよ。最近になって神奈川県は湘南台のオーディオショップ「でんき堂スクェア湘南」でも、同じように使えるアダプターを売り出しましたね。
ハヤシ・ラボのSPUアダプター(写真右 ¥15,000)。左はアナログ全盛期に商品化されていたオーディオクラフトのSPUアダプターOF-3a(¥5,000 当時)。
実はハヤシ・ラボのアダプターとでんき堂スクェア湘南のものは、全く構造が違います。後者はかつてオーディオクラフトが発売していたアダプターとほぼ同形状で、天面に大きなアルニコマグネットが突き出しているSPU本体の形状に合わせてくぼみを作り、前方へ向けて僅かに傾けたものですが、前者はアルニコマグネットを左右からネジで締め付け、より振動の基点を明確化しようという設計の方針を見て取ることができます。
でんき堂スクェア湘南謹製のSPU"ネイキッド"アダプター(¥5,000 税抜き)。往年のオーディオクラフトとほぼ同じ構成で、価格まで揃えてきているのがニクい。
両者の価格はだいぶ違いますが、こういう構造の違いと製造の難しさがそのまま価格差になっていると見て間違いないでしょう。両方とも実際に使ってみましたが、確かにそれなりの音質差はあります。前者がよりがっちりと音像が決まり、音場も広大に広がります。後者は前者に比べるとやや緩い感じですね。しかし、でんき堂スクェア湘南のアダプターが使えないということでは全然ありませんから、ご予算と音の好みで選ばれるのもよいと思います。
ちなみに、SPUの本体を外す際にはシェルリードを絶対ねじってはいけません。必ずまっすぐ引き抜くようにしましょう。ねじり方向の力が加わるとSPUの内部配線は非常に断線しやすいのだそうです。以上、オルトフォンジャパン坂田清史さんのお話からでした。
ほかにもカートリッジは購入品と貸与品を含めて結構な数を持っています。オーディオアクセサリー誌で連載しているハイCP機を中心とした「炭山太鼓判」でレファレンス・カートリッジの1本としていたオルトフォンMC-09Aは残念ながら生産完了になっちゃいましたが、2万円と少しで購入できる超廉価MCカートリッジながら結構MCらしさ、オルトフォンらしさを聴かせる逸品でした。次にMCカートリッジを取り上げる時には、同社の新しいMC-Qシリーズで初加入した末弟MC-Q5を使うことになると思います。これも3万円を切っているから相当のハイCPといって間違いありません。
オルトフォン MC-Q5 ¥29,000(税抜き 1月末発売)
大昔に購入していまだ実働状態にあるカートリッジの中で、面白いものといったら断然ビクターMC-L10ですね。学生時分に必死のバイトで購入したL10は、友人と大酒を飲みながら音楽を聴いていたと思ったら、翌朝針先が消失していることに気づいてしばらく立ち直れなかったものでした。その後、20世紀の終わり頃に突然オーディオユニオンから放出品が出たという情報をキャッチ、慌ててお茶の水へ走りゲットしたのが現用の個体です。
わが家のMC-L10。ゾノトーンのヘッドシェルに取り付け、シェルリードは在野のアナログ職人モスビンさんがMC-L10専用に作って下さった特製品を使っている。このリードへ交換した時にはあまりの解像度と抜けの良さ、爆発的な力感に肝をつぶした。すごいノウハウと耳をお持ちの人である。
L10の後継にして長岡氏が長くリファレンスとして使い続けられたMC-L1000も手元に1個あるのですが、残念ながら片ch断線してしまっています。どこかにこれが修理できる業者さんはおられないものですかねぇ。
あと面白い変り種カートリッジといえばソニーXL-MC3が挙げられるかな。独自の「8の字コイル」で空芯MCながら結構な出力電圧を確保していて、ソニーらしい肌合いの優しい表現の中にかなりしっかりした1本の芯を持つ、なかなかの力作だったと思います。わが家では現在もそういう音を存分に楽しませてくれています。
ソニーXL-MC3はテクニカのAT-LT13aシェルに取り付けている。シェルリードは直出しで、リード込みで3gしかないという驚異的な軽量カートリッジだった。軽量シェルに取り付けるとバランスしないアームも多いのではないか。
ヘッドシェルは長年オーディオテクニカのAT-LHシリーズを愛用しています。特にAT-LH13occは結構たくさんのカートリッジに使っているなぁ。ご存じの人も多いかと思いますがAT-LHには13、15、18の3種類あって、それぞれ自重を表しています。LH15を標準とすると、LH13はブレード部が短く、LH18はコネクター部がアルミ合金からステンレスに変更されています。
オーディオテクニカ AT-LH13occ ¥6,200(税抜き)
それぞれに音質的な持ち味はあるのですが、概して重い方が低域の馬力と重量感が出て、軽い方が俊敏で切れ味鋭い音になる傾向です。カートリッジによって相性が出てくると思いますが、私はどちらかというと俊敏な音を好むのでしょうね、LH13を使いたくなることが多いように思います。それに対して、LH18は若い頃にその馬力感が気に入って大いに愛好したものですが、昨今はめっきり起用することが減りました。わが家では慢性的にヘッドシェル不足なんですが、それでも何本か遊んでますからね。
シェルリードはまずリファレンスとしてオーディオテクニカAT6101を挙げねばなりません。とにかくこれほど安価で音のしっかりしたリード線もないものですからね。ただし、それでは本当の高音質には不足していることも重々承知しています。これまでまぁ数え切れないくらいのシェルリードを体験してきましたが、絶対的なナンバー1を挙げろといわれると困惑してしまいます。それぞれにあまりにもキャラクターが違い、同じ土俵で点数をつけるのが困難なのです。
思い出すままにキャラクターを記しておきましょうか。まずAT6101(¥1,000 税抜き)は中~高域が自然で伸びやかですがやや低域不足、いくらか素っ気ない感じもあります。同社AT6106(¥4,800 税抜き)はワイドレンジで分厚く実体感と色彩感が豊か、しかしどことなく自然の色味というよりカラーテレビの色を見ているようなイメージがあります。ZYXシェルリード・ワイヤー(¥4,800 税抜き)は極めて色づけ少なくストレートな高解像度ですが、若干淡彩に感じる部分があります。ゾノトーン8NLW-8000プレステージ(¥7,600 税抜き)は肉太で抜けが良く鮮やかな表現が魅力ですが、ちょっと高域方向へキラッと輝くところがあってカートリッジを選びます。オーグライン「クラシック」(¥11,000)は輝かしい音楽成分が耳へ猛烈に押し寄せ、さながら黄金の大洪水といったイメージ、同「ボーカル」(同)はすっきりと伸びたバランスが声を凛と際立たせます。
まだまだありますが、今回はこんなところで。とまぁ書いてきた通りのイメージなもので、「どれを本命にするんだ!?」といわれると困惑してしまう、というわけです。といってカートリッジとの相性をスクランブルテスト的にチェックするのも大変だし、ということで、基本はAT6101に置きつつ、いろいろなリードをカートリッジごとにある程度使い分けているというのが正直なところです。なお、シェルリードの画像は省略させてもらいました。
アナログについて書き始めると、ホント止まらなくなっちゃいますね。いったんここでエントリを分けたいと思います。
わがリファレンス・システム(アナログ編-その2 プレーヤーを修理する) ― 2014/01/27 11:24
2011年ごろからリファレンス・システムのアナログがめっきり調子を落とし、実用に耐えなくなってきました。レコードの外周は何も問題ないのですが、内周へ近づくに連れ歪みが劇的に増加し、聴くに堪えなくなってしまったのです。もともとアナログは多かれ少なかれ内周は音質が劣化するものですが、とてもそういうレベルではありません。これは明らかにどこかが故障している、という音です。
さぁそこから故障箇所の特定までが大変でした。まずカートリッジを交換してダメ、シェルリードを交換してダメ、シェルを交換してダメ、フォノケーブルを交換してダメ、とここまでは交換した製品の調子は全く問題なしでした。
ならばフォノイコライザーか、とプリアンプのパイオニアC-AX10を修理に出し、その間にいろいろなメーカーのフォノイコを借りました。それぞれに魅力的な音を聴かせてくれるのですが、やはり音の傾向は違うといえ、内周のひどい歪みはいくらか軽減したかな、といった具合です。C-AX10もいくらか劣化は進行していたようですが、主因というわけではなかったようですね。
ならばと片っ端から接点という接点を磨きまくってみましたが、音質は大きく向上したものの内周の歪みは「いくらか良くなったかな」という程度。仕舞いにはパワーアンプからスピーカーまで交換してみましたが、やっぱり大きな向上は見込めず。
そもそもわが家のリファレンス機器で最も古いのがアナログプレーヤーで、そこが問題じゃないかとは薄々感づいていました。しかし、30年以上も前の製品をメーカーへ送って修理ということはほぼ不可能だろうと、どこか心の片隅で「見ないように」していた感が否めません。しかし、ここまで明白に事実関係を突きつけられてしまうと、もう認めないわけにいきません。散々苦労したアナログの音質劣化は、アナログプレーヤーの不調が原因だったのです。
何度も書きますがわが家はひどい貧乏暮らしで、アナログプレーヤーが故障しました、それじゃ新しい製品に買い替えましょうか、とは簡単にいきません。特に現代のプレーヤーでPL-70と同クラスの音質を目指そうと思ったら、どう甘めに見積もっても30万円クラスのものが必要になってきます。そうでなくてもプリはなくなってしまったし、マルチアンプの実験も再開したいし、などと考えていたら、金はいくらあっても足りないくらいです。
とはいえ、プレーヤーがこの調子では仕事になりません。というわけで、にっちもさっちもいかなくなってしまったところへ救いの神が現れました。まるでタイミングを見計らっていたかのように、ベルドリーム・サウンドが「レコードプレーヤー、トーンアームの修理承ります」というサービスを開始したのです。ベルドリームの鈴畑文雄代表は、彼がある名門アナログプレーヤー・メーカーで広報を務められていた頃からずいぶんお世話になっているものですから、このたびも早速連絡してみた次第です。
すぐに修理工房の手配をつけてくれ、「修理ついでに取材もさせて下さいよ」という願いを鈴畑さんが聞き入れてくれたもので、カメラ片手に工房まで行ってきました。
わが家と同県内といっても埼玉は東西にやたらと広く、車で2時間以上かかって工房へ到着、出迎えて下さったのはご主人の吉崎治さんでした。工房の中にはちょうど地方からの依頼で修理に入ったばかりというRCAの巨大なコンソール型プレーヤーをはじめとする修理を待つ機器が並んでいます。修理の難しいことで有名なQRKなど、往年の名器がいくつも展示されていますが、これらは当然すべて吉崎さんが手を入れてコンディションを整えられた製品だそうです。
あらかじめ電話で症状を伝えてはありましたが、改めて現物を診てもらうと、幸いなことに吉崎さんはPL-70についてよく知悉されているそうで、「それじゃ早速見てみましょう」ということになりました。
工房へ着いて早速まず症状を聴いてもらう。「確かに歪んでますね。調べてみましょう」
まず「アームの先端が上を向いている」件は、先のエントリで書きましたがアームを見るや否や「あぁ、これはパイプが曲がっているんですよ。古いプレーヤーにはよくあることです」と一言。適当な台座をかませてあっという間にほぼ水平レベルへ曲げ直してくれました。
アームパイプは下に台座を置いてタオルを敷き、絶妙の手加減でほぼ水平に曲げ直してくれた。「やりすぎちゃったら元も子もないですからね、これくらいにしときましょう」と吉崎さん。
ついでにインシュレーターが1個固着している件も伝えたら、「それも心当たりがありますよ」と当該の1個を外し、何やら取り付けネジの近辺をちょいちょいと削ったと思ったら、見事ごく普通にインシュレーターが働くようになりました。ごく小さなバリが引っかかってインシュレーターの動きを止めてしまっていたそうです。やれやれ、25年も何を苦労していたのやら。
いよいよ本題、内周の歪みです。まずアームを取り外し、吉崎さんの手持ちのパーツの中から何とか具合の合いそうなデンオンのアームを仮付けして音を聴いてみます。そうしたら内周までほとんどノイズレスに音が出るじゃないですか。これはアームの不調だな、と要因が特定できました。
吉崎さんお手持ちのデンオンのアームを仮付け。ややオーバーハングが足りないが、それに起因する歪み以外は聴こえてこない。どうやら「アームが原因」と特定してよさそうだ。
個人的に、PL-70は外径20cmもあろうかという巨大なDDモーターを搭載しており、そこからノイズが漏れ出してカートリッジへ影響を与え、歪みが増えている可能性を何よりも危惧していました。モーターだとまずパーツ交換は不可能でしょうからね。しかし、アームなら何とかなりそうです。心の底からホッとしました。
吉崎さんは外したアームを持ってゆらゆらとサポート部分を動かしてみられます。どうやら特に左右方向のベアリングが渋くなっているようだ、とのこと。後で原因を伺ったら、このアームはオイルダンプ式なんですが、そのダンピング用オイルがサポートのベアリングへ垂れて粘らせていたのではないかということでした。
サポート部分を持ってアームを揺らし、ベアリングの潤滑を確かめる吉崎さん。「特に左右方向が粘っているようですね」
もちろん私はこのアームがオイルダンプだと知っていましたし、横にすることはおろか、僅かに傾けたことすらありません。フォノケーブルを交換する際にも細心の注意でまっすぐにしていたつもりです。また、ご存じの通りダンピング用のオイルは大変に粘度が高く、水飴のようなものです。ほんの2~3分傾けたくらいでこぼれるようなものではありません。
しかし、長年このプレーヤーを使ってきて、こういう音質劣化をきたすようになったのはごくここ1~2年でした。ということはつまり、20年以上も前に何らかの手荒な扱いで漏れたダンピング・オイルが少しずつ滴下し、2011年になってサポートのベアリングへたどり着いた、ということしか考えられません。ずいぶん長くかかって炸裂した時限爆弾だったというほかありませんね。
「このアームならよく知っているし、分解清掃とグリスアップをしましょう」ということになりました。そこまでやってもらうのならと、ついでに内部配線も新しいものに替え、またダンピング・オイルが劣化して粘度が恐ろしく高まっていたのでそこも清掃、適正な粘度のオイルをバスに満たしてもらいました。
固化してオイルバスにこびりついたダンピング・オイル。適正粘度の新しいオイルに交換してもらったが、古いオイルを掻き出して清掃するのが大変だったとか。
いったんプレーヤーを預け、数日後「できましたよ」という電話をもらったので再び車で工房へ向かいます。修理の成ったPL-70は細かな汚れやホコリも拭い落とされ、ピカピカになっていました。
工房の装置で音出しをしてみると、内周まで歪みらしきものは全く看取できません。万歳、わが愛器が完全によみがえりました。いや、正確に言うなら「買った時よりずっといいコンディションに生まれ変わった」というべきですね。アームはまっすぐだしインシュレーターは動くし。
恐るおそる「で、おいくらですか?」と聞いてびっくり! 具体的な金額を書くのは差し障りもあるので控えますが、覚悟していた金額の半額以下でした。今の日本じゃビギナー向けのプレーヤー(ミニコンポ用みたいなのは除きますけどね)もおいそれとは買えないほどの格安料金です。
また、吉崎さんは大変な波乱万丈の人生を歩んでこられた人で、その一代記を伺うだけで何時間も楽しく過ごすことのできる人でした。また語り口が実に巧みで面白く、ついついお仕事の邪魔をして何時間も居座ってしまいました。また何か修理をお願いすることがあったらぜひ伺いたいものです。
全快したわがPL-70で、ベルドリーム特製のデノンDL-102専用シェルリードを試す。2本しか出ていないDL-102の端子からシェルの4端子へ接続することが可能な"分岐ケーブル"である。アームがしゃっきりとまっすぐ伸びていることがお分かりいただけるだろうか。
この修理が済んでもうすぐ1年になりますが、わがPL-70はいまだ絶好調、これで後継プレーヤーをしばらく心配する必要はなくなりました。35年も前のプレーヤーがいまだこういう商売をしている人間のリファレンス機器として現役というのはいささかからず問題ではあるのですが、貧乏ライターの情けない行状とご寛恕いただけると幸いであります。
改めてベルドリーム・サウンドの鈴畑さん、工房の吉崎さん、その節はお世話になりました。
さぁそこから故障箇所の特定までが大変でした。まずカートリッジを交換してダメ、シェルリードを交換してダメ、シェルを交換してダメ、フォノケーブルを交換してダメ、とここまでは交換した製品の調子は全く問題なしでした。
ならばフォノイコライザーか、とプリアンプのパイオニアC-AX10を修理に出し、その間にいろいろなメーカーのフォノイコを借りました。それぞれに魅力的な音を聴かせてくれるのですが、やはり音の傾向は違うといえ、内周のひどい歪みはいくらか軽減したかな、といった具合です。C-AX10もいくらか劣化は進行していたようですが、主因というわけではなかったようですね。
ならばと片っ端から接点という接点を磨きまくってみましたが、音質は大きく向上したものの内周の歪みは「いくらか良くなったかな」という程度。仕舞いにはパワーアンプからスピーカーまで交換してみましたが、やっぱり大きな向上は見込めず。
そもそもわが家のリファレンス機器で最も古いのがアナログプレーヤーで、そこが問題じゃないかとは薄々感づいていました。しかし、30年以上も前の製品をメーカーへ送って修理ということはほぼ不可能だろうと、どこか心の片隅で「見ないように」していた感が否めません。しかし、ここまで明白に事実関係を突きつけられてしまうと、もう認めないわけにいきません。散々苦労したアナログの音質劣化は、アナログプレーヤーの不調が原因だったのです。
何度も書きますがわが家はひどい貧乏暮らしで、アナログプレーヤーが故障しました、それじゃ新しい製品に買い替えましょうか、とは簡単にいきません。特に現代のプレーヤーでPL-70と同クラスの音質を目指そうと思ったら、どう甘めに見積もっても30万円クラスのものが必要になってきます。そうでなくてもプリはなくなってしまったし、マルチアンプの実験も再開したいし、などと考えていたら、金はいくらあっても足りないくらいです。
とはいえ、プレーヤーがこの調子では仕事になりません。というわけで、にっちもさっちもいかなくなってしまったところへ救いの神が現れました。まるでタイミングを見計らっていたかのように、ベルドリーム・サウンドが「レコードプレーヤー、トーンアームの修理承ります」というサービスを開始したのです。ベルドリームの鈴畑文雄代表は、彼がある名門アナログプレーヤー・メーカーで広報を務められていた頃からずいぶんお世話になっているものですから、このたびも早速連絡してみた次第です。
すぐに修理工房の手配をつけてくれ、「修理ついでに取材もさせて下さいよ」という願いを鈴畑さんが聞き入れてくれたもので、カメラ片手に工房まで行ってきました。
わが家と同県内といっても埼玉は東西にやたらと広く、車で2時間以上かかって工房へ到着、出迎えて下さったのはご主人の吉崎治さんでした。工房の中にはちょうど地方からの依頼で修理に入ったばかりというRCAの巨大なコンソール型プレーヤーをはじめとする修理を待つ機器が並んでいます。修理の難しいことで有名なQRKなど、往年の名器がいくつも展示されていますが、これらは当然すべて吉崎さんが手を入れてコンディションを整えられた製品だそうです。
あらかじめ電話で症状を伝えてはありましたが、改めて現物を診てもらうと、幸いなことに吉崎さんはPL-70についてよく知悉されているそうで、「それじゃ早速見てみましょう」ということになりました。
工房へ着いて早速まず症状を聴いてもらう。「確かに歪んでますね。調べてみましょう」
まず「アームの先端が上を向いている」件は、先のエントリで書きましたがアームを見るや否や「あぁ、これはパイプが曲がっているんですよ。古いプレーヤーにはよくあることです」と一言。適当な台座をかませてあっという間にほぼ水平レベルへ曲げ直してくれました。
アームパイプは下に台座を置いてタオルを敷き、絶妙の手加減でほぼ水平に曲げ直してくれた。「やりすぎちゃったら元も子もないですからね、これくらいにしときましょう」と吉崎さん。
ついでにインシュレーターが1個固着している件も伝えたら、「それも心当たりがありますよ」と当該の1個を外し、何やら取り付けネジの近辺をちょいちょいと削ったと思ったら、見事ごく普通にインシュレーターが働くようになりました。ごく小さなバリが引っかかってインシュレーターの動きを止めてしまっていたそうです。やれやれ、25年も何を苦労していたのやら。
いよいよ本題、内周の歪みです。まずアームを取り外し、吉崎さんの手持ちのパーツの中から何とか具合の合いそうなデンオンのアームを仮付けして音を聴いてみます。そうしたら内周までほとんどノイズレスに音が出るじゃないですか。これはアームの不調だな、と要因が特定できました。
吉崎さんお手持ちのデンオンのアームを仮付け。ややオーバーハングが足りないが、それに起因する歪み以外は聴こえてこない。どうやら「アームが原因」と特定してよさそうだ。
個人的に、PL-70は外径20cmもあろうかという巨大なDDモーターを搭載しており、そこからノイズが漏れ出してカートリッジへ影響を与え、歪みが増えている可能性を何よりも危惧していました。モーターだとまずパーツ交換は不可能でしょうからね。しかし、アームなら何とかなりそうです。心の底からホッとしました。
吉崎さんは外したアームを持ってゆらゆらとサポート部分を動かしてみられます。どうやら特に左右方向のベアリングが渋くなっているようだ、とのこと。後で原因を伺ったら、このアームはオイルダンプ式なんですが、そのダンピング用オイルがサポートのベアリングへ垂れて粘らせていたのではないかということでした。
サポート部分を持ってアームを揺らし、ベアリングの潤滑を確かめる吉崎さん。「特に左右方向が粘っているようですね」
もちろん私はこのアームがオイルダンプだと知っていましたし、横にすることはおろか、僅かに傾けたことすらありません。フォノケーブルを交換する際にも細心の注意でまっすぐにしていたつもりです。また、ご存じの通りダンピング用のオイルは大変に粘度が高く、水飴のようなものです。ほんの2~3分傾けたくらいでこぼれるようなものではありません。
しかし、長年このプレーヤーを使ってきて、こういう音質劣化をきたすようになったのはごくここ1~2年でした。ということはつまり、20年以上も前に何らかの手荒な扱いで漏れたダンピング・オイルが少しずつ滴下し、2011年になってサポートのベアリングへたどり着いた、ということしか考えられません。ずいぶん長くかかって炸裂した時限爆弾だったというほかありませんね。
「このアームならよく知っているし、分解清掃とグリスアップをしましょう」ということになりました。そこまでやってもらうのならと、ついでに内部配線も新しいものに替え、またダンピング・オイルが劣化して粘度が恐ろしく高まっていたのでそこも清掃、適正な粘度のオイルをバスに満たしてもらいました。
固化してオイルバスにこびりついたダンピング・オイル。適正粘度の新しいオイルに交換してもらったが、古いオイルを掻き出して清掃するのが大変だったとか。
いったんプレーヤーを預け、数日後「できましたよ」という電話をもらったので再び車で工房へ向かいます。修理の成ったPL-70は細かな汚れやホコリも拭い落とされ、ピカピカになっていました。
工房の装置で音出しをしてみると、内周まで歪みらしきものは全く看取できません。万歳、わが愛器が完全によみがえりました。いや、正確に言うなら「買った時よりずっといいコンディションに生まれ変わった」というべきですね。アームはまっすぐだしインシュレーターは動くし。
恐るおそる「で、おいくらですか?」と聞いてびっくり! 具体的な金額を書くのは差し障りもあるので控えますが、覚悟していた金額の半額以下でした。今の日本じゃビギナー向けのプレーヤー(ミニコンポ用みたいなのは除きますけどね)もおいそれとは買えないほどの格安料金です。
また、吉崎さんは大変な波乱万丈の人生を歩んでこられた人で、その一代記を伺うだけで何時間も楽しく過ごすことのできる人でした。また語り口が実に巧みで面白く、ついついお仕事の邪魔をして何時間も居座ってしまいました。また何か修理をお願いすることがあったらぜひ伺いたいものです。
全快したわがPL-70で、ベルドリーム特製のデノンDL-102専用シェルリードを試す。2本しか出ていないDL-102の端子からシェルの4端子へ接続することが可能な"分岐ケーブル"である。アームがしゃっきりとまっすぐ伸びていることがお分かりいただけるだろうか。
この修理が済んでもうすぐ1年になりますが、わがPL-70はいまだ絶好調、これで後継プレーヤーをしばらく心配する必要はなくなりました。35年も前のプレーヤーがいまだこういう商売をしている人間のリファレンス機器として現役というのはいささかからず問題ではあるのですが、貧乏ライターの情けない行状とご寛恕いただけると幸いであります。
改めてベルドリーム・サウンドの鈴畑さん、工房の吉崎さん、その節はお世話になりました。
わがリファレンス・システム(アナログ編-その1) ― 2014/01/25 16:49
さて、わがリファレンスのアナログ編です。アナログプレーヤーもパイオニアのPL-70ですが、これは珍しいことに自費購入したものです。
これを購入したのはまだ学生の頃だったと記憶します。PL-70を購入するまでは高校生の頃に兄からお下がりでもらったシステムコンポ(トリオ製)のアナログプレーヤーを、もはや原形をとどめなくなるまでに改造しまくって使っていました。当時は江川三郎氏のアナログ理論に傾倒し、吸着式のオーディオテクニカAT666スタビライザーを購入、プラッターとの間にガラスを敷いて共振を分散させ、FGサーボのダイレクトドライブだったのを糸ドライブに改造(これはワウが抑えられず、大失敗となりました)、感度が鈍くろくな音がしなかったS字アームを諦め、ガラス2枚重ねのピュアストレート・アームを自作するところまでやったものです。
そういえば、有り合わせの角材を使ってではありましたが、江川式「絶対アーム」も実験したなぁ。あまりといえばあまりの音質向上にアナログの遥かな可能性を感じ、そしてとてつもない扱い勝手の悪さに辟易したものでした。いわゆる「手回しターンテーブル」の実験も行いましたが、ワウだらけでとても音楽を楽しむ雰囲気ではなかったものの、モーターを使わないと音はこんなに澄み渡るものかという感激を味わうことがかないました。
とまぁ、こんなことをやっていてプレーヤー本体がまともに動き続けるわけもありません。10年近くの実験の後そのプレーヤーは昇天しました。で、次のプレーヤーを探している時にPL-70と巡り合った、というわけです。
PL-70は1979年の発売ですから今年で35年にもなります。確かメーカー希望小売価格15万円くらいだったと記憶します。S字のセミロングアームでクオーツロックのDD方式ですから、ピュアストレート・アームでベルトドライブの江川式とは相容れないプレーヤーでした。
私がプレーヤーを壊して次の製品を探していたのは、ちょうど折良くというべきかCDが爆発的に普及し始めた時期と重なり、アナログプレーヤーはあまり省みる人もなく、中古売り場の大きな面積を占めながらあまり物が動かないという状況でした。その状況で元箱はおろか取説も付属シェルも重量級ウエイトもアーム調整用のレンチも付属しない「現状渡し品」として店の隅に置いてあったのがPL-70でした。3万8,000円くらいだったっけ。店頭で何の気なしに持ち上げてみようとして、思わず腰を痛めそうに重かったもので、その場で「これ下さい!」と店員さんに声をかけちゃった次第です。
パイオニア PL-70 1979年発売 ¥150,000(当時)
わが家のプレーヤー風景。何かとゴチャついているのはご勘弁願いたい。写真ではパイオニアJP-501ターンテーブルシートが載せられているが、オーディオテクニカAT677→オヤイデMJ-12と変遷して、現在はオヤイデBR-12を使用している。
このプレーヤーにはいろいろ手がかかりました。何たってこれだけ安い現状渡しなんですから、並みの程度だなんて思う方が間違っているというものです。
まず、標準のアームウエイトでは現代のカートリッジ&シェルがほとんど使えません。PL-70の開発当時はローマス/ハイコンプライアンスのカートリッジが全盛の頃で、付属シェルは何とカーボングラファイト製で7.8gだったといいます。現代のシェルでそれに匹敵する目方というとSMEの超軽量穴あきシェルS-2Rですら8gほどあるようですからもはやお手上げ。カートリッジ本体の質量も時代を追うに連れて高まってきているようですし、本当に適合するカートリッジが少ないことに頭を抱えたものでした。
これはもう重量級のカウンターウエイトを作るしかありません。といったって旋盤が手元にあるわけじゃなし、ここは一工夫と頭をひねりました。まず軽量級のカウンターウエイトに、荷造り用のクラフトテープを糊の面を外側にしてリング状に貼り付けます。そしてそこに東京防音の鉛シートP-50を適当なサイズに切って貼り回していきます。「まぁこんなもんかな」というところで、プリセットの針圧目盛りの約30%減でバランスするようになりました。
クラフトテープと鉛シートで自作したカウンターウエイトの増量用リング。ウエイトの外側へはめ込んで使う。
これで増量用のウエイトリングは取り外しが可能になり、カートリッジの適合範囲が飛躍的に広がりました。SPUなどの極端に重いカートリッジはまだこれでもちょっとした裏技を用いないとバランスしませんが、私のSPUはアダプターを介して一般シェルに取り付けてあるので、現状でも全然問題なくバランスしています。
アルミのチャンネルとボルトナットで自作したアーム高さ調整用レンチ。穴がおかしなところへあいているが、寸法を測りもせずに当初そこへボルトを取りつけたらレンチの用をなさず、まじめに実測して穴をあけ直した次第。いやはや、お恥ずかしい。
お次はアームの高さ調整用のレンチです。買った当初は高さ調整の方法が分からなくて四苦八苦しましたが、何とか専用のレンチでアームベース周辺のリングを回してチャックを緩める方式だと判明、そのレンチが付属していなかったもので、これも自作しました。見栄えは非常に冴えないヤツですが、パイオニアの純正レンチより何倍も強度があり、扱いやすいものに仕上がったと自負しています。
さて、これでアーム回りはしっかりと調整できたはずなんですが、どうも音を聴いているとキンシャンとやかましく、全然カートリッジの持ち味が発揮されたサウンドとはいえません。おかしいなとアームをしげしげと眺めたら止んぬるかな、アームの先端が僅かに上を向いているじゃないですか!
PL-70のアームはS字型ですから、カートリッジ側から向かって時計方向に少しだけ曲がって取り付けられているのかと思ったのですが、後述する修理の職人さんが一見して「あぁ、これはアームパイプが歪んでいるんですよ」と喝破、ちょっとした置き台と緩衝材を持ち出し、その場で曲げ直してくれました。この修理がかなったのが2013年、確か購入が1988年ごろだったと記憶しますから、何と25年も歪んだまま使っていたことになります。やれやれ。
それでは曲げ直すまで私がどうやってこのアームを使いこなしていたのかというと、アームのサポート部分をえいやっと持ち上げ、思い切り尻上がりにして使っていたのです。大半のカートリッジはこうしてやることで音域バランスが整いましたが、SPUなどの背が高いカートリッジはダストカバーへ接触するぎりぎりまでサポートを上げてやってどうにかこうにかといったところでした。しかも、音を聴きながらの微調整が必要ですから、本当に神経をすり減らしながらの調整だったものです。
これでどうやら何とかまともな音は出るようになりました。しかし、今度はハウリングです。当初はほとんど気にならなかったのですが、自宅リファレンスのスピーカーに30cmのウーファーを入れた頃からハウリング・マージンの低下が著しくなっていました。特に大編成のクラシックなどは超低域のノイズまみれになってしまい、大音量では聴けたものではありません。
どうなっているのかと調べてみたら、よりにもよってアーム直下のインシュレーターが固着してしまっています。その状態でハウリング・マージンを測ってみると、常用音量よりほんの気持ち上の時点で早くも超低域にものすごいノイズが現れます。これじゃ全く使い物になりません。
そこで、テニスボールから始まって幼児用のふわふわのボールや自転車のタイヤチューブなど、いろいろと下に挟んで試してみました。いずれもマージンには不足がなくなるのですが、音質がコロコロ変わってビックリでした。テニスボールは上品で穏やかな質感となり、幼児ボールは何だか中低域が緩んでだらしない感じ、自転車チューブは力感がみなぎりピラミッド型の非常に好ましい再現となります。ただ、見た目はどうにもいただけません。
それで、「そのうちケース入りの自転車チューブ・インシュレーターを作ってやろう」と思っていたら、アコリバに先を越されちゃいましたね。まぁこの手の自作ボードは太古からあるものですから、どっちが先と今さら言い募るものじゃないですけれど。
ヒノエンタープライズ扱いで発売された限定品のインシュレーター。堅木の間に粘弾性材を挟んであり、いろいろな機器の振動対策に有効なグッズである。アナログ用にハウリング・マージンを増すため、耐震ジェルシートを張り込んだりもしてみたが、マージンは上がるものの音が少しふらつく感じもあり、良し悪しといったところだった。
それで結局、たまたま試聴でわが家にやってきた堅木2枚の間に粘弾性材を挟んだインシュレーターの音質が気に入ったものですから、それをそのまま譲ってもらいプレーヤーに挟んで使っていました。これだとマージンが常用音量+10dBくらいで、ちょっと気合を入れて大音量を鳴らそうとするとまだ悲鳴が上がることがありましたが、音質的にはようやく満足したものです。
程度の悪い中古プレーヤーをねじ伏せてなだめすかし、どうにかこうにか使っているわがアナログ・ライフは、特に古いプレーヤーをお使いの人にとっては「不具合の見本市」みたいなものでしょうね。同様の不具合を抱えていらっしゃる人に、私の取った対策が何かのお役に立つといいんですが。
その後、私のプレーヤーは劇的な変化を遂げます。長くなっちゃったので、この辺のくだりはまたエントリを改めますね。
これを購入したのはまだ学生の頃だったと記憶します。PL-70を購入するまでは高校生の頃に兄からお下がりでもらったシステムコンポ(トリオ製)のアナログプレーヤーを、もはや原形をとどめなくなるまでに改造しまくって使っていました。当時は江川三郎氏のアナログ理論に傾倒し、吸着式のオーディオテクニカAT666スタビライザーを購入、プラッターとの間にガラスを敷いて共振を分散させ、FGサーボのダイレクトドライブだったのを糸ドライブに改造(これはワウが抑えられず、大失敗となりました)、感度が鈍くろくな音がしなかったS字アームを諦め、ガラス2枚重ねのピュアストレート・アームを自作するところまでやったものです。
そういえば、有り合わせの角材を使ってではありましたが、江川式「絶対アーム」も実験したなぁ。あまりといえばあまりの音質向上にアナログの遥かな可能性を感じ、そしてとてつもない扱い勝手の悪さに辟易したものでした。いわゆる「手回しターンテーブル」の実験も行いましたが、ワウだらけでとても音楽を楽しむ雰囲気ではなかったものの、モーターを使わないと音はこんなに澄み渡るものかという感激を味わうことがかないました。
とまぁ、こんなことをやっていてプレーヤー本体がまともに動き続けるわけもありません。10年近くの実験の後そのプレーヤーは昇天しました。で、次のプレーヤーを探している時にPL-70と巡り合った、というわけです。
PL-70は1979年の発売ですから今年で35年にもなります。確かメーカー希望小売価格15万円くらいだったと記憶します。S字のセミロングアームでクオーツロックのDD方式ですから、ピュアストレート・アームでベルトドライブの江川式とは相容れないプレーヤーでした。
私がプレーヤーを壊して次の製品を探していたのは、ちょうど折良くというべきかCDが爆発的に普及し始めた時期と重なり、アナログプレーヤーはあまり省みる人もなく、中古売り場の大きな面積を占めながらあまり物が動かないという状況でした。その状況で元箱はおろか取説も付属シェルも重量級ウエイトもアーム調整用のレンチも付属しない「現状渡し品」として店の隅に置いてあったのがPL-70でした。3万8,000円くらいだったっけ。店頭で何の気なしに持ち上げてみようとして、思わず腰を痛めそうに重かったもので、その場で「これ下さい!」と店員さんに声をかけちゃった次第です。
パイオニア PL-70 1979年発売 ¥150,000(当時)
わが家のプレーヤー風景。何かとゴチャついているのはご勘弁願いたい。写真ではパイオニアJP-501ターンテーブルシートが載せられているが、オーディオテクニカAT677→オヤイデMJ-12と変遷して、現在はオヤイデBR-12を使用している。
このプレーヤーにはいろいろ手がかかりました。何たってこれだけ安い現状渡しなんですから、並みの程度だなんて思う方が間違っているというものです。
まず、標準のアームウエイトでは現代のカートリッジ&シェルがほとんど使えません。PL-70の開発当時はローマス/ハイコンプライアンスのカートリッジが全盛の頃で、付属シェルは何とカーボングラファイト製で7.8gだったといいます。現代のシェルでそれに匹敵する目方というとSMEの超軽量穴あきシェルS-2Rですら8gほどあるようですからもはやお手上げ。カートリッジ本体の質量も時代を追うに連れて高まってきているようですし、本当に適合するカートリッジが少ないことに頭を抱えたものでした。
これはもう重量級のカウンターウエイトを作るしかありません。といったって旋盤が手元にあるわけじゃなし、ここは一工夫と頭をひねりました。まず軽量級のカウンターウエイトに、荷造り用のクラフトテープを糊の面を外側にしてリング状に貼り付けます。そしてそこに東京防音の鉛シートP-50を適当なサイズに切って貼り回していきます。「まぁこんなもんかな」というところで、プリセットの針圧目盛りの約30%減でバランスするようになりました。
クラフトテープと鉛シートで自作したカウンターウエイトの増量用リング。ウエイトの外側へはめ込んで使う。
これで増量用のウエイトリングは取り外しが可能になり、カートリッジの適合範囲が飛躍的に広がりました。SPUなどの極端に重いカートリッジはまだこれでもちょっとした裏技を用いないとバランスしませんが、私のSPUはアダプターを介して一般シェルに取り付けてあるので、現状でも全然問題なくバランスしています。
アルミのチャンネルとボルトナットで自作したアーム高さ調整用レンチ。穴がおかしなところへあいているが、寸法を測りもせずに当初そこへボルトを取りつけたらレンチの用をなさず、まじめに実測して穴をあけ直した次第。いやはや、お恥ずかしい。
お次はアームの高さ調整用のレンチです。買った当初は高さ調整の方法が分からなくて四苦八苦しましたが、何とか専用のレンチでアームベース周辺のリングを回してチャックを緩める方式だと判明、そのレンチが付属していなかったもので、これも自作しました。見栄えは非常に冴えないヤツですが、パイオニアの純正レンチより何倍も強度があり、扱いやすいものに仕上がったと自負しています。
さて、これでアーム回りはしっかりと調整できたはずなんですが、どうも音を聴いているとキンシャンとやかましく、全然カートリッジの持ち味が発揮されたサウンドとはいえません。おかしいなとアームをしげしげと眺めたら止んぬるかな、アームの先端が僅かに上を向いているじゃないですか!
PL-70のアームはS字型ですから、カートリッジ側から向かって時計方向に少しだけ曲がって取り付けられているのかと思ったのですが、後述する修理の職人さんが一見して「あぁ、これはアームパイプが歪んでいるんですよ」と喝破、ちょっとした置き台と緩衝材を持ち出し、その場で曲げ直してくれました。この修理がかなったのが2013年、確か購入が1988年ごろだったと記憶しますから、何と25年も歪んだまま使っていたことになります。やれやれ。
それでは曲げ直すまで私がどうやってこのアームを使いこなしていたのかというと、アームのサポート部分をえいやっと持ち上げ、思い切り尻上がりにして使っていたのです。大半のカートリッジはこうしてやることで音域バランスが整いましたが、SPUなどの背が高いカートリッジはダストカバーへ接触するぎりぎりまでサポートを上げてやってどうにかこうにかといったところでした。しかも、音を聴きながらの微調整が必要ですから、本当に神経をすり減らしながらの調整だったものです。
これでどうやら何とかまともな音は出るようになりました。しかし、今度はハウリングです。当初はほとんど気にならなかったのですが、自宅リファレンスのスピーカーに30cmのウーファーを入れた頃からハウリング・マージンの低下が著しくなっていました。特に大編成のクラシックなどは超低域のノイズまみれになってしまい、大音量では聴けたものではありません。
どうなっているのかと調べてみたら、よりにもよってアーム直下のインシュレーターが固着してしまっています。その状態でハウリング・マージンを測ってみると、常用音量よりほんの気持ち上の時点で早くも超低域にものすごいノイズが現れます。これじゃ全く使い物になりません。
そこで、テニスボールから始まって幼児用のふわふわのボールや自転車のタイヤチューブなど、いろいろと下に挟んで試してみました。いずれもマージンには不足がなくなるのですが、音質がコロコロ変わってビックリでした。テニスボールは上品で穏やかな質感となり、幼児ボールは何だか中低域が緩んでだらしない感じ、自転車チューブは力感がみなぎりピラミッド型の非常に好ましい再現となります。ただ、見た目はどうにもいただけません。
それで、「そのうちケース入りの自転車チューブ・インシュレーターを作ってやろう」と思っていたら、アコリバに先を越されちゃいましたね。まぁこの手の自作ボードは太古からあるものですから、どっちが先と今さら言い募るものじゃないですけれど。
ヒノエンタープライズ扱いで発売された限定品のインシュレーター。堅木の間に粘弾性材を挟んであり、いろいろな機器の振動対策に有効なグッズである。アナログ用にハウリング・マージンを増すため、耐震ジェルシートを張り込んだりもしてみたが、マージンは上がるものの音が少しふらつく感じもあり、良し悪しといったところだった。
それで結局、たまたま試聴でわが家にやってきた堅木2枚の間に粘弾性材を挟んだインシュレーターの音質が気に入ったものですから、それをそのまま譲ってもらいプレーヤーに挟んで使っていました。これだとマージンが常用音量+10dBくらいで、ちょっと気合を入れて大音量を鳴らそうとするとまだ悲鳴が上がることがありましたが、音質的にはようやく満足したものです。
程度の悪い中古プレーヤーをねじ伏せてなだめすかし、どうにかこうにか使っているわがアナログ・ライフは、特に古いプレーヤーをお使いの人にとっては「不具合の見本市」みたいなものでしょうね。同様の不具合を抱えていらっしゃる人に、私の取った対策が何かのお役に立つといいんですが。
その後、私のプレーヤーは劇的な変化を遂げます。長くなっちゃったので、この辺のくだりはまたエントリを改めますね。
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