CDボックスはリッピングして楽しもう2014/02/20 01:46

リファレンス・ソフトのクラシックについて書いてたら、ずいぶんな文字数になっちゃったものでエントリを分けました。ここではちょっとPCオーディオ系音源について話しましょうか。

お恥ずかしい話なんですが、私はごく最近になるまでワーグナーの面白味が全然理解できませんでした。わが家にもワーグナーは何セットかありますから、好きになれるかと何度もチャレンジはしていたのですが、「ところどころに心掻きむしる、あるいは血沸き肉踊る展開が埋め込まれてはいるものの、あんな長いものをよく聴いていられるものだ」なんて感想にとどまってしまい、結局好んでトレイへ載せるようにはならなかったものです。

ところが、最近になって「ニーベルングの指輪」のCDをリッピングしてPCへ収めたんですよ。それで改めて再生してみたら何たることか、実にスルスルと耳へ入ってくるじゃないですか! いっぺんに通しで聴き切ってしまいました。ワーグナーがこんなに楽しかったなんて!

「ただリッピングしただけなのに、一体どこが違うんだろう?」とひとしきり考えてみたんですが、何のことはない、「ディスクのかけ替えがいらない」というポイントに尽きるんじゃないかと。手元の「指輪」はCD14枚組で、「ラインの黄金」だけでも2枚のCDを要しています。CDで聴いていると音楽が途中で途切れてしまい、かけ替えの際に「また今度でいいや」なんて思っちゃったが最後、その「今度」はもう当分訪れることはなく、結局どこまで聴いたかも分からなくなり、ということになりがちだったのです。

その点リッピング音源なら尺を気にせず1曲を1フォルダにまとめることが可能ですから、途中で止まる心配がありません。しかも、私は各楽曲ごとに作ったフォルダの下位へさらに幕ごとのフォルダで分類してありますから、楽曲を通しで聴くことも幕ごとに聴くことも可能になっています。非常に自由度が高いんですね。

同じことをCDでやろうとすると、ライナーノーツ首っ引きで盤をかけ替えながら行わなきゃいけませんでした。ゆったりとした気分で音楽鑑賞というにはいささか遠い営為といわざるを得ませんね。ましてLPレコードはA/B面もありますから、どれほどの手間であろうかと思うといささかウンザリするところなきにしもあらずです。

いや、もちろん故・長岡鉄男氏も絶賛されたショルティ/VPOの金字塔をアナログで聴いた際の感動もよく分かっています。所有している友人が少なくなく、いろいろな環境で聴かせてもらっていますからね。でも、それと「何も気にせず音楽のみに没入できる」喜びとは、全く別のジャンルに収めなければならないものだと思うのです。

ちなみに私が愛聴している「指輪」はギュンター・ノイホルト指揮、カールスルーエ・バーデン州立歌劇場のライブ盤です。私が買った時で確かセット2,000円したかどうか。だいぶ為替が下落した今なお3,000円も出さずに買えるウルトラ激安盤です。ちょっと前にクラシック・ファンの間では評判になりましたから、ご存じの人も多いでしょうね。

ニーベルングの指輪

CD

ワーグナー ニーベルングの指輪 全曲版

ギュンター・ノイホルト指揮、カールスルーエ・バーデン州立歌劇場管弦楽団、同合唱団ほか
独DOCUMENTS 224056 375 ※輸入盤

元はベラ・ムジカというレーベルから発売されたセットで、それがオランダのBrilliantで廉価盤となり、その数年後さらにMembran-Documentsで廉価盤化されるという数奇な運命をたどった音源。元の値段からしたら10分の1くらいになっているのではないだろうか。演奏・録音とも十二分に鑑賞に堪える、素晴らしいボックスセットである。

ならば演奏・録音はどうかというと、これが結構健闘しているんですよ。ブリュンヒルデがちょっと音域が伸び切らなくてヒイヒイ言っているのを除けば、歌手陣は入れ込みすぎず、流しすぎずでいい感じに歌っているし、オケはライブの割に傷が非常に少なく、安心して聴いていられるのは驚くばかりです。カールスルーエ・バーデン州立歌劇場管弦楽団というとあまり著名な楽団じゃないと思うんですが、欧州の各地方に昔から根付いているオペラ文化の深みに触れるような気がする演奏です。

対するにわが地元、日本有数の音響を誇る小ホール「田園ホール・エローラ」を作ってもう20年以上にもなるというのに、常設の楽団が存在していません。オペラを持てとまで無理はいわないから、せめて室内管弦楽団か、それが無理なら弦楽合奏団くらい持てないものかと思い、地元の議員に陳情したりもしているんですが、文化に理解のある議員が絶望的に少なく、なかなか先へ進まない状況です。地元に音楽科を持つ高校があり、そこの卒業生からプロになった人を集めるくらいのことはできないのか、などと素人は考えちゃうんですけどねぇ。

すみません、グチになっちゃいました。

一方、LPの時代からCDになっても、一定以下の尺の作品には「オマケ」として小曲が付属していることが多いものですよね。まとめて買うこともなかなかないし、そういう機会でもないとまず聴かないだろうという曲が手元に増えるのは喜ばしいことでもありますが、あれは一面で困ったことも引き起こしかねません。

要は、大きな曲が終わって感動の余韻に浸っていると、次の曲が始まってしまうのですね。エンディングの曖昧な曲になると、別の曲が始まっているのに気がつかず、そのまま記憶へと刷り込まれてしまい、むしろ曲を単独で聴くと違和感を生ずるようにすらなってしまっていたり。学生時分に買い込んだニールセン交響曲第2番(CD)は「アラジン」組曲が一緒に入っていましたが、おかげで2番が終わったら自動的に「アラジン」が始まるような条件反射が身についてしまい、他の演奏を聴いた時に違和感が残って仕方なかったものでした。まだまだたくさんそういうCDやLPが手元にあります。

ニールセン/交響曲第2番ほか

CD

カール・ニールセン 交響曲第2番、「アラジン」組曲

チョン・ミョンフン指揮、イエテボリ交響楽団
スウェーデンBIS CD247 ※輸入盤

長岡鉄男氏の「外盤ジャーナル」によると「BISとしてはベストではない」ということだが、実際に聴いてみるとそれでも結構な高音質である。広大な音場の奥にオケがくっきりと定位、遠くの音像が楽員1人ずつ数えられるような解像度で耳へ迫る。このアルバムは私のオーディオにおける成長の過程を見守ってきてくれたものでもあり、そのうちまた別エントリで詳述したいと思う。

PCオーディオならそういう心配はありません。がんがんリッピングしておいて、PCのHDD(あるいはNAS)上で編集してフォルダを分けておけば選曲時にも"混じる"ことがありませんし、そうまでしなくても再生時にトラックを選べばいいのですから、LPはいうまでもなく、CDのプログラム再生ほどの手間も必要ありません。

ちなみに私はiTunesなどの楽曲管理ソフトは導入せず、HDDにジャンル別のフォルダを作って作曲家の名前でアルファベット順に並べるようにしています。メディアプレーヤーはfoobar2000を主に使っていますが、聴きたい曲をドラッグ&ドロップして再生、聴き終わったら削除するという繰り返しで、何不自由なくPCオーディオ生活を営んでいます。

最近はレコード会社が各社工夫して少しでも安価に商品を提供しようとしているのがありがたいところです。中でもジュゼッペ・シノーポリが残したマーラーの名演を、「嘆きの歌」を除いてしまったのは残念ですが、それだけで15枚組から12枚組に圧縮し、価格を3分の1ほどにまで下げた「エロクエンス」ボックスセットは、金のないマーラー・ファン、そしてシノーポリ・ファンにとって大いなる朗報でした。

マーラー/交響曲全集

CD

マーラー 交響曲全集

ジュゼッペ・シノーポリ指揮、フィルハーモニア管弦楽団、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
独Deutsche Grammophon 480 4742 ※輸入盤

前々から欲しかったが高価でなかなか購入するに至らなかったシノーポリのマーラー全集が安く再発されたというので喜んで買ってみたら、ひどく聴きづらいセットだった。そういう印象をお持ちの人も多いのではないか。こういう組み物こそリッピングで自ら整理して聴くのが一番だと思うのだ。

しかしこのセット、1枚目に第1番と第2番の第1楽章、2枚目には第2番の残り、3枚目は第3番の5楽章までが入り、4枚目は3番の6楽章に続いていきなり7番の3楽章までが入れられ、5枚目は7番の残りに続いて8番の8曲目まで、6枚目は8番の残りに「さすらう若者の歌」が詰め込まれ、7枚目は「大地の歌」全曲に第4番の第1楽章、8枚目は4番の残りに「亡き子をしのぶ歌」、9枚目は第5番の全曲、10枚目は「若き日の歌」より6曲が入ってから第6番の3楽章まで、11枚目は6番の4楽章に9番の第2部まで、12枚目は9番の残りと10番(第1楽章のみ)と、いやはやもう限られたCDの器の中へ効率的に詰め込むことのみを目標とした、シッチャカメッチャカな曲順と途中の仮借ないぶった切りが大きな特徴なのであります。

それにしても上の段落、読みづらいことこの上ないですねぇ。全部読んで下さった方には謹んでお詫び申し上げます。

そんなゴチャ混ぜブツ切りのボックスセットなものですから、私も買ったはいいもののなかなか手が出ないという状況で、しばらくCDラックの片隅でアクビをしていたものでした。

そんな私も仕事柄の必要に駆られ、また個人的な興味もあってPCオーディオを本格的に開始します。あんまりハイレゾ音源を大量に買う予算もないものですから、手元のCDをどんどんリッピングし始めました。そこで真っ先に思いついたのがこのボックスです。リッピングさえしてしまえばあとはこっちのもの、前述の通り曲別にフォルダ分けして整理してやれば、いつでも盤のかけ替えなしに楽しむことができるようになるのです。おかげでこのボックス、今では最も再生頻度の高い音源のひとつになっています。

これはジャズなんかでも全く同じ事情です。ジャズやポップス系のリファレンス・ディスクについてはまた別項を設けますが、リッピング音源だけちょっとここで触れておきましょうか。

この後のエントリで詳述しますが、ジャズのリファレンスで最もよく使っているビル・エヴァンスワルツ・フォー・デビイ」のCDがまた困ったことに、サービスのつもりで別テイクや未採用曲をボーナス・トラックとして収録しています。それらの楽曲自身はちょっと面白いもので、資料的な価値は実に高いというべきでしょうね。

しかし、本テイクに隣接させて別テイクを置いてある構成がどうにもいただけません。おかげで元のLPと曲順が違ってしまい、聴いているとイライラと違和感ばかりが募ってしまうのですね。同じ曲が何回もかかるわけですし。

というわけで、こちらも早々にリッピングしてボーナス・トラックだけ別フォルダへ収めました。これでずいぶん聴きやすくなり、試聴のみならず、執筆時のBGMとしても大いに役立ってもらっています。

また、今時は往年のジャズ・ジャイアンツが残した名盤をまとめて、俄かには信じられないような安値で売っているんですね。先日買ったマイルス・デイヴィスのCD10枚組(LPにして何と20枚組)は何ともはや、1,900円くらいでした。「こりゃ安い買い物だった」と喜んだらそれでもまだ底値ではなく、1,680円なんて値札をつけてる店も後から見かけましたからね。私が買った値段でもマイルスの名盤1枚あたり95円ですよ! 全くもってありがたいというか、ジャズ・ジャイアンツに申し訳ないというか。

Miles Davis Twenty Classic Albums

CD

マイルス・デイヴィス TWENTY CLASSIC ALBUMS
英musicmelon RGJCD246 ※輸入盤

1950年の「クールの誕生」から1958年「マイルストーン」までの20枚を凝縮したボックスセット。音も決して悪くない。かなり真面目に作られた組み物というイメージが濃厚に漂うセットである。

でも、そんな規模の大きな組み物を買うと、通しで聴くのも大変です。そんな時に一番敷居を下げてくれるのはやっぱりリッピング音源にしてしまうことだと思うんですね。最初はかなり大変で、特にアルバム名や曲名を「後から編集すりゃいいやぁ」とばかり最初から入れておかずにいると、必ずといっていいくらい何が何やら分からなくなり、せっかくリッピングしても宝の持ち腐れとなってしまいます。必ず曲名やアルバム名をしっかりと編集してからリッピングすることを薦めます。

そうやってきっちりアルバム20枚分のリッピング音源が整ってから、既に一体私は何回通しで聴いたかしれません。もちろん気に入ったアルバムは何度も単独で聴いていますし、実に快適至極です。

勢い余ってデイヴ・ブルーベックのクラシック・アルバム20枚組も買っちゃいました。こちらは再安の1,680円です。全く同じようにリッピングし、大いに楽しんでいます。

Dave Brubeck Twenty Classic Albums

CD

デイヴ・ブルーベック TWENTY CLASSIC ALBUMS
英musicmelon RGJCD318 ※輸入盤

こちらも音質はそこそこ良好、たっぷりと楽しめるボックスセットである。

思えば、前述のシノーポリによるマーラーやこういうジャズの大きな組み物は、表立っては言わないとしても、レコード会社としては「リッピング用」と考えているんじゃないかと考えられる節があります。件のマーラーなんていくら安くたってそうでもしないと不便でそうそう聴く気にならないんですからね。今はMP3で音源を配信している会社も数多くあり、もちろんハイレゾ音源もたくさん登場してきてはいるのですが、まだまだCDの製盤工場も稼動させないと赤字が蓄積してしまうし、ということで、CDの延命策として「リッピング用CD」というものを売り出しているのではないか、と考えるわけです。

こういう組み物はまだまだあり、私も散々買ってきたし、これからも買っていくだろうと思います。でも、リッピング前提でないとここまで購入意欲は出なかったろうな、とも。皆さんもぜひどんどんCDをリッピングして快適PCオーディオ・ライフを送ろうではありませんか。