わがリファレンス・システム(アナログ編-その6 フォノイコとクリーナー)2014/02/01 16:31

プリアンプのパイオニアC-AX10が修理から戻ってこなくなっちゃってから、いろいろなフォノイコライザーを借り出して試聴しました。中でも際立って印象に残ったのは四十七研究所の「Phono Cubeモデル4712でした。電源部の「Power Humptyモデル4700を別個用意しなければならないので、セットでは30万円を超えてしまう"高級機"ではありますが、もうこれは圧倒的に47研の木村準二代表が発想される独自世界そのものです。

Model4712+4700

四十七研究所 PhonoCube  Model4712 ¥156,000(税抜き、写真右)
四十七研究所 PowerHumpty Model4700 ¥142,000(税抜き、写真左)

(※写真はウェブ上の画像をこちらで合成したため、2モデルの大きさが本来とは違っています)

本機はMC専用のフォノイコで、負荷インピーダンスは何と! カートリッジの内部抵抗をインピーダンスとして取り込み、「電流増幅回路」を採用したフォノイコです。OFCのパターンを持つベークの基板(同社では「ガラエポよりテフロンより音が良い!」と実証済みとか)に最小限のパーツを組み付け、1辺9cmの立方体に近い超小型の筐体内を立体配線が駆け巡る、という作りで実現された世界最短のシグナルパスが信号の鮮度を保持しながらノイズの混入を防ぐという、ある意味でもっともオーソドックスな、そして理想主義的な製品です。

音質はもう何といったらいいのかな、まさに「そこへ音楽がただ存在している」としか言いようのない生々しさと、ライブステージに飛び散る汗やバラード・シンガーの吐息の温かみまでが伝わってくる臨場感が特徴です。あれはある種の異次元体験といっても過言じゃありません。本当に面白いフォノイコでした。

残念ながらわが家ではMMも鳴らさなきゃいけないし、第一そんな金額は用意できませんから導入は断念せざるを得ませんでしたが、いや、一度は体験しておきたい音ですよ、あれ。

そんなわが家が今リファレンスとして使っているのは、何たることか僅か2万5,000円のフォノイコです。オーディオテクニカAT-PEQ20。いやね、これがデビューした際にとある取材でいろいろな使いこなしにチャレンジしたことがありまして、その時に「おや、価格の割に結構しっかりした音だな」と思っていたんですよ。その取材で使った個体はそのまま貸与してくれていて、部屋の隅でアクビをしていました。

AT-PEQ20

オーディオテクニカ AT-PEQ20 ¥25,000(税抜き)

取材当時は全くの新品で、一応のエージングをこなしてから試聴には入りましたがそれでも数日程度のものでした。その時点では切れ味は結構鋭く、特にAT33PTGやAT150MLXなど同社製のカートリッジを組み合わせるとそれぞれ非常に上手く持ち味を発揮するのが印象的でした。その一方、例えばデノンDL-103のようなごく一般的なカートリッジでも、他社製品をつなぐとどういうわけか今ひとつ音がしっくりこず、「不思議なフォノイコだなぁ」と感じていたものです。

C-AX10が手元からなくなってしまい、そのままではアナログの試聴がままならないものですから、いろいろなメーカーに連絡をして貸し出し機を手配してもらいました。でも、そう長く借りているわけにはいきませんし、途切れ目なく各社の製品を借り続けるのも難しいものです。

というわけで、ほんのつなぎにという程度のつもりでAT-PEQ20を使い始めたんですが、このフォノイコがまた使えば使うほどどんどん音がこなれてくるんですね。レンジは上下端とも全く不満のないレベルで伸び、広大なホールの空気感や残響の消え際などを実に繊細なタッチで描き出します。そうかと思えばパーカッションの炸裂やコントラバスのトゥッティといった豪壮雄大な音も平然と鳴らすので驚きます。

昨年の暮れ近くに遊びにきた友人が伝説の名盤「フラメンコ・フィーバー」を持参してくれたのですが、実のところそれを鳴らして一番驚いたのは私でした。カートリッジはビクターMC-L10を使っていましたからほぼ万全ですが、このフォノイコであの難物が朗々と鳴り渡ってしまったのです。「何かこれ、間違っていないか?」と思わずにいられなかったくらい、衝撃的な音でした。

そうそう、いつの間にやら他社カートリッジ接続時の違和感もきれいさっぱり解消していたのですね。モスビンさんご製作のシェルリードで特別チューンされたMC-L10がその実力を遺憾なく発揮していましたから。

ただしこのフォノイコ、もちろん万能ではありません。高級機で味わうことのできる音楽の薫り高さ、脂っこさ、余裕といったようなものはあまりなく、どちらかというとややそっけない傾向の音です。

また、私がたまたま手にしたこの個体が1万台に1台の"大当たり"である可能性もゼロとはいえません。わが家ではビックリするほど実用的なフォノイコですが、この記事をお読みになった人が購入されて「ダマされた!」ということがないよう祈るばかりです。

あと、アナログ関係の小物類を"落穂拾い"していきましょうかね。レコード・クリーナーはナガオカの「アルジャント113」と日本蓄針(オーム・ブランド)のPRO-8を常用しています。

アルジャントは今もマイナーチェンジされて売り続けられている定番中の定番クリーナーです。この当時の113番はベルベットの質が最上で、ホコリを最も効率的に取り去ってくれるのではないかと思います。

アルジャント116

ナガオカ アルジャント116 ¥1,000

こちらは現行のアルジャント。少しベルベットの材質が変わったようだが、持ちやすさを含めた使いやすさは往年と全く変わりがない。

PRO-8は高校生の頃になぜかカセットデッキを買ったらオマケでレコードと一緒にくっついてきたもので、それから30年以上使ってもベルベットは健在です。ベルベットの面が広くて割合に実用的なクリーナーだと思います。

PRO-8

こちらはわが家で愛用しているPRO-8。持ち手に張られていたゴムのリングは劣化して落ちてしまったが、ベルベットが全く劣化しないのはすごいものだ。

これらで拭い切れないほどホコリが積もった盤には、湿式クリーナーのオーディオテクニカAT6012を使います。クリーニング液を注入してやると、本当に見るみるホコリが取れるのが面白いくらいです。AT6012使用上のコツは、クリーニング液をまめに補充してやることですかね。スペアのボトルAT634も安いものですから、気にせずに使ってしまうのがいいと思います。

AT6012

オーディオテクニカ AT6012 ¥1,600(税抜き)
※補充用クリーニング液AT634は¥400(税抜き)

中古レコードでたまに当たる、べっとりとタバコのヤニのようなものがこびりついた盤やカビが生えた盤などは、この手のクリーナーでは太刀打ちできません。VPIニッティグリッティなどを筆頭に高度なディスクウォッシュ・マシンが発売されていますが、わが家にはとても導入できないので、私は専らそういう盤は台所で台所洗剤とスポンジを使ってゴシゴシ洗ってしまっています。洗っている最中に指先やとりわけ爪で盤を傷つけないこと、またレーベルをできるだけ濡らさないように気をつけること、といったほかは結構ぞんざいに扱ってもレコードは大丈夫みたいですよ。

その代わり、盤を水で洗ったら必ず完全に乾かすことが肝要です。カートリッジに湿気が厳禁ということは、くれぐれも頭に入れておいて下さい。前にも書きましたが、私はその辺を甘く見て愛用のカートリッジを1本ダメにしちゃいましたから。私はベルドリームのレコード乾燥台BD-LKD11を使っています。分厚くニッケルメッキされたスチール製のスタンドで、適度な重量があり、レコードを安定して支えてくれる便利グッズです。

BD-LKD11

ベルドリーム BD-LKD11 ¥5,000(税抜き)

次はスタイラス・クリーナーかな。私はごく簡易なクリーニング液としてナガオカの「ハイクリーン801」とオーディオテクニカAT607を使用しています。前者は高校生の頃に買ったのがまだなくなっていないくらいですから、大変に長持ちするものといってよいでしょう。私はごく少量を綿棒に塗りつけ、針先を磨くようにしています。しっかり磨けているかどうかを確認するために、10~30倍くらいのルーペというか簡易な顕微鏡のようなものを用意しておくと役立つでしょう。

ハイクリーン801/2

ナガオカ ハイクリーン801/2 ¥800
高校生の頃に買ったハイクリーン801と全く同じ外観だが、型番のみ801/2となっている。ほぼ同等品なのではないか。

AT607

オーディオテクニカ AT607 ¥600(税抜き)

ポケット顕微鏡

私の愛用しているポケット顕微鏡。アマゾンで500円少々だった。こんなものでも針先を鮮明に30倍まで拡大してくれる。

やれやれ、これで概ねアナログ関連のリファレンスは紹介できたかな。長い旅路となりました。

それにしても、スタビライザーのAT6274、ターンテーブルシートAT677、カートリッジAT33シリーズ、ヘッドシェルAT-LHシリーズ、シェルリードAT6101、フォノケーブルAT6209、フォノイコライザーAT-PEQ20、クリーナーAT6012にAT607、そうそう水準器もAT615を使っていたっけ。わが家のアナログにおけるオーディオテクニカの占有率にはわれながら呆れます。

しかし、断じて「ステルスマーケティング」なんてやってるわけじゃありません。AT33MLにしてもAT618にしてもAT677にしてもAT-LHにしても、メーカーと付き合いができる前から自費で購入して使っているのです。自由にできる金の限られるオーディオマニアがアナログで一定以上のクオリティを得ようとするならば、オーディオテクニカは必ず強い味方となってくれることでしょう。同社はアナログを主体的に牽引する社としてはおそらく世界最大手でしょうし、ことコストパフォーマンスの高さにおいて同社に匹敵することは、後発メーカーにとって大変に難しいのではないかと思うのです。

昨年、同社では創業者の松下秀雄氏が逝去されました。もうずいぶん前から経営そのものには携わっておられなかったようですが、それでも偉大なる創業の父を失った同社は、これから第2世代以降が頑張らねばならないと兜の緒を締めているところだと思います。幸い今はアナログが静かな再ブームの様相ですから、これからしばらくは新製品の開発も順調に進むのではないかと思います。しかし、ブームは必ず下火になる日を迎えます。そうなっても同社のハイCPを牽引する美風が損なわれないよう、私たちアナログ・ファンは大いに支えていかなきゃならんのではないかな、と考えているところです。