わがリファレンス・システム(スピーカー編)2014/02/05 10:46

やっとスピーカーについての解説へたどり着きました。とはいっても現在わが家のリファレンス・スピーカーは大規模な移行中で、書いたそばから変わっていってしまうのはもう致し方のないタイミングではあります。そのあたりは変更があり次第報告していきますから、ここではこれまでの来歴も含めて書き進めていきましょうか。

ちょっと前までわが家ではマルチアンプ構成の超マルチウェイとフルレンジのバックロードホーン(BH)を主としたスピーカーの2系統を鳴らしていました。メインとしていたのは専らマルチウェイの方で、BHは小口径のものが中心だったものです。

メインで使っていたマルチウェイを紹介しておきましょう。ウーファーはフォステクスの30cm口径FW305を約100リットルのバスレフ箱へ入れたものです。ミッドバスは同社の16cmフルレンジFE168Σを逆ホーンという特殊なキャビへ収めたもので、この形式の箱へ入れるとメーカー発表とそっくりのf特になる、すなわち低域がなだらかに下落するので、クロスを設定しやすいのです。スコーカーは英ATCの8.5cm口径という巨大ドーム型SM75-150S-08、同社の3ウェイによく使われているユニットです。トゥイーターはイスラエル製のモレル・サプリーム110という28mm口径のドーム型、スーパートゥイーターは中国オーラムG2リボン型を愛用していました。

ありし日の5ウェイ

ありし日の5ウェイ。隣はフォステクスの13cm純マグネシウム・フルレンジMG130HRを使った作例「ライトヘビー」で、このカットが健在の頃の5ウェイを収めた最後のものとなってしまった。

都合5ウェイ、クロスは下から100Hz、500Hz、2kHz、8kHzで、まぁ大体2オクターブごとに区切っていることになります。最初から機械的に2オクターブと決めたわけじゃなくて、それぞれのユニットの特性を睨みながら、また音を聴きながら得意な帯域、美味しい音を出す帯域をつないでいったらこうなった、といった具合です。これで下は20Hzから上は40kHz以上までコントロール下へ置くことができました。

とはいっても、フラットに躾けてはいませんでした。やろうと思えば簡単なんですが、高域までフラットにすると概して音楽がキツく聴こえるようになるんですよ。それでそう極端にはしないものの、緩やかなダラ下がりにチューニングしてあったものです。チューニングが決まってから、まる3年くらいはリファレンスとして愛用しましたかね。

しかしわがマルチウェイ、世のマルチ派の皆様には「何だその安物は?」と呆れられるかもしれませんね。5ウェイと構成だけは立派ですが、高価なユニットはATCのスコーカーくらいで(しかもそれは友人が貸してくれたものでした)、あとはキャビネット代を含めても1本10万円で収まるくらいのものなのです。マルチ派といったら亡くなられた高城重躬・高島誠の両御大を筆頭に、一体何千万円かけたか分からない、というようなシステムが多いものですからね。

でもわが「安物マルチ」だって、うるさ型の友人や取材に来た歴戦のつわものたる編集子を仰天させるくらいのことはできていましたからね。ユニットの最も美味しい帯域を見抜き、そこのみをつないでシステムを構成させることが可能で、さらに帯域間のバランスも手懐けられるならば、呆れるほど安価なシステムでも十分にマルチの恩恵を味わうことができる、という意味でも実験的なシステムでした。

異変が起こったのはもう5年ほども前になるかな。別段天気が悪い日でもなく、普通に就寝したその夜明け前頃の話でした。突然、至近距離で大きなが落ちたのです。あまりの大音響に飛び起きましたが、その1発のみで雷は収まってしまい、再び眠りに就きました。

朝になって起き出してみると何たることか、マルチアンプ用に愛用していたアキュフェーズのマルチチャンネル・パワーアンプPX-650のイルミネーションが点滅しているじゃないですか。慌てて電源を落とし再びスイッチを入れましたが、2台借りているうちの1台は復帰したもののもう1台は全く変化なし。しまった、落雷にやられてしまったようです。

それでアキュフェーズに修理を依頼した、というのはデジタル&アンプ編で書きましたが、実は被害を受けたのはアンプだけじゃなかったのです。

マルチアンプという方式には2通りあって、一般のクロスオーバー・ネットワークを通して各帯域のユニットへ1台ずつのパワーアンプをあてがうパッシブ・タイプと、チャンネルデバイダー(以下チャンデバ)を使ってパワーアンプの前で帯域を分割した信号を送り、ユニットごとのアンプを駆動するというアクティブ・タイプです。概してスピーカーというものはネットワーク素子が天敵で、特に大きなコイルやコンデンサーを入れると途端に音が鈍くなったり何となくザワついたり音色がまるで違ってしまったりと、あまりいいことにはならないことが多いものです。

それで「理想主義的なマルチアンプ」というとチャンデバを使った方式ということになってしまいます。私も前述の通りアキュフェーズのチャンデバDF-45(後にDF-55)を使ってマルチをやっていましたが、この方式には注意すべき点があるのです。

一般のスピーカーは瞬間的な過大電力が入ってもネットワーク素子がその大部分を吸収してくれるので、ユニットに大きな被害は出にくいものです。最悪、コンデンサーが破損してもユニットの交換よりは安価に収まることが多いですしね。その一方、チャンデバ式のマルチはネットワーク素子が入っていない分、過大電力はそのまま入ってしまいます。とりわけ繊細なトゥイーター類を破損してしまうことが多いので、不整な信号の入力には厳に注意せねばなりません。

そこへパワーアンプを吹っ飛ばすくらいの雷が落ちたのですからたまりません。幸い下の4ウェイまではユニットに大過ありませんでしたが、リボントゥイーターがひどいことになりました。振動板が前へ飛び出して歪んでしまっているのです。試しに音を出してみましたが、8kHzクロスでは何とか普通に聴けるものの、クロスを下げると振動板がビリついてしまってまともな再現は望めません。

歪んだG2

雷にやられたオーラムG2。本来は直線状のリボン振動板が前へ飛び出し、弓なりになってしまっている。この惨状からして、DCに近い大出力のパルス成分が入ってしまったのだろう。

これはダメだと手持ちのトゥイーターをいろいろ引っ張り出してつないでみたんですが、一度上質のリボントゥイーターを聴いてしまうともういけません。割合気に入っていたはずのトゥイーター群が軒並み討ち死に状態となってしまって焦りました。

ND16FA-6

デイトンND16FA-6を載せてみる。1本1,000円ちょっとでこんな豆粒のようなトゥイーターだが、普通のフルレンジなどへ載せると侮れない音質改善能力を発揮してくれる。しかしこの大型5ウェイは荷が重すぎたようだ。高域のみスケールが妙に小さくなり、縮こまったような表現となってしまった。

ちなみにこの時期はスコーカーをフォステクスFF85Kの逆ホーン型にしていたが、結構上手くつながっていた。能率が7dBほども足りなかったのでATCに戻したが、大健闘だったといえるだろう。

もっとも、これはこのマルチアンプ5ウェイとの組み合わせ上でのことです。この機会ではまるで旨味が感じられなかったホーン型のトゥイーターは、BHにとってはかけがえのない相棒となります。オーディオの中でもとりわけスピーカーは相性が大切ですね。

EAS-5HH10

テクニクス往年のホーン・トゥイーターEAS-5HH10も載せてみたが、なぜか上が詰まった感じで、全体に見晴らしの悪い音となってしまった。高能率フルレンジの上へ載せると、超高域まで切れ上がって浸透力高く素晴らしく抜けの良いサウンドになるのだが、相性が悪いとここまで変な音になるのかとショックを受けた。

他に相性の良いトゥイーターが見つからないものですから、仕方なく騙しだまし使っていたリボントゥイーターは、2度目の落雷で完全に息の根を止められてしまいました。輸入元の六本木工学研究所でもオーラムG2は「SOLD OUT」になってしまっているので、これはもう復活不可能でしょうね。

折もおり、2度目の落雷でPX-650が2台とも昇天、さらにチャンデバも返却することになって、ここでいったんマルチアンプの実験は一段落ということになりました。しかしアキュフェーズはもう1台PX-650を都合してくれたし、ここで何とかできないかといろいろ知恵を巡らせることとなりました。

そもそもチャンデバはDF-45も同55も4ウェイまでの対応で、5ウェイとするにはC-AX10内蔵のデジタルチャンデバも併用していました。一番下の100HzはC-AX10で切っていたものです。ところがその周波数はC-AX10が有する理想的なFIRフィルターを使うことができません。ごく一般的なIIRフィルターになっちゃっていたのですね。

ところが、手持ちに2台チャンデバがありまして、2ウェイと3ウェイのモデルなんですが、それらとC-AX10を併用するならば500HzのポイントでFIRフィルターを使用することがかないます。2ウェイは米DODSR835、3ウェイは独べリンガーCX3400という製品で、前者は何と7,000円と少々、後者でも1万2,000円くらいで買えたものです。もっとも、CX3400は友人からの到来ものでしたが。

それに気がついて早速実験してみましたが、音が出た瞬間の「うわ、何だこりゃ!」という驚きをどうやったら皆さんへ伝えられるでしょう。DF-55と比べると情報量がいっぺんにガタ落ちし、静寂に覆われた音響空間だったはずが何だかザワザワ・ゴミゴミと薄汚い感じに汚れています。音色は濁り、音場の見晴らしも薄ぼんやりと抜けません。C-AX10のFIRフィルターの旨味なんて、とても感じられるレベルの音じゃないんですね。

SR835

DODのSR835。1万円もしないで購入したのだから文句を言ってはバチが当たるが、それにしても本機のノイズには参った。一度2ウェイで使用してみたら、アナログのサーフェスノイズよりも遥かに高いレベルで「ジー」と鳴り続けていたもので、早々に撤去してしまったものだった。扱い勝手と耐久性・安定性は非常に良好だから、ノイズなど気にならないPA用途で生きる製品なのであろう。

ひょっとしてエージングで少しは治まってくれるかと思ってしばらくそのまま鳴らし続けていたんですが、数日後にはあまり気にならなくなってきました。果たしてエージングが進んだのか、それとも私の耳がその環境に慣れちゃったのか。多分両方だと思います。

それでまたしても騙しだまし5ウェイを運営してきたのですが、今度はあちこちのチャンネルで音が出たり出なかったり、という症状が出始めました。多chマルチウェイでこれが起こるとトラブルシュートが本当に大変で、チャンデバのせいかインコネのせいかパワーアンプのせいかSPケーブルのせいかSPユニットのせいかを突き止めるだけでも日が暮れます。さらにチャンデバのせいと分かっても接点の導通が悪いのか設定をミスしているのか故障しているのか、故障ならどこがおかしいのか、といったことを突き止めるのに夜が明けます。

CX3400

調子を崩したのはこれ、CX3400である。これも3ウェイの多機能機で、為替が下落した現在も1万2,000円やそこいらで買えるのだから、あまり文句を言うのも酷というものだが、わが家へやってきた個体はたまたま"ハズレ"だったのであろう。

結局どうやら入出力のXLR端子が上手く導通していないのではないかということになり、購入店へ修理の問い合わせをしたと思ったら、「今の為替状況なら修理するより買った方がずっと安いですよ」と回答あり。なにぶんひどい貧乏暮らしでもあり、そう簡単に「もう1台」というわけにはいきません。ここでチャンデバを使ったマルチは万事休しました。

それでもマルチウェイを何とか維持せねばと粘った結果、友人が貸してくれていたコーラルの古いドーム型スコーカーMD-30に思いが至りました。あれは650Hz~10kHzほぼフラットという怪物的なユニットですから、少し余裕を見て800Hz~5kHzで使い、上はフォステクスの純マグネシウム製ドーム・トゥイーターのFT200Dをつないでやります。中域のクロスが少し上がりましたが、ミッドバスのFE168EΣはどうにかこうにか1kHz近辺までピストンモーションで動いているように見えますし、大丈夫だろうという読みがありました。

MD-30ほか

ウェブで拾わせてもらったコーラルX-IIIのユニット写真。左上のスコーカーがMD-30である。

チャンデバがなくなっちゃったものですから5kHzのクロスはパッシブで切ります。手持ちにちょうどよいネットワークがあったのでその流用です。都合、4ウェイでアンプは片側3chの変則マルチアンプ・マルチウェイとなりました。

FT200D

フォステクス FT200D ¥18,000(税抜き)

フォステクス独創の純マグネシウム振動板を持つリッジドーム型トゥイーター。小柄な割には結構な価格の製品だが、今これほどの自然さと伸びやかさを持つトゥイーターはなかなかない。少々能率が低めで、リボントゥイーターよりはやや大人しめだが、私が今最も信用するトゥイーターの1本である。

これは非常に好ましい表現を聴かせてくれたセットでした。C-AX10のFIRフィルターでMD-30の下を切った効果が存分に出て、伸びやかで高品位なサウンドです。下のクロスに使っているDODは相変わらずノイジーなんですが、ノイズは専ら中高域が耳につくものですから、この使い方ではそう気になりませんでした。

このままリファレンスを任せることができるなと思ったのも束の間、今度はC-AX10が手元からなくなってしまい、これで完全にマルチアンプ・システムは瓦解してしまいました。改めてわが家の装置がどれほどC-AX10に依存していたか、痛感させられます。

さらに、以前「オーディオベーシック」誌で作った20cm口径の"鳥型"BH「シギダチョウ」をフォステクスで保管してもらっているのですが、「そろそろ取りにきてもらえませんか」と依頼があったのでさあ大変。あれは部屋へ収められることを優先して設計した作例ですが、それでも相当に巨大です。あれをわがリスニングルームへ導入するなら、100リットルのウーファーなんてとても使ってはいられません。

シギダチョウ

1997年に製作した故・長岡鉄男氏の「モア」はこれまでのわが生涯で最高の音を聴かせてくれたと今なお信じている。担当編集者だった私は「これ、私が使います!」と手を挙げれば持って帰ることができる立場だったのだが、あまりの巨大さに断念したことがずっと重い後悔となってのしかかっていた。それを拭い去るべく、「部屋へ入れられるモア」を目指して設計したのがこの「シギダチョウ」である。幸い設計・製作とも上手くいったようで、現在のところ「わが最高傑作」と胸を張って言い切ることができる。

そこで当時の「ガウディオ」編集部に頼み、「自作スピーカー差し上げます」というページを作ってもらいました。希望者がハガキを下さっていると思うのですが、その後雑誌がなくなったりのドタバタでまだ作業が全然進んでいません。ずいぶん遅くなっちゃっていますが、ハガキを出して下さった方はもう少しお待ち下さいね。

そんな状況だからいまだ100リットルのキャビはわが家にデンと腰を据えたままで、しかも音が出せないという困った状況に陥っています。仕事にも使うリファレンス・スピーカーは、これも前にオーディオベーシックで作った「エアホーン」をつないでいます。20cm口径のBHながら音道が1mもないという超変則スピーカーですが、40Hzくらいまで深々と伸び、超ハイスピードのサウンドが心地よい作例です。ただし部屋に左右される度合いが大きく、またセッティングも非常にシビアなものですから、「ビギナーでも製作可能の上級者向きスピーカー」ということになってしまっています。

エアホーン

現在の暫定リファレンス「エアホーン」。長岡氏はどんどんオーディオの"常識"を打ち破り、数多くの独創的なスピーカーを製作してこられたが、私もこの方式はこれまでの常識を打ち破るものと自負している。何といってもBHなのに音道が1mもなく、それでいて40Hz近辺まで深々と低音が伸びているのだ。これもわが記念碑的なスピーカーだが、なにぶんこの巨大さなものでちょっと部屋には置ききれず、残念ながら手放すこととした次第だ。

このスピーカーも希望者にお譲りする手はずにしているんですが、「シギダチョウ」がくるまでは手元から離すわけにいきません。希望者の方、こちらももう少しお待ちを。

とまぁ、本当にドタバタの「工事中システム」ですが、何とか今年中にはもう少し安定させたいと願っています。目指すは「シギダチョウ」とマルチアンプ実験システムの両立! 頑張らなきゃ。